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15話 瓦礫の中に高級スイートルーム?

「こんな日本よりも荒れてる所に本当に泊まれるところなんてあるのか?」


 颯馬が退屈そうに瓦礫の破片を蹴りながら尋ねる。


「もう少しで着きますよ。ほら、見えてきました」


「ここ……? マジで?」


「大マジです。さっ、行きますよ」


 見たところただの瓦礫の山にしか見えない塊に一つだけ、壊れかけのドアが立てかけられているように見える。


 ラフィアは遠慮なくドアノブを回して中に入ると、そこは薄暗く狭い階段が続いている。

 静かに降りて行くと、オレンジ色の電球が点在している室内と形容してもよい部屋が広がっている。


「まるで別の空間に来たみたいだな。

 外からは想像つかないわ」


「でしょう? あなたをここに連れてきたかったと前から思っていたのですよ」


 颯馬が部屋全体を見回すと、そこには遊戯場として使われているようなテーブルが三台ほど並び、天井は高くないが照明もちゃんとついている。


 明るくはないが、落ち着いた雰囲気を演出するための仕掛けだと直感的にわかる。


「ここがアメリカの宿か」


 いつの間にか隣にいたラフィアがいないことに気づき、少し慌てて奥にあるカウンターで一人の長身男性と話しているの見て追いかける。


「ラフィ……」


 声をかけようとしたその時、自分の知らない言語で話をしているラフィアにある種の距離感を感じつつ、隣に歩いて向かう。


「なぁラフィア。この人なんて言ってんの?」


「あぁ、そうですね。

 颯馬は日本語だけしか話せないのなら理解できないのも仕方ありません。

 今、私の理解している言語を自動翻訳しますね」


「相変わらずなんて話してるか……は分からないのに意味だけわかるぞ! なんだこれ気持ち悪!」


 耳を押さえながら混乱する颯馬を見て、男とラフィアが仲良く一緒に笑っている。


「あっ! このやろう笑いやがったな?

 人を笑い物にしてる奴はこうしてやる」


「えっ? 何ですか何するんですか!

 あっ! 不敬です! 天使に向かって頭をグリグリと締めるのは! 

 痛い! もう笑いませんからやめて!」


「わかればよろしい」


 頭をさすりながら涙目でキッと睨んで抗議の目線を送るが、颯馬は明後日の方向を向いてスルーしている。


 だが、それを見て長身男性は我慢できなくなったのか、口元を押さえて込み上げて上品に笑っている。


「なんだ? アンタもグリグリしてやろうか?」


「やめなさい」


 ラフィアが颯馬の頭を軽く叩くと、上品な笑いはどこへやら。今度はゲラゲラ笑い始める。


「お前面白いな! 言っていた通り不遜で不敬だが、ここまで砕けた雰囲気のラフィア様を見るのも初めてだぞ。

 いやー、いいもん見れたわ。だがよ……」


 笑いから一変し、執事服に身を包んでいる金髪の男から圧のようなものが放たれる。


「俺がラフィア様の宗教団体の構成員だったらお前はこの場で首チョンパだ。それはわかってるんだよな?」


「あ? 何だお前?

 ラフィアに迷惑かけてる団体の一員なのか?

 それに誰を首チョンパするって? 

 いいぜ、やれるもんならやってみろよ」


 臨戦体制に入る颯馬を感じ取り、執事服の男が半歩下がる。

 見かねたラフィアが手を叩いてその場を収めた。


「はい、それまで。こんなところで戦闘なんてしたら、代々あなたが先代から受け継いでいたものが無くなってしまいますよ。アレンさん」


「これは失礼を、ラフィア様。

 少しだけこの少年を確かめたくなりまして。

 出過ぎた真似をしました。お許しください。


 ただ颯馬だっけ? お前、言動だけじゃなく戦っても強いだろ?

 流石ラフィア様が付き人にするだけあるわ」


「チッ、なんだ演技かよ。

 めんどくせぇから今後はやめてくれ」


 颯馬を見て遅い自己紹介を始め、片手を出した。


「俺はアレン。ここの宿、もといラフィア様がアメリカで戦う時の羽休めとして使われている宿のオーナーをしている。

 確か、えーっと……五代目だったかな?」


「いえ、六代目ですよ」


「あれ、そうでしたっけ?

 まぁともかく、ここなら悪魔ゾルダートの出現頻度の高いアメリカでも何百年もセーフティゾーンとして役割を果たしている。

 安全は保障するぜ」


差し出された手を少し強めに握り返すが、格好とは裏腹にゴツい手でしっかりと握り返してくる。


「なんでラフィアの方が覚えてるんだよ。

 しかしなるほどねぇ、確かに地下なら奴らも手を出してこれないってわけか」


 短い金髪を揺らし、大人の色気を醸し出してウインクをするアレンが、ざっくりとアメリカ国民の暮らしについて解説してくれる。


「そう。地上に人間が出てこないのはそれが大きい。命の危険が及ばないように、俺達はこうして大昔に地下へ住処を移したってわけさ。


 悪魔ゾルダートの発生が少ない日本とは随分と文化が違うだろ?」


「なんかモグラみたいな生活だな。

 だけどよ、食い物とかこの電球の交換とか、生活で困ることが多いんじゃねぇの?

 その辺どうやってんの?」


「まぁ国は広いが人間はさほど多くないからな。だがインフラ系統は人を割いているから安心していい。

 問題は外でたっぷりと陽光を浴びないと育たない酪農や作物だが、これは中心部ではまず無理だ。


 悪路に特化した車を使って田舎で作ったものをここまで運んで来てるって訳よ。納得したかい?」


「この国で住むのはマジで大変そうなのはわかった。 そこでラフィアの支援なんて尚更だろ。

 悪魔ゾルダート達はラフィアに吸い寄せられるんだからな」


 申し訳なさそうにラフィアが軽く頭を下げる。


「アレンさんの一族には本当に感謝しています。もちろん危険がつきまとうので、多めにお金は支払っていますが、命あっての商売ですので……」


「いえいえ、私は小さい頃にラフィア様に助けられてきましたから、その恩返しがしたいだけですよ。


 颯馬も言葉を慎め。

 いくら心を許していても、安易に言っちゃならんことがある」


 ラフィアをチラッと見ると確かに表情が暗く見えるのを感じ取り、颯馬はそっぽを向きながら一言だけ謝罪する。


「すまん。言いすぎた」


「あら、珍しく素直じゃないですか。

 少しは気遣いを覚えたのですか?」


「うるせぇ……」


 ラフィアは微笑んで、アレンに部屋を二つ用意してもらおうと頼んだが、既に客室が埋まっているようで申し訳ないと謝られた。


「客室は一つ……ですか」


 ラフィアが神妙な面持ちで考え込んでいると、颯馬が踵を返して出口に向かう。


「どこ行くのですか?」


「どこって、外だよ。

 部屋はラフィアが使ってくれ。俺は元々野宿生活だったんだ。気にしなくていい」


「あぁもう! 悩んでいたのが馬鹿らしくなるじゃないですか!

 ちゃんとあなたも休んで下さい。

 部屋は一緒に使えばいいのです」


「いや、流石にそれは」


「いいではないですか。

 前に一度は夜を一緒に明かした仲なのですから」


「誤解を招く言い方をするな。

 アレンが固まってるじゃねぇか……」


 強引に颯馬の腕を掴んで部屋へと入るラフィアを見て、正気を取り戻したアレンは短く口笛を吹いて、濡れたグラスを丁寧に拭き直し現実から目を逸らした。


部屋にはエントランスと同じく落ち着いた照明が待ち構えており、颯馬は少し表情が歪む。


「マジか……」


「何がですか?」


「いや、こんな狭い所で本当に二人で寝るのか? やっぱり俺は外で……いて。何すんだ」


 背後から後頭部を軽く叩かれて反射的に悪態を付くが、気にすることなくベッドに座るラフィアを見て気分が悪くなる。


「意識しすぎです。なんだかこっちまで恥ずかしくなるではありませんか」

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