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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第6章

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「――しょ、勝者! ルイ・コフィーン!」


 審判の声が、裏返りながら会場に響き渡った。

 歓声はない。

 拍手もない。

 演習場に埋め尽くす観衆を飲み込んでいたのは、水を打ったような静寂と、肌を突き刺すような戦慄だけだった。


 フィールドの中央。

 そこには、地面に縫い付けられたかのように俯せに倒れている少女――アリス・フェンリズの姿があった。


「......あ、ぐ......」


 アリスの口から、空気の漏れるような音が漏れる。

 指一本、動かせない。

 意識はある。だが、脳からの指令が身体に届かない。まるで全身の骨と筋肉が、見えない巨大なプレス機で押し潰されたかのように、鉛のように重い。


(......なによ、これ......)


 アリスの視界の端、悠然と佇む男の姿が映る。

 生徒会長、ルイ・コフィーン。

 彼は乱れ一つない制服の埃を軽く払い、アリスを一瞥すらしなかった。


 試合開始の合図から、わずか十秒。

 魔術の撃ち合いも火槍による鍔迫り合いも起きていない。アリスが得意とする精霊装具化スピリット・アームも、炎の広域魔術も何一つ披露していない。

 ただ、ルイが片手を軽く持ち上げ、振り下ろした。

 それだけで終わったのだ。


重力結界グラビティ・フィールド』。

 抵抗すら許さない、絶対的な王の力。


(......無理しない、だって?)


 薄れゆく意識の中で、アリスは昨晩のアリアとの会話を思い出して自嘲する。

 無理をする暇なんてなかった。

 盗めるものを盗む? 降参する?

 そんな選択肢すら与えられなかった。


 ただ、蟻が巨象に踏み潰されるように。

 圧倒的な「格」の違いを見せつけられ、アリス・フェンリズの選抜戦は終わった。


「......医療班! 急げ!!」


 審判の焦った怒号で、ようやく会場の時間が動き出す。

 担架が運び込まれ、ボロ雑巾のようになったアリスが搬送されていく。

 その光景を、観客席の生徒たちは青ざめた顔で見守るしかなかった。


 恐怖と畏敬。

 3年生ですら、あのフィールドに立つことを想像して震え上がっている。

 これが、学院の頂点。

 序列1位という玉座の重さ。


「......嘘、でしょ」


 控え室でモニター越しに試合を見ていたアリアが、拳を握りしめて立ち尽くしている。

 その顔からは血の気が失せ、唇がわなないている。

 アリスの敗北へのショックだけではない。

 あれが本当に同じ学生なのかと、ルイ・コフィーンに対しての恐怖心もあった。


 そんな中、1年生が多く集まる観戦エリアは通夜のような空気に包まれていた。


「アリスが、何もできずに負けた......?」


 ナギもまた、いつもの軽口を叩く余裕を失っていた。

 彼女の目にも、ルイの魔術は異質に映っていたはずだ。あれは技術や駆け引きではない。ただの暴力的な魔力出力の差だ。


 そして。

 隣のシオンは、無表情のままフィールドを見下ろしていた。


 シオンの目には、アリスの周囲の空間が歪んでいるのが見えていた。

 特定の座標に超重量を発生させる、広範囲制圧魔法。

 単純だが、それゆえに回避不能の必殺技。


「あれだけの出力を持ちながらアリスを殺さないように、調整して発動している。出力よりもコントロールのほうがすごいな」


 もしルイが本気で握りつぶしていれば、アリスは肉塊になっていただろう。

 手加減して、あれだ。


「......戦いたくねぇ」


 シオンは誰に聞かせるでもなく、本音を漏らす。

 周りの生徒たちは「恐怖で震えている」と受け取ったかもしれない。

 だが、シオンの内心はもっとドライだった。

 あんなとんでも魔術を使う怪物と関わり合いになったら、平穏な生活など望むべくもない。


(絶対に関わりたくない。同グループじゃなくて本当によかった)


 シオンが心底そう安堵していると、会場のアナウンスが無慈悲に響き渡った。





「第二試合、ユーゴ・グレイス対ルシア・アルステッド!」


 重苦しい空気が支配する会場。

 その中で、東ゲートからはアリスを打ち負かした1学年序列2位が登場する。

 西ゲートには2日前にアリス同様、ルイ・コフィーンに敗れた3学年序列5位のユーゴ・グレイスが控える。


「あのダメージを受けて、たった2日で戻ってこられるとは。流石は先輩といったところでしょうか?」


「やっぱり、このグループおかしいね。2位ならとは思ったけどこれまた高い壁だ」


「あらあら、お褒めの言葉と受け取っていいのでしょうか?私、ルシア・アルステッド、誠心誠意お相手務めさせていただきますわ」


 最悪のタイミングでの出番。

 それでも2人は気丈に振る舞う。


「お互いわかっているだろう?ここで勝った方がグループ2位だ。いくら王級精霊使いといっても後輩に負けるわけにはいかないからね。手加減はできそうにないから、死なないでくれよ?」


「そちらこそ、無謀な突撃はやめてくださいまし。早めの降伏をお勧めいたしますわ」


 お互い、本心半分、挑発半分でそれぞれを煽る。

 目下の予想でも勝敗は五分五分とされている通り、舌戦の中でもとにかく隙を見つけようとハイレベルな探り合いが繰り広げられる。


「始め!」


 戦闘開始直後から選局が動く。


 身体強化で能力を上げるユーゴに対し、ルシアも身体強化で対応する。


 ただし、ルシアのそれは光属性王級精霊、【エル・ラディアン】の最得意の分野であった。


「いきますわよ!戦乙女の天翼ヴァルキリー・ウィング


 神々しいその翼は、見ただけでもかなりの密度で魔力が練られていることが伺える。


「チッ、1年生とはいっても流石は王級だな」


「ユーゴ先輩のスピードに対応するには、この形態が1番ですわ。バッファーの真髄、とくとご覧あそばし」

 

 

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