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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第6章

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 しばらくの間、誰も声を出さなかった。

 1つ前の試合の時と同じ静寂。

 だが、質が違う。


 やがて、誰かが小さく息を吐く。


「……すげぇ」


 ぽつりと漏れた一言。

 それを合図に、ぱらりと拍手が鳴った。

 重苦しさが、ゆっくりほどけていく。


 ナギが肩の力を抜いた。


「なあシオン。今の、普通に試合やったよな」


「ああ」


 シオンは演習場を見下ろしたまま答える。


「いい“勝負”だった」


 視線が、自然と次の入場ゲートへ向かう。


「アリアは大丈夫やろか……」



 ◆



「第3試合!クレア・セントール対アリア・フェンリズ」


 審判の声が響き、各生徒が演習場へ入場する。

 その表情は対照的だ。


 妹が立ち上がれないほどのダメージを負った直後に自分の試合。そこに自分の心配は一切なく、全ての感情がアリスに向けられていた。

 相手は3学年序列4位。相性差はあるものの、先ほどルシアがユーゴに敗れたばかり。

 それに合わせて、今のアリアの精神状態でまともに戦えるのかという不安が、会場に静かに広がっていた。


 対する、クレア・セントールの表情は晴れやか。

 勝てば、ほぼ1位抜けが確定する状況。相手は1学年序列1位。王級相手に勝つことができれば、自身の進路も明るい。

 この戦いに対するモチベーションは限りなく高かった。


「始め!」


 審判の合図が響き渡る。


 先に動いたのはクレアだった。


蒼牙水龍サファイア・ファング・レヴィアタン)!最初から全力よ!」


 水属性の上級精霊による、精霊魔術行使エレメンタルドライブで速攻をしかける。

 前戦では火属性の精霊装具化スピリットアームズを使用していたが、相性を考えてだろう。

 この辺りの判断の速さも3年生ならではである。


 しかし、その属性、その術式はアリア・フェンリズの得意分野だ。


「セレスティア……蒼牙水龍サファイア・ファング・レヴィアタン


 2頭の水龍が激しくぶつかり合う。

 しかし、その威力には明らかに差があった。


「……ぐっ!まだまだぁ!」


 押されているクレアが二重詠唱ダブルスペルを開始する。

 王級相手に押されることはわかっていた。だからこその奥の手だ。


蒼牙水龍サファイア・ファング・レヴィアタン!」


 もう1頭、アリアの水龍の背後にクレアの水龍が出現する。

 それをみたアリアは即座に目の前の水龍を粉砕し、後ろの現れた水龍と対峙する。

 しかし、クレアの詠唱は止まらない。

 1頭が倒されるとすぐにもう1頭の水龍を出現させ、2頭の水龍を途絶えさせない。

 千切られても、噛み砕かれても、間断なく、蒼い牙が空を裂く。


 フィールドの湿度があがる。水圧が重くなる。

 客観的に見れば、攻めているのは明らかにクレアだった。

 王級を相手に、押している。そう錯覚するほどに。


 だが、アリアの足元に変化はない。それどころか、試合開始から1歩も動いていない。


 新たに生まれた蒼牙が、アリアに向けて襲いかかる。

 そこで初めて、アリアは1歩だけ、踏み出した。


 ――その瞬間。

 龍の顎が、空を噛む。


 位置が半歩ずれている。避けたのではなく、そこにいなかった。


 背後から二頭目が迫る。

 しかしその軌道も、わずかに歪む。

 水が、水を押し流している。


 目に見えぬ流れが、すでに場を支配していた。


 それでも、クレアは止まらない。水龍同士での撃ち合いは不利と見るや否や、1頭で水龍を抑え込み、もう1頭の水龍をアリアへの直接攻撃へと舵を切る。

 

「魔力量は王級にも負けないわよ……!」


 クレアがそう示すとおり、蒼い牙が幾重にも重なり、圧倒的な物量を見せつける。


 だが、アリアは全く動じない。


「水龍の障壁バリア・オブ・レヴィアタン)


 一切乱れぬ魔力の障壁が、アリアを守護する。


 ――轟音。


 クレアの水龍がアリアの水障壁へと突撃する。

 衝撃で会場が揺れ、湿度が最高潮に達する。


 霧の壁が晴れた時、そこにいたアリアは無傷であった。

 変わらぬ立ち姿、服に水一滴たりともついていない。

 足元の水面が、緩やかに波打っている。


 アリアの水龍がクレアの水龍を呑み込む。

 この戦闘ではじめて、クレアの水龍がフィールドから姿を消した。

 水龍の錬成スピードが明らかに落ちている。


 連続生成。

 二重詠唱ダブルスペル

 最大出力。


 いくら魔力量が多いクレアでも、これ以上の戦闘継続は困難を極める。

 自分の水が思うように動かない。

 これまでの循環が、ほんの少しだけ遅れる。


 アリア・フェンリズを相対するにあたって、その“少し”が致命的だった。


「蒼龍王のランス・オブ・セレスティア


 アリアがそう唱えると、アリアの頭上に巨大な投槍が生成される。アリスの業火滅槍ラグナ・ヴォルカと対をなす、必殺の投槍。

 槍自体が意思を持ったかのように付近の魔力が巻き込まれていく。

 フィールドの水が引き寄せられ、一気に湿度が下がる。


 これが王級と言わんばかりの一撃はクレアに絶望を与えた。


「……これを、放つ必要はありますか?」


「参りました」


「……そ、そこまで!勝者アリア・フェンリズ!」

 

 観客席は完全にアリアの水に呑み込まれている。

 審判でさえもその力に魅了されていた。


 しかし、アリアの視線は前を見据えていなかった。


 勝者のコールから数秒、アリアは蒼龍王のランス・オブ・セレスティアを瓦解させる。

 集まった水が霧となり、アリアの姿を隠した。


 一方のクレアは膝をつき、肩で息をする。

 王級と上級、1年生と3年生。ルシアvsユーゴの試合とは打って変わり、王級がその地力を見せつける結果となった。


 数十秒の間の後、呆気に取られていた観客席からパラパラと拍手が上がる。

 この結果により、2年連続で1学年序列第1位の選抜戦突破は濃厚となった。


 アリアの周りの霧が晴れる。

 だが、すでにアリアの姿はそこにはなかった。

 

 

 

 

 

 

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