表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/37

21話 修行の成果と不穏な影の笑み

「絶対に鬼だろ……、鬼天使」


「なんだか強そうじゃないですか。私は鬼天使でも構いませんよ?」


「なんでちょっと嬉しそうなんだよ。

 まあいいや、これを後六回ね」


「文句はあまり言わないのですね」


「そんなもん、言ったところで早く強くなれるわけでもねぇし、そこは気にしてねぇよ」


「あら、やっぱり最近は素直」


 地獄のトレーニング、ほぼ睡眠なしの極限状態は颯馬の身体を更に強靭にする。


 変化に気づき始めたのは四日目の修行終了時。

 丸一日のラフィアとの手合わせで息が上がってから、整うまでの時間が短くなっていた。


 そして更に次の五日目、悪魔ゾルダートとの戦闘を終えた颯馬が戻ったのは、まだ月明かりが煌びやかに輝き、無数の星々が図形を描く頃。


「今日は早かったですね。疑うつもりはありませんが魔石はちゃんと持ち帰っていますか?」


「ほらよ」


 バラバラと乱雑に置かれた大小様々な青い魔石は、確かに五つ机にあった。


 この時ラフィアは成長スピードが予想より速いと認識を改め、六日目の朝に準備運動を始めている颯馬に向けて一日短縮した修行メニューを示す。


「颯馬。体力はもう万全のように見えますが、自分の感覚としてはどうですか?」


「ああ、最初はこんな修行寝る時間もねぇし、体力が保たないと思ったが今日は万全だ」


「それはよかった。

 本来であれば後一日同じメニューをこなしてからと考えていましたが、期間を繰り上げても問題なさそうですね」


「まだ難易度上げるつもりかよ」


「この前二人で調査に向かった『逆さまの世界樹』は覚えていますね?

 今日はあのモニュメントを一人で責めてもらいます」


「行く分には構わねぇが、この前みたいに知らないトラップが出てくる可能性もある。

 ちょっとリスク高くね?」


 心配ではなく、どこか達観したように戦力を見定めている颯馬に、ラフィアは感心していた。


「ちゃんと自分の力量を理解し始めているのは素晴らしいことです。

 だからこそ、出来るかわからない難易度を達成することで、またあなたはもう一段階高みへと昇れる。


 急激な身体の変化に意識がまだ追いついていないでしょうが、擦り合わせることも込みで挑戦してきて下さい」


「そんなもんか、わかった。

 んじゃ行ってくるわ」


「武運を祈っています」


「おう、じゃあな」




『逆さまの世界樹』は前に頂上付近が閉じて形を変化させていたが、颯馬が約一週間振りに訪れると元に戻っている。


 まるで生き物を飲み込む食虫植物のように、口を開けて獲物が入ってくるのを待っているようだ。


「さて、それじゃいくか」


 入り口から足を一歩踏み込んだ瞬間、嫌な感覚が倍加したような重苦しさを肌で察知しながら、今度は入り口が閉じて外界と隔絶される。


「逃さねぇってわけか」


 この『逆さまの世界樹』の反応から察するに、隙間から逃げたらまたどこからともなく悪魔ゾルダートが集結してくるだろう。


 颯馬は意を決し、一度登った正規のルートを使って歩みを進める。すると、入ってすぐに歓迎の挨拶が聞こえてくる。


 パンッ!


 ハンドガンの銃撃にも似た軽めの破裂音が一発、頭上で鳴った。


 人間の死角である頭上からの攻撃は、颯馬の頭部を正確に捉えるはずだった。

 しかし、これを焦ることなく後ろへ無意識に飛んで回避する。


 煙が足場から上がっており、鉛玉が着弾したような跡が残っている。

 ここで颯馬のスイッチが完全に戦闘へと切り替わった。


 身を屈めるわけでもなく、常人がただ跳躍する動作のみで空中へ身を送る。


「やべ、これでも跳びすぎか」


 目標よりももう一つ上の天井部の枝へ、身を反転させて足で着地。

 何度か枝を経由して嫌な感覚が近い地点へ、ポッケに手を突っ込みながら跳躍を続けると、すぐに二発目を発射したと思われる音が響いた。


 今度は音が鳴ってからすぐに着弾するが、既に颯馬はそこにはいない。


 感覚的に掴んでいた位置も、二度の銃撃で完全に把握し悪魔ゾルダートの目の前まで高速で現れる。


「やっぱり変異体だな」


 得意の足技ではなく、右ストレートが変異体の悪魔ゾルダートを顔面ごと粉砕する。


「マジか」


 硬い物を殴りつけた反動のようなものがあったが、頭部が消し飛んだ変異体の悪魔ゾルダートが紫色の魔石に還ったと同時に、自身の変化に気づいた。


「ここ一週間はずっと通常の悪魔ゾルダートだからわからなかったが……。俺、もう内側にいる奴の力借りなくていいじゃん」


 自身の成長を今ようやく実感し、殴りつけた右手を開いてから閉じる。

 何度か確かめるように目で見てから不敵な笑みを浮かべた。


 そこから先は早かった。

 石碑がある中心の大空間まで辿り着き、十体以上いる悪魔ゾルダートと、人型のように小柄でありながらも引き締まった肉体を持っているように見える変異体が一体。


 足はまるで発達した四足獣のような、およそ脚力に特化していると思わせるシャープなフォルムをしている。


「これが最終試験ってわけね」


 始めて挑んだ時と同様に、変異体は通常の悪魔ゾルダートの後ろに立っている。

 しかし、知性が高い分いつ襲いかかってきても遅くない。


 少しの期待と焦りが入り混じった感情を抑えつつ、颯馬はあえて早期決着ではなく長期戦を選んだ。


 この一週間は戦闘経験を積むよりも、自身の瞬発力の継続向上が狙い。

 ならば今、颯馬がやるべきは瞬間的な決着ではなく、この俊敏な敵を追いかけつつ敢えて長期戦に持ち込み、真っ向から対峙して屠ってこそ修行達成と言える。


 通常の悪魔ゾルダートを一撃一殺で数を減らしながらも、動きを見せない変異体から注意を逸らさずに倒していく。


 残り三体になってから変異体が動いた。

 颯馬の背後を取ろうと俊敏性を発揮し、水平の体制で空中へ留まりながら連続のドロップキック。


「ってぇな!」


 躱すのではなく両手で顔をガードして受け切り、ズシンと身体にのしかかる重みに耐えつつも、地面の摩擦を受けつつ後退りする。


 乱暴に振り払うと、変異体は空中で一回転して片足で地面に着地した瞬間、外周を回るように再加速して撹乱してくる。


 静と動を意識し速さに慣れないような工夫、もとい知性が見え隠れする。

 颯馬も合わせるように変異体の後ろへ高速で走り寄り、反撃の機会を伺った。


 しかし、追いつかれると判断したのか変異体は『逆さまの世界樹』の枝に何度も飛び移りながら三次元的な動きに変わる。


 いくら知性が高くとも、行動の先読みに関しては人間である颯馬が上。


 変異体の飛び移り場所に先回りした颯馬が待ち構える。慌てて急停止した変異体の脇腹を完璧に捉えた颯馬の蹴りが、変異体を石碑近くの地面に叩き落とした。


「見た目によらずやっぱり頑丈だな」


 そんな進化した颯馬の動きを見てを笑みを溢したのはラフィアではなく、身元不明の男。


「素晴らしい力だ。

 これで計画が進められる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ