13話 空中散歩、悪魔の足場を添えて
「何から何までありがとうございました。
このお礼はいつか必ず。
シエルさんのこと、お願いします」
「お任せ下さい。お気をつけて!
颯馬さんも頑張って!」
「どうも」
扉が勢いよく閉まり、二人のパイロットは付近に悪魔の反応が無いことをレーダーでチェックしてから機体を発進させる。
少しずつGが加わりラフィアは落ち着いて目を閉じていたが、隣でシートベルトをギュッと握っている颯馬を見て少しだけ身体を近づけた。
「なんだよ?」
「いいえ、別に」
窓の外を見るとそこは水平線の彼方まで青い海が広がり、機体が安定したタイミングで颯馬が息を吐き出した。
イルカと思われる群れが二人を見送るように優雅にジャンプしながら泳いでいる。
十時間以上にも及ぶフライト。
ラフィアと颯馬はしばらくしてから昼寝を始めていたが、ピクっと何かを感じ取ったラフィアは目を覚ました。
「機長様。悪魔です」
「いえ、ラフィア様。レーダーには何も……い、いや確かに今レーダーに反応がありました。
流石は天使様です。
人類の推を集めた機体なのですが、まだまだ敵いません」
「扉を開けて下さい。
先に行って討伐してきます。
進路はそのまま、迂回はしなくて良いです」
「了解致しました。ハッチ、開けます!
お気をつけて!」
「颯馬、心細いと思いますがすぐに戻ってきます」
「誰が心細いだって? さっさと行って倒してこい」
少しムッとした表情になるが、ラフィアは何も言い返さずに空いた扉から勢い良く飛び出した。
百キロを優に超える速度の機体をすぐさま追い抜いて、おいていくほどの速度に急加速して純白の翼を羽ばたかせた。
コックピットの二人が感嘆の声を上げていたが、颯馬はさほど興味がなく再び瞼を閉じる。
機体の音が混ざっても、遠くで剣戟の音色が聞こえることに颯馬はあまり疑問に思わずいたが、意識することで感覚が研ぎ澄まされていくのを実感していた。
音を聞いている限りではラフィアが優勢。
一度見た変異体特有の思考パターンではないため、飛行型の悪魔だろう。
瞼を閉じたまま、颯馬はうたた寝を始める。
前の二人は戦闘中に安心して眠りこけている少年を見て、「肝座ってるな、流石はラフィア様の御付きの方だ」と溢した。
ラフィアが戦闘を終えて、飛行機が追いついてくるのを待っている。
「ラフィア様、悪魔討伐、お疲れ様です!」
「ありがとうございます。時に颯馬、もしかして私が戦っている間寝ていたのですか?」
「ん? いや、寝てはいねぇよ。
ただ目を閉じた方が集中出来るってだけさ」
疑問を口にしようとするが止める。
寝ていないのならラフィアとしてはそれ以上言うことははなかった。
「変異体ではありませんでしたが、今はアメリカまで残り半分くらいです。
悪魔の量もドンドン増えていきます。颯馬も空を飛べたら便利ですのにね」
「無茶言うな」
それからまた数時間が経過し、アメリカ国土まで三百キロの距離まで来た時、異変が発生する。
けたたましく鳴り響く悪魔の反応を示すアラーム。
緊張と恐怖が入り混じった悲鳴にも似た声を副機長が上げた。
「機長!
これは! この反応の数は!!」
レーダーに悪魔の反応を示す赤い点が埋め尽くしていく。
「五十、百、二百、五百……! ま、まだ増えると言うのか……!!」
「無理です! いくらラフィア様お一人の力が強くともこの数は機体が持ちません!
悪魔! 多数接近! その距離二千!
既に計器が捕捉できる量を超えています!」
パニック状態でも現状報告は怠らない副機長の言葉を聞いて、ラフィアはこの場をどうにかやり過ごそうと考えていたが、中々答えは出ない。
すると颯馬が顔だけ機長室に突っ込んで計器を覗き込んだ。
「なぁ機長。このレーダーってどれくらいの縮尺?」
機長は冷静に指を少し開いて
「この間にある距離でおよそ百メートルだ」
「オッケーわかった。ラフィア!」
「何か案が浮かびましたか?」
「ああ、ちょっと無茶をする。
一つ確認だ。悪魔達は人間よりも魔力を持つ存在に惹きつけられる。
そうだな!?」
「間違いありません。颯馬、あなたまさか」
「あぁ。この中で一番魔力が高いのはラフィアだ。ならここから飛び出ればパイロットは何とかなるかもしれない」
「確かに私一人ならその案もありでしょう。
ですが! あなたは!?」
「ほら! ぐずぐずするな。
俺は途中で降ろしていいから。早く俺を抱えろ!」
颯馬が囃し立てるようにラフィアを催促すると、悪魔が前方に視認できるまで接近している。
「機長! もう限界です!」
「うむ……ラフィア様! 申し訳ございません!
ここまでが限界です!」
「ああもう! わかりました!
ここまでありがとう! 無事を祈っています」
颯馬を抱えて空に飛び出すと、耳がキーンと強く鳴って何秒か聴覚が麻痺するが、飛行機とは反対側の進路に加速して離れていく。
「下せってどういうことですか?」
「一回上空に上がってくれ」
言われるまま悪魔の上を取ると、引き寄せられるように敵がついて来ている。
「悪魔に向かって下ろしてくれ」
「その下は海ですよ?」
「いいからいいから」
「もう、どうなっても知りませんからね!」
ラフィアは颯馬を空中で悪魔へと下ろすと、鋭利な牙が特徴的の青紫色の化身である悪魔へドロップキックをかまし、顔面を完全に潰してから近く悪魔、もとい『足場』を跳び移りながら移動をしている。
討伐と移動を一人で完結させる荒技に、ラフィアは驚きながらも頼もしさを感じた。
しかし、この時から颯馬の打撃が悪魔に通用している事実から目を逸らしていたのは、ある事件をきっかけに気づきを得て、ラフィアが後悔の念を抱いたのはもう少し後の話だ。




