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18話 内なる声の衝動が響く

 ラフィアの直感が警鐘を鳴らす。

 その危機感はすぐに現実のものとなって現れた。


「颯馬! 一旦離脱します!

 すぐに私に捕まって!」


「は? 何言って……」


 ラフィアの言葉と同時に、太い木の枝がガタガタと揺れ始める。


 思わず体制が崩れて手を枝につくと、頂上の枝が中心の石碑に向かって先端から徐々に折りたたまれていく。


「こいつ動くのか! ラフィア!」


「私も知らないトラップです!

 すぐに魔力感知範囲を!……っ!」


 ラフィアの表情に焦りが見える。

 颯馬は軽いパニック状態になっている相棒の変化にすぐに気づいた。


(ラフィアも知らない事件が起きてるのか……!)


「颯馬! 周囲から悪魔ゾルダートが集まってきています! どうして……!」


「嘆いている時間はないぞ。どうするんだ?

 一旦離脱か、ここで悪魔ゾルダートを根こそぎ狩るか! お前が決めたならとことん付き合うぞ」


「私は……、討伐したいです。

 それで少しでも被害に遭う方が減るのなら!」


「よし、なら皆殺しと行こうぜ」


「こら、口が悪いです」


 こういう時に、軽口を飛ばしてくれるのは本当にありがたいとラフィアは感じ、一旦メンタルがニュートラルに戻る。


 軽いパニック状態から脱し、もう一度魔力の感知範囲を広げると、いた。

 日本で出会った変異体と同じ魔力の質を伴った相手が二体。

 その他通常の悪魔ゾルダートが二百を超える。


 配置は通常の悪魔ゾルダートに守られるように奥へ座るようにして動かない。


 徒党を組まれると厄介な変異体だが、颯馬と一緒なら切り抜けられるとラフィアは思った。


 戦闘が始まってから三十分が過ぎ、討伐した悪魔ゾルダートの数は五十を超え、息が上がってくる。


 ラフィアは颯馬の体力の消耗を考えながら、討伐のペースを抑え気味に調整はしたが、疲労の色は表情からも見て取れる。


 まだ万全の状態の変異体が二体に加え、減っているかも目視ではわからないほどの通常種。


(やはり一旦下がらないと、颯馬の体力が保たないか)


「颯馬! 一旦あなたは下がって体力の回復を!」


「了解」


 あっさりと前線を下げて後方へと下がり、座り込んで荒い呼吸を整える。

 颯馬はこの時、人間の限界を感じていた。


「クソが」


 吐き捨てるように与えられた役割をこなせなかった自分に悪態を吐いた。

 その時、一度甲斐田に付けられた腕輪を引きちぎった時に解放した、悪魔の心臓の声が心の中から実体を伴って聞こえてくるようだ。


『お前がぐちゃぐちゃにしたい物は何だ?

 破壊したい物は何だ?

 俺を一度解放したんだ。二度目は簡単なはずだ! 

 この声が聞こえているのだろう? 

 さぁ願え! お前が求める力を!』


「うるせぇぞ。お前は黙ってろ」


 影のような声の主を退けてすぐに戦闘に戻ろうと立ち上がった時、何故かラフィアが颯馬に向かって駆け出している。


 理由はすぐに理解した。

 背後から歯がいじめに拘束するように颯馬を締め上げ、骨を砕かんとギチギチに圧死させようとしてくる。


「て、てめぇ……さっきまで、奥にいた癖に……! 俺が足を引っ張っていることを、理解してやがるな!」


 更に強められる力は颯馬の声を封殺する。


(来るなラフィア……! 俺はお前を誘き寄せるための餌だ)


 ギリギリと奥歯が欠けるほど噛み締められ、颯馬が込めた全身の力は、拘束している変異体の腕に隙間を作っていく。


「オオォォォォォオ!!!」


 拘束から抜けた瞬間に身体を回転させ、渾身の回し蹴りで変異体を数十メートル以上吹き飛ばして着地する。


「颯馬! 大丈夫ですか?」


「あぁ、何本か骨が逝ったが平気だ」


「全く平気じゃありません。ヒーリング」


 回復魔法で複数折れた骨が戻っていく。

 しかし、ラフィアは颯馬の変化を敏感に捉えていた。


「颯馬。その目の色……やはり内側にいる悪魔ゾルダートと言葉を交わしましたね?」


「い、いや」


「嘘はつかないで下さい!

 それくらいわかります。何度目ですか?

 内側にいる悪魔ゾルダートと会話したのは」


「二回だ」


「二回も……、いいですか? 金輪際はその言葉に耳を傾けるのは禁止です。

 声が聞こえてきても無視して下さい。

 今ここで約束を!」


「わかったわかった。約束する。

 それよりも悪魔ゾルダートがまた来るぜ」


「本当に破っちゃダメですからね」


 二人が悪魔ゾルダートの群れに向き直った時、後ろにある石碑がチラッと視界に入る。


 ラフィアは石碑を見ると、それを隠すようにもう一体の変異体が移動してくる。


(石碑を守っている?

 いや、私の意識から石碑を除こうとしているのか)


「颯馬、考えがあります。どうやら中央にある石碑が何か鍵を握っているようです。

 一度確かめたい。身体はもう万全ですね?」


 首や肩をゴキっと盛大に鳴らして力強く答える。


「おう。もう治ってる。

 だけどよ、一直線に道を開けるにはちっとばかり火力が足りねぇ。

 途中までなら行けるぜ」


「それで構いません。お願いします!」


「よし、人使いの荒い天使様に応えるとするか」


 ふぅっと大きく息を吐き出して前傾姿勢を取り、一気に加速する。

 石碑までの距離は残り五十メートル。

 悪魔ゾルダートを蹴散らしながら進んでいく。


「貫けぇえええ!!」


 口では火力不足と言いながら、やる時は変異体どころではなく石碑まで砕くつもりで繰り出されたドロップキック。


 だが、石碑の目の前で待ち構えていた変異体を、数メートル後退りさせてから勢いが完全に殺された。


「神剣・刹那!」


 ラフィアが交代するために必殺の剣を呼び出すが、変異体に足を掴まれて投げ飛ばされた颯馬が背後にある世界樹の枝に叩きつけられ、額から赤い血が流れ落ちる。


 ラフィアは反射的に助けに行こうとするが、颯馬の檄で我に帰った。


「俺のことはいい! お前は最後の悪魔ゾルダートを!」


 翼へ魔力を通して瞬間的に増幅した魔力を神剣に乗せ、赤い魔力に覆われた一閃が変異体の悪魔ゾルダートの首を易々と断ち切った。


 石碑に触れて、一度は読み取ることができなかった文字に再度目を通すと、驚愕の記述がラフィアの思考を遅らせた。

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