29話 再び着火された心の灯火
次の瞬間、颯馬を勢いよく突き飛ばした影が一つ。手加減なく飛び込んで颯馬がよろけて派手に転ぶ。
(何が起きた……? 俺は、誰かに助けられたのか?)
すぐにラフィアを見るが、そこには未だに気絶している赤髪の天使の姿が映るのみ。
「……っ!! リーナ、どうして……!」
「あ、あはは。つい身体が動いちゃいました……」
颯馬を突き飛ばして庇った影の主は、度々ラフィアと颯馬を影からサポートしてくれていたリーナだった。
すぐに立ち上がり怪我が無いか駆け寄るが、その途中で気づいてしまう。
突き飛ばした弾みで倒れ込んだリーナの足元から既に大量の血が流れ落ちていることに。
リーナは良いところの家に生まれた人間。特別な力はない。
魔力弾が身体を貫き、力なく笑っているリーナの下へ辿り着く。その数メートルの距離が、颯馬には現実感の無い焦燥感からか果てしなく遠く感じた。
「リーナ!!」
「颯馬さん、無事ですか……?」
「ああ、俺は無事だ! だけどアンタは!」
「そうですね、お腹に穴が空いちゃいました……へへへ……。……っ!」
痛みを誤魔化しているのか、これから死が近づいていることに実感が無いのかは颯馬にはわからない。そんなことよりも、すぐに治療をしなければリーナが死んでしまう。
自分のせいで人が死ぬ。
颯馬には初めての罪悪感が身体中を蝕んで全身が急速に冷えていく。
それでも声をかけずにはいられなかった。
「リーナしっかりしろ! リーナ!」
力なく気を失いかけて倒れ込むリーナを大事そうに抱える。
「颯馬さん。これは私からの呪いになってしまう。身を挺してあなたを守ったのは、私がやりたかったこと……。だから、気にしないで」
リーナの小さな声が掠れ、颯馬の頬をリーナが優しく撫でる。
「なんで! そんなこと言っても、俺達……!
そんな……!」
命を投げ出すくらい関わりはなかったはず。
そう言いたい気持ちをグッと堪える。
これから遠くへ逝ってしまうリーナには、あまりにも残酷すぎる言葉だから。
「わかっています……。っ!! はぁ……、でも、私にはあなたが眩しく見えた。
あの人の後ろをついて行く、世界を何とかしようとしている貴方が、私には……、眩しかった」
痛みに耐えながら、喉から溢れる血が音を立てて薄く笑っている。
その時、一つの可能性に気づく。
内側の悪魔なら、死にかけている人を治せるのではないか。
心の中で呼びかけようとした時、握っていたリーナの手が僅かに颯馬を掴んで僅かな力で握られた。
「駄目ですよ、そんなことしたら。怒りますから」
先回りしてリーナが微笑を浮かべつつ拒否する。懇願するような表情で言われ、颯馬自身リーナを一際強く抱きしめるしか出来なかった。
「ごめん……、ごめん!
俺がやるべきことを出来なくて、それをリーナに押し付けて。本当に……!!」
「ふふ……、軽口を言ってください。
それが貴方の魅力なんですから。また、笑って……?」
今際の際を彷徨っているリーナ目掛けて、細い針のような魔力弾が側頭を貫いた。
音もなく、力なくリーナの頭が颯馬の腕の中で沈黙する。光を失った瞳孔から一筋の涙が頬を伝い、颯馬の頬に触れていた手が力なく落ちる。
現実感の無い光景が、颯馬の視界を遠く狭めていく。
「あぁ……。あああ……!!」
自分のせいで、俺のせいで。
ぐちゃぐちゃになった感情を更に逆撫でするように、アリストルに言葉を投げかけられる。
「やれやれ、ようやく口を閉じましたか。どうしてこうも天命が定まっている種族は生き死にで感情が揺れ動くのか……。全く理解出来ません。ですが安心して下さい颯馬君。
すぐに貴方もえーっと、どなたでしたっけ? 貴方に無駄に命を捧げた方の名前は?
まぁともかく、同じ所に送ってあげますよ。今すぐにね」
まるで着火されたガスバーナーのように、颯馬の中で何かが着いた。溢れんばかりの感情の濁流が押し寄せ、颯馬はゆっくりとリーナを横に降ろして一言。
「リーナだ」
「はい? 何です?」
「お前が今イタズラに止めを刺したのはリーナだって言ってんだ!
これからもう死んでしまう人にわざわざ止めを入れたのは、リーナだ。誇り高く気高い人だ……! このクソ野郎!!」
颯馬の身体から青い魔力が止めどなく溢れる。
それを見たアリストルは怪しい笑みを浮かべた。




