12話 未知の味覚、サンドイッチ
日を改めて東京都内の中心部。
旧グロウアップラボ跡地。
ラフィアと颯馬はクーデターを起こした謝罪の意味も込めて瓦礫撤去を手伝っていた。
足元には破れてしまった天使の絵が瓦礫の隙間から覗いている。
「助けられず、申し訳ありません」
「ラフィアの使う念力? 魔法が頼りなんだからな。考え事は後にしろよ」
「ええ、わかっています」
瓦礫の煤を払い、破けた似顔絵を懐にしまう。
「ラフィア」
「何ですか?」
「一言だけ言っとくぞ。お前は今までやれる事をやってきたんだろ。今回だって悪いのはラフィアじゃねぇ。
甲斐田を放っておけばもっと他の犠牲者が増えてる。間違いなくな」
「理解しています。
ですが、ここに生きている子ども達は確かに早過ぎる一生を終えている。この青い空を一度も見ることなく」
「俺達がこうしてラボを潰さなけりゃもう少しは生きていられたかもしれない。
だから業は一緒に背負う。
もういい加減そんな顔してんな。
こっちまで気分が下がる」
「あら、励ましてくれてるんですか?」
「アホか。そんなことしなくても前を向くって決めた奴が、うじうじしてるのが気に食わないだけさ」
「意地悪」
「まあな」
それからまた少し無言の時間が過ぎ、瓦礫撤去があらかた済んだ後、リーナが差し入れの水と軽食を持って来てくれる。
「お二人ともお疲れ様です。
軽く休憩にしませんか?」
「賛成。この天使様、人使いが荒くて疲れたわ」
「情けないですね。たった百キロの瓦礫で何を言っているのですか」
「あはは……ラフィア様。普通の人間は百キロの瓦礫を何度も運べませんよ」
「颯馬は違うのです。リーナといえど甘やかさないで下さい」
苦笑いをし、まだ残っていた芝生が茂る場所に風呂敷を広げて、サンドイッチが入っているバスケットが広げられた。
颯馬が生唾を飲み込む音がラフィアまで聞こえてくる。
「はしたないですよ。颯馬」
「ラフィアも一回食ってみろよ。地上の飯は旨いぞ」
遠慮なく食べ進める颯馬は本当に幸せそうに見える。
ラフィアのために用意されたバスケットに颯馬が手を伸ばし、なおも食い意地が止まらないのを見かねて手を叩く。
「いって。食わないんじゃないの?」
「食べないとは言ってません」
まじまじと見るサンドイッチの入ったバスケットは、どうやって仕入れているのかわからないみずみずしい野菜が挟まれ、チーズが絡まるように馴染んでいる。
「ラフィア様もよかったら。味は保証しますよ」
神剣と同様に数百年ぶりになる食事。
あの時は半分は自暴自棄で残飯を口にして最悪の気分になったため、二度と人間のご飯は食べないと決めていたのだが……
はっきり言って美味しそうだとラフィアは思った。
「ひ、一口だけ……頂きます」
小さい口で一口だけ含むと、そこは正に天上にも上るようだった。
パンに染み込んだソースが口の中いっぱいに広がり、トマトとキャベツと合わさったチーズの相性たるや、本当の食事とはこれをおいて他にないと思えるほど美味であった。
思わず表情が緩むのを見られないように口元を手で覆いながらも、つい感動を口にしてしまう。
「美味しい……!」
「そうだろ? 飯は旨いぞ。今まで勿体無かったな」
「どうして颯馬が得意気なんですか。
これを用意したのはリーナです。
後、これは私が全て頂きますので、手出しするなら神罰が下りますよ」
「めちゃくちゃ気に入ってんじゃん」
若干の呆れ笑いをする颯馬は放っておいて、ラフィアは食べ進める。
他にも甘い蜂蜜と脂肪抜きされた蛋白なチーズが合わされたもの。
他にも果物がカットされて甘いホイップクリームが挟まれていたデザートのようなものまで。
本当にラフィアは今まで毛嫌いしていた食事という行為を改めて見つめ直すと決めた。
(美味しいと思えるものは、少ないながらもちゃんと存在していた!)
食べ終わった後、ラフィアは手巾で口元を上品に拭いてリーナへお礼を言う。
その所作が最上級の感謝と取れるお辞儀をしたものなので、リーナは少し硬くなりながらもラフィアの気持ちを真正面から受け止めた。
「そんなに喜んで頂けるとは光栄です。
またお会いした時にはもっとたくさん用意しておきますね」
「感謝します。時に颯馬、次の行き先ですが」
「おう、決まったのか?」
「アメリカに行きます」
「アメ……アメリカ?」
「私がこの千年間の内、半分以上を費やした悪魔が多く発生する場所。
ヨーロッパも確かに多いですが、それよりも頻度はアメリカが多い。
甲斐田に一度渡した紫色の魔石も回収しました。変異体が日本で出てきたということは、何か別の力が働いていることは間違いありません。
なので、もう一度見尽くしたアメリカへ行くことで、何か新しい発見があるかもしれません。
もちろん付いてきてくれますよね?」
「ちなみにどうやって行くつもりだよ?」
「それは飛んで……あっ」
「自分で行く分にはそれでいいんだろうがな」
「となると船か飛行機……早いのは飛行機ですね」
「…………」
「なんですか颯馬。もしかして怖いんですか?」
「何言ってんだ。そんなわけないだろ」
「そうですか。では飛行機で行きましょう。
リーナ。手配をお願いできますか?
私も飛行機を乗ったことはないので、どうやって席を取るのかは疎くて」
「お任せください。
恐らく手配できるのは軍用機になるので、座り心地は多少難ありだと思います。
飛行型の悪魔を考えると旅客機のようなタイプは用意できないんです。すみません」
「いえ、手配して頂けるだけでありがたいです。颯馬もそれでいいですね?」
「おう」
運良くアメリカ行きの段取りが決まり、数日の後に発着場へ集まった二人はリーナへ感謝を伝えつつ、無骨な造りの小型飛行機へ乗り込んだ。




