表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第6章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/108

78



 静寂が、痛いほどにフィールドを支配していた。


(......おかしい。なんで攻撃してこないんだ?カウンターでも狙ってるのか?)


 シオンは内心で首を傾げていた。

 相手は3年生のタルマ・ネウギ。堅実な戦い方をするとは聞いていたが、まさか開始から数十秒経っても一歩も動かないとは予想外だった。


(警戒心が強いのか? それとも、後輩相手に先手を取るのは大人気ないと思っているのか?)


 どちらにせよ、このままでは膠着状態だ。

 早く負けて帰りたいシオンとしては、きっかけが必要だった。


(仕方ない。こちらから軽く手を出して、反撃を誘うか)


 シオンは足元で大人しくしている猫を見下ろした。

 ディアナは退屈そうに前足を舐めている。


「......ディアナ」


 シオンは唇を動かさず、極小の声で囁く。


「軽く一発、頼む。相手を傷つけない程度の、一番弱いやつだ。挨拶代わりの牽制って感じで」


『注文が多いわね』


 ディアナが面倒くさそうに顔を上げた。

 その金色の瞳が、スッと細められる。


『一番弱いのでいいのね? 知らないわよ』


 ディアナの周囲に漂っていた金色の粒子が、ふわりと舞い上がった。

 それはシオンの指先に集まるわけでもなく、ただディアナの目の前に小さく収束していく。


 パチ、パチ......。


 静電気のような小さな音が鳴る。

 収束した光は、小指の先ほどの大きさもない。

 以前、ナギを救うために見せた大規模な力とは比べるべくもない、豆電球のような輝き。


(よし、あれなら当たっても「イテッ」で済むな)


 シオンは満足し、心の中でゴーサインを出した。


「――行け」


 頼りない音と共に、細い金色の光線が放たれた。

 それは真っ直ぐに、しかし矢のような鋭さもなく、タルマへと飛んでいく。


 シオンにしてみれば、それは「子供の石投げ」程度の攻撃だった。


 ――だが。


 極限まで神経を研ぎ澄ませていたタルマの目には、それは全く別の「絶望」として映っていた。


(......ッ!? こ、これは......!!)


 タルマの色彩感知が、警報を通り越して悲鳴を上げた。


 視覚的には、細く頼りない光に見える。

 だが、その密度が異常だった。

 魔力を極限まで圧縮し、無駄な拡散を一切削ぎ落とした「針」。

 広範囲を破壊する爆弾ではなく、一点のみを確実に貫くための収束魔砲。


(圧縮率が桁違いだ......! 俺の『多重鉄壁』は面で受ける防御......あんな針のような高密度攻撃を受ければ、紙のように貫通される!!)


 タルマの顔色が青に変わる。

 発動が速すぎる。

 予備動作なし。詠唱なし。

 足元の精霊が瞬きをした瞬間には、もう光線が迫っていた。


(防げない。回避も間に合わない。――死ぬ!?)


 死のイメージが脳内を駆け巡る。

 心臓を、眉間を、正確無比に貫かれる自分。


 光線が、目前に迫る。


「......あっ」


 シオンが、間の抜けた声を漏らした。

 彼としては「あ、ちょっと狙いが逸れたかな?」程度の反応だった。

 そして、光の行方を確認しようと、無造作に一歩、前へ踏み出した。


 カツン、と靴音が響く。


 その音が、タルマの張り詰めた精神を、プツリと切断した。


(追撃――ッ!?)


 一発ですら致死性の攻撃。

 それを防ぐ術を持たない状況で、あの化け物はさらに距離を詰めてきたのだ。

 これ以上は「試合」ではない。「処刑」だ。


 本能が、理性を凌駕した。


「ひっ......!!」


 タルマが悲鳴を上げ、地面を転がるように横へ飛んだ。

 直後――


 金色の光線が、タルマの立っていた場所のすぐ横を通り過ぎ、背後の防御障壁に吸い込まれて消えた。

 音もなく。爆発もなく。

 ただ、障壁の表面に、黒く焦げた小さな穴だけを残して。


(......い、今、障壁が貫通しなかったか......?)


 タルマは腰を抜かしたまま、震える目でその痕跡を見る。

 観客席からは見えないほどの小さな穴。だが、学院が誇る最高強度の結界に風穴を開けるなど、学生のレベルではない。


 やはり、自分の目に狂いはなかった。

 あれは、触れてはいけないモノだ。


 シオンが、「あれ? 外した?」という顔で、もう一歩近づいてくる。


「こ、こ......」


 タルマの口がわななく。

 戦意喪失。

 これ以上の対峙は、精神の崩壊を意味する。


「こ、降参!! 降参だぁああああ!!」


 タルマが両手を上げ、絶叫した。

 会場全体が、凍りついたように静まり返る。


「......は?」


 シオンが足を止め、ポカンと口を開けた。


「しょ、勝者、シオン!」


 審判の声が、どこか戸惑いを含んで響き渡る。

 観客たちは顔を見合わせた。


「え? 今なにかした?」

「精霊が光ったように見えたけど......」

「でも、あんな豆粒みたいな魔法だぜ? なんでタルマ先輩があそこまで怯えるんだ?」

「もしかして、見えない精神攻撃とか......?」


 憶測が憶測を呼び、会場はざわめきに包まれる。

 だが、事実は一つ。

 シオンは無傷のまま、3年生の実力者を退けたのだ。


「......なんで?」


 シオンだけが、状況を理解できずに立ち尽くしていた。

 手加減した。一番弱いのを撃った。

 それなのに、相手は死神でも見たかのような顔で逃げ出した。


「......はぁ。最悪だ」


 シオンはガックリと肩を落とす。

 負けるつもりが、不気味な圧勝をしてしまった。これでは「無名の1年生」という隠れ蓑が剥がれてしまう。

 

 無欲の勝利。

 だがそれは、Fグループにおけるシオンの評価を、「得体の知れない強者」へと決定づける一戦となったのだった。


 次に試合を控える1学年序列8位のエドは、審判の声を聞いてにこりと笑う。


「すごいね、シオンくん。先輩相手に勝っちゃった」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ