23話 唯ならぬ者が奏でるマリオネットダンス
相手は通常の悪魔だ。
修行をクリアした相棒なら負けるはずがない。
「颯馬……」
不意に出た心配の言葉。
アレンは荷物をまとめてラフィアに声をかける。
「様子を見てきてはどうでしょうか?」
「なら、アレンさんも一緒に」
「私が御身に触れるなど畏れ多いですよ。
大丈夫です。これでも小さい頃はここまでくるのは日常茶飯事でしたから」
少し迷ってから、ラフィアは申し訳なさそうに重い口を開いた。
「すみません。私は颯馬の様子を見てきます。
必ずすぐに戻りますので、アレンさんは隠れていて下さい」
「わかりました。どうかご無事で」
「あなたも」
そうしてラフィアは未だに戻らない颯馬を迎えに行くために純白の翼を広げて飛び立つ。
空の色は夕日と青が入り混じった、不気味な色を映していた。
颯馬が手早く通常の悪魔を倒し、ラフィアの下へ帰ろうとした時、白装束の男が声をかけてくる。
間違いなく宗教団体の格好をしている姿を見て、颯馬は苦い顔をしたと同時に疑問を感じた。
(こいつは何のために声をかけた?)
「お初にお目にかかります。
天使の寵愛を受ける者よ。
私はラフィア様の後援を担っております、ルインズと申します」
「バカみてぇな格好した奴が俺に何の用だ。
それにお前、俺を初めて見たわけじゃねぇだろ。『逆さまの世界樹』で俺を見てやがったはずだ」
「おやおや、お気づきになられていましたか。
あなたの力は素晴らしかった。
日本の猿共と同じにしておくには惜しい。
そこで私達、団体は葉山颯馬様。あなたをお迎えするべくこうして参った次第です」
(突っぱねるのは簡単。
だからこそコイツが何の腹づもりで接触しに来たのかくらいは探っとくか)
瞬時に表情を明るく繕って、颯馬は言葉を返す。
「そうか、俺が強いのを理解してここまで来たわけね。
一個確認だ。それはラフィアの願いを叶える手伝いをするために、えーっと、ルインズさん? が来たんだよな?」
「勿論でございます。
私は忠実なる使徒とでも言うのでしょうか。
ラフィア様が千年もの間、戦っておられた中で団体も付き添っておりました。
だからこそ、こうしてイレギュラーのあなたの存在は非常に貴重です。
我々はずっと歯痒い思いをして参りました。
しかし! ここで来たる時に向けて運命の歯車がようやく動き始めた!
あなたがこちら側に来ていただければ、ラフィア様のためになるのですよ!」
「なるほど。俺としちゃあラフィアのためになるなら喜んで協力するぜ」
「左様ですか! では……!」
「だが、俺はアンタに着いて行って一体何をすればいい?
そこを教えてもらって初めて力を貸せるってもんだろ?」
「ここでは説明が難しいので、どうぞ私へお捕まり下さい。転移しますので」
「転移?」
「ええ。私達団体は魔法の行使が出来る者がおります。さぁ、どうぞ手を」
「人間で魔法を使える奴がいるなんてな。
アンタやっぱり何者だ?」
「ですから私は後援の宗教団体と」
「そうじゃねぇ。やっぱりお前達は頭のネジが何本か飛んでるようだな。
いや、人間としてのネジが飛んでいるのか。
俺と同じ適合者か、人間そのものじゃないのかはわからんが、ただの宗教団体の末端とは到底思えねぇ。
ルインズさんよ、もう一度聞くぜ。
俺はそんな気色の悪りぃ連中の下で、何をすりゃいいんだ?」
「どうやら警戒されている様子。
やれやれ、こうなっては仕方ありません。
半殺しにして連れて帰るとしましょうか」
「ハッ! やだね。
帰ってクラッピーを食わなきゃならないんでな!」
白装束の男が空中に腕で円を一度だけなぞると、青白い軌跡が残り、消えずに描かれた。
パチンッ!と両手を叩いて円にかざすと、颯馬の見たことのない文字が外周から中心に向けて刻まれていき、その円の中から通常の悪魔が現れる。
「……!!」
(どっから悪魔を呼び出した……!?)
「さて、では闘争を始めましょうか」
「そんな雑魚を一体だけ呼び出して、今の俺が止められると思うか?」
「さぁ? では試してみましょうか」
一瞬で颯馬が呼び出された悪魔までの距離を詰め、右アッパーの一撃を放つ。
大型の悪魔である弱点である、頭部を捉えたはずの必殺級の攻撃は、粉々に粉砕して勝負あり……、のはずだった。
「へぇ、通常種とは思えない防御なんて行動をとるとはな」
悪魔の両手が颯馬の攻撃を受け、数十センチだけ交代する。
それから足技を絡めた連続攻撃を仕掛けると、不恰好ながらも反撃を返してくる。
(コイツ……、ただの悪魔じゃねぇな)
一旦距離を取り直し、ルインズと名乗った白装束の男を横目で確認すると、両手から光に反射するように何か悪魔に伸びている。
「なるほどな。お前、コイツを操ってるのか」
「おや、よくわかりましたね。
たった一度のやり取りでもうカラクリに気付きましたか」
夕暮れが訪れ、心の中で得体の知れないこの男から感じる嫌な気配に反応するように流れる汗を、颯馬は鬱陶しそうに拭う。
(悪いラフィア。帰るのは少し遅れる)




