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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第6章

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 会場のざわめきが収まらぬ中、グループFの第2試合が行われた。


 対戦カードは、2学年序列6位ナービィ・ブライト対、1学年序列8位エド。

 結果から言えば、それは実に淡白な決着だった。


「――参りました。降参です」


 開始早々、ナービィの放った水魔法の檻に捕らえられたエドが、抵抗する素振りも見せずに手を上げたのだ。

 ナービィにしてみれば、拍子抜けもいいところだった。

 手応えがない。まるで、最初から勝つ気がなかったかのような潔さ。


「......なんなの、あの子」


 勝利したはずのナービィの顔には、安堵よりも奇妙な居心地の悪さが張り付いていた。

 

 こうして、波乱と困惑に満ちた選抜戦2日目は、幕を閉じた。



 ◆



 2日目解散後。

 夕日が差し込む学食の一角に、いつもの面々が集まっていた。


「――で? 『一番弱いのを撃ったら先輩が勝手に自爆しました』って?」


 ナギが意地の悪いニヤニヤ笑いを浮かべながら、ストローでジュースをかき回す。

 その向かいで、シオンはテーブルに突っ伏していた。


「......事実だ。向こうが何もしてこないから、ちょっと小突いただけだ」


「それが一番タチ悪いんよなぁ。タルマ先輩、試合が終わった後も真っ青な顔して震えとったで? どんだけ脅したん?」


「脅してない。お前達も見ただろ?人が死ぬような魔術は使ってないって」


「魔術の威力よりも、誰が放ったかが重要なんですよ」


 隣でサンドイッチをつまんでいたミナが、くすりと笑う。

 彼女の手元には、すでに今日の試合データの分析メモがびっしりと書き込まれていた。


「シオン君の狙いは外れましたね。『無気力な1年生』を演じるはずが、逆に『底知れない実力者』として警戒レベルが跳ね上がってしまいましたから」


「うぐ......」


 シオンが呻く。

 まさにその通りだった。

 掲示板の前を通った時、他の生徒たちがシオンを見る目は明らかに変わっていた。「あれがエラーの......」「タルマ先輩を睨みだけで倒したらしいぞ」という尾ひれがついた噂まで聞こえてくる始末だ。


「ま、勝ちは勝ちや。これでグループFはシオンとナービィ先輩が首位。明日の相手1年のエドって子やろ?」


「ああ。序列的にはなかなか簡単には負けられなさそうだしな」


「まだそんなこと言うとんのかい!」


 ナギのツッコミも意に返さず、シオンは自分の夕飯を黙々と平らげていく。


「そもそも、次勝ったら2位以上ほぼ確定なんやからしっかりやったらええねん」


 やれやれと首を振るナギは、エルドとミナの視線が自分とは違うところにあることに気づいた。

 そのまま2人の見ている方向へ自分も目線を合わせる。

 そこには、明日――大会3日目の対戦スケジュールが表示されていた。


【3日目第1試合 ルイ・コフィーン 対 アリス・フェンリズ】


「……アリスは大丈夫やろか」


 ナギの先程までのような茶化すような声色は消えた。

 その声に反応するようにシオンもまた、黙ってその対戦カードを見つめていた。



 ◆



「決して、無理はしないこと。約束してください」


「わかってるよ。そもそも勝てるなんて思ってないし、盗めるもの盗んだらすぐ降参するよ」


「口で言うのは簡単なんです。アリスは、いざ戦いになるとすぐ無茶するんですから」


「そりゃ、勝てる可能性があるならそれが僅かだったとしても追いかけるのが精霊使いっしょ。勝てる可能性があるならね」


「……絶対ですよ」


 学生寮の一室でアリアとアリスは明日の試合に向けて、話し合いを行っていた。


 絶対王者ルイ・コフィーン。学院の生徒会長にして3学年序列1位。すなわち学院の1位だ。

 明日、王者と対峙することが決まったアリスが、作戦を立てていたところにアリアが現れ、今に至る。


「そもそも、アリアも明日試合でしょ?アタシに付き合ってていいのかよ」


「いいんです。私の試合も大事ですけど、アリスの体の方がもっと大事です」


「心配性すぎるんだよ。そんなんじゃ、精霊使いとしてやっていけないよ?」


「でも、私は1年1位です」


「……………………」


 言い返すことができないアリスはそのまま目線を逸らし、話題の転換をする。


「そういえば、シオンはどうだったのさ。1日部屋にいたから、まだ結果聞けてないんだよね」


「……。圧勝でしたよ」


 アリアは見たままの光景を話し始める。


「相手が感知系の方だったのでしょう。試合が始まる前から、何かに気づいていたようで。直接話を伺いたかったのですが、叶いませんでした」


「シオンの力の根源に気づいたってこと?」


「わかりません。ですが、明らかにシオンさんが普通ではない前提の対処に見えました。あのタルマ先輩が、脂汗を流して動けなくなるほどに」


「ふーん。やっぱり強いね。まぁでも、シオンの秘密を最初に暴くのはアタシ達がいいからアタシ的には良かったけどね」


 アリスが悪戯っぽく笑う。

 だが、その瞳の奥には明日への緊張と、シオンという未知への興味が同居していた。


「そうですね。シオンさんからは興味がつきません。私も負けるつもりはありませんが、是非とも勝ち残っていただきたいですね」


「あの生徒会長より、シオンのほうがよっぽど底知れないよ。友達でよかったね」


 幾分、緊張がほぐれたのかアリアもアリスもお互いを見合って笑みを浮かべる。

 グループの情勢を決める3日目は、さらに戦いが激しくなるだろう。

 その重たい空気の中でも、自分を維持し続ける強さがフェンリズ姉妹には間違いなくあった。


 

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