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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第6章

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 選抜戦の全日程が終了した、演習場の中央。

 そこには今、各グループの過酷な予選を勝ち抜き、見事『本戦』への出場切符を手にした代表者たちが一堂に整列していた。


 Aグループ第1位、3学年序列1位『生徒会長』ルイ・コフィーン。

 Bグループ第1位、1学年序列1位『王級』アリア・フェンリズ。

 Cグループ第1位、2学年序列1位『氷の魔女』シュナ。

 Dグループ第1位、3学年序列2位『次席』エルマ・サンディ

 Eグループ第1位、3学年序列3位『賢人』ユーノ・ナテラ


 その他にも、グループ2位の勝ち残り戦を戦い抜いたクレア・セントールとサルネ・クルー。学院の頂点に君臨する名だたる化け物たちがずらりと肩を並べている。


 そして――。

 そんな錚々たる顔ぶれの端っこで、Fグループを全勝で突破してしまったシオンが、一人だけ死んだ魚のような目をして直立不動の姿勢をとっていた。


(どうしてこうなった……。おかしいだろ、なんで僕が生徒会長やアリアと同じ列に並んでるんだ……)

 

 観客席から降り注ぐ、割れんばかりの拍手と歓声。

 その熱狂的な視線の多くが、「上級生を一歩も動かずに降参させた1年生のダークホース」である自分に向けられているのを肌で感じ、シオンは今すぐこの場から逃げ出したくてたまらなかった。

 チラリと視線を動かすと、数メートル先に立つシュナと目が合い、彼女が微かに、本当に微かに口元を緩めた気がして、シオンは慌てて正面に向き直った。胃の痛みが限界を突破しそうだ。


 やがて、演壇に白髪の初老の男性――この学院の最高責任者である学院長が登壇すると、会場の歓声は水を打ったように静まり返った。

 学院長は、厳格でありながらも温かみのある眼差しで、整列した代表者たちをぐるりと見渡す。


「諸君。まずはこの数日間、己の持てるすべてを懸けて戦い抜いた健闘を讃えよう。見事であった」

 

 深く響く声が、マイクを通して演習場全体に広がる。

 

「敗れた者も、恥じることはない。己の限界を知り、そこからどう立ち上がるかこそが、魔術の道を志す者の真髄である。……そして、見事ここに並んだ代表者たちよ」


 学院長の言葉に、代表者たちの背筋がスッと伸びる。


「君たちはこれから、学院の看板を背負い、各国の精鋭たちが集う最大の舞台――『世界大会』へと臨むことになる。そこには、君たちの想像を超える強敵が待っているだろう。だが、恐れることはない」

 

 学院長は力強く頷き、拳を握ってみせた。

 

「君たちこそが、我が学院の誇りだ。持てる力のすべてを解放し、世界にその名を示してくるがいい! 世界大会での、君たちのさらなる飛躍を期待している!」


 わぁぁぁぁぁぁっ!!

 学院長の熱い激励の言葉に、観客席の生徒たちが立ち上がり、今日一番の大歓声が巻き起こる。

 華やかな拍手と熱気に包まれながら、かくして、波乱に満ちた学院選抜戦は幕を閉じたのであった。



 ◆

 


「あははははっ! シオン、あんた整列してる時、顔面蒼白でガチガチやったで! 借りてきた猫みたいやったわ!」

 

「笑うな……。本気で胃に穴が開くかと思ったんだぞ……」


 解散後、演習場の外の通路。

 待ち構えていたナギに背中をバシバシと叩かれながら、シオンは深い溜息と共に肩を落とした。

 

「無事に代表入り、おめでとうございますシオン君。あの錚々たる顔ぶれの中にシオン君が並んでいる光景、とてもシュールで……いえ、感慨深かったです」

 

「ミナ、お前今シュールって言ったな」

 

 手元のノートを抱えながら微笑むミナに、シオンはジト目を向ける。

 

「だが、結果的に1年生からアリアとお前の二人が世界大会に進むことになったんだ。素直に快挙だと思うぜ。おめでとう、シオン」

 

 エルドが腕を組み、珍しく真っ直ぐな称賛の言葉をかけてきた。

 それにシオンは力なく首を振る。

 

「やめてくれ。僕はエドみたいに平穏に負けたかったんだ……。あんな化け物揃いの世界大会なんて、絶対に行きたくない」

 

「なに言うとんねん! もう決まったことやろ! 腹括りぃな!」

 

 ナギがシオンの首に腕を回し、ぐりぐりとヘッドロックをかける。

 

「痛い痛い! ギブ! ギブだってば!」

 

「世界大会、うちらも絶対に会場まで応援に行くからな! 一番前ででっかい声で声援送ったるわ!」

 

「そうです。シオン君やアリアさん、そして他国の代表者たちのデータ収集の絶好の機会ですからね。今から楽しみです」

 

「俺も、世界レベルの風魔術の使い手がいれば、この目で見ておきたいからな。……お前の無双姿も、しっかり特等席で見届けさせてもらうさ」


 ナギ、ミナ、エルド。

 三人からの容赦のない、けれど温かい「応援宣言」に、シオンは観念したように息を吐いた。


「……お前らなぁ。人の気も知らないで」

 

 口では文句を言いながらも、シオンの表情は先程までの緊張が嘘のように柔らかく解れていた。

 目立つのは嫌だ。平穏でいたい。

 だが、この友人たちからの悪気のないエールは、不思議と嫌な気はしなかった。


「ま、怪我だけはしないように気をつけるさ」

「おう! その意気やで、代表選手!」


 笑い合う四人の声が、夕日に染まる学院の廊下に響き渡る。

 近づく「世界」という巨大な舞台への足音。

 シオンの望む平穏な日常は遠ざかるばかりだが、今はただ、この騒がしくも心地よい友人たちとの時間を噛み締めていた。

 

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