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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第6章

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 エルマ・サンディの圧勝劇は、2日目初戦で盛り上がる会場の空気を一変させた。

それは畏怖に近い静寂だった。


 王級契約者とは、ただ出力が高いだけではない。

その在り方そのものが、戦場における「理」となる。


 そして、エルマが見せた「余裕」こそが3学年と1学年の「経験の差」だ。

 


その後のDグループの試合は、エルマが残した衝撃の余波の中で淡々と進んだ。


 第2試合、2学年序列4位ススピール・バラシア対、2学年序列7位レイ・ティティ。

 互いに中級精霊を使役する技巧派同士の戦いだったが、経験に勝るススピールがレイの隙を突き、危なげなく勝利を収めた。


 結果、Dグループの初戦は、3年生のエルマと2年生のススピールが白星発進。

 1年生のセルナは、その実力を見せつけることが叶わず完敗を喫した。


「......やっぱり甘くないわね」


 出場生徒が入れる特別ルームで試合を見ていたアリアが、小さく息を吐く。

 その横顔には、焦りこそないものの、同級生の敗北に対する悔しさが滲んでいた。


「セルナさんの動き、悪くなかったんですけどね......相手が悪すぎました」


 手元のメモにペンを走らせながら、今後戦うかもしれない相手の情報を書き記す。


「次はグループE......フェザー君の出番ですね」


アナウンスが、次なる戦いの始まりを告げる。


「第3試合! ユーノ・ナテラ対フェザー・グレイン!」


歓声の中、フィールドに二人の姿が現れる。


西ゲートからは、1学年序列5位、フェザー・グレイン。

線の細い、身軽な格好をした少年だ。

だが、その表情に臆した色はない。セルナの敗北を見てもなお、「自分ならやれる」という強い自負が瞳に宿っている。


対する東ゲートからは、3学年序列3位、ユーノ・ナテラ。

黒縁の眼鏡をかけ、学者のような知的な雰囲気を纏った青年だ。

脱力感が伺える状態で現れたその姿は、これから戦いを行う者とは思えないほど静かだった。


「......嫌な相手ですね」


モニター越しに、アリアが独りごちる。

隣で準備運動をしていたシオンが首を傾げた。


「......そう見えるか?」


 アリアは画面の中のユーノから目を離さない。

 立ち位置、視線の配り方、そしてあの自然体な構え。

王級のようなデタラメな暴力性はない。だが、そこには隙という隙が一切見当たらない。


「精霊使いは、経験が全てといって過言ではありません。アリスとアストラさんが互角だったのはその為。あの方からはかなりの経験を感じます」


 


 

『始め!』


 試合開始の合図。


「行きます! 」


 フェザーが虚空へ手を掲げると、光の粒子が急速に収束し、一本の長杖が形成された。


 【精霊装具化スピリット・アーム】。


 それだけではない。


「光輝のフォトン・ウィング!」


 さらにその背中から光が噴出し、六枚の翼を形成する。

飛行能力と、高速機動を可能にする攻防一体の術式だ。


 フェザーが光の尾を引きながら空へ舞い上がる。上空からの急降下。長杖の先端に光を集束させ、レーザーのような刺突を放つ。


「『閃光突スティング・レイザー』!」


 光速に迫る一撃。

 だが、ユーノは動じない。

 左手を開くと、そこには瞬く間に紫色の魔力で織り上げられた分厚い『魔道書』が実体化していた。


 眼鏡の位置を指で直しながら、光で描かれたページを指先で弾く。


「――『反射鏡リフレクト・ミラー』」



 フェザーの突きが、ユーノの目の前で見えない壁に弾かれた。

 空中に浮かぶ、半透明の幾何学模様。光を屈折させる鏡の盾だ。


「防がれた!? なら、これで!」


 フェザーは即座に離脱し、今度は周囲を旋回しながら光弾を連射する。

雨のような光の弾幕。

会場が眩い光に包まれる。



 だが、ユーノはその場から一歩も動かない。

ただ淡々と魔道書のページをめくり、指先を指揮者のように振るうだけだ。


「『反射鏡リフレクト・ミラー』......展開」


 ユーノの周囲に、無数の小さな鏡が出現する。

光弾は鏡に吸い込まれ、あるいは跳ね返され、フェザーの方へと逆流していく。


「くっ!?」


 自分の魔法に追われる形で、フェザーが回避行動を取る。

 攻めているのはフェザーのはずなのに、主導権は完全にユーノが握っていた。


「あの攻撃でも届かないか」


 観客席で見ていたエルドが悔しそうに下唇を噛む。


「そうですね、エルドくんの考えている通り、私達1年生が出せる最大値をフェザーさんは見せてくれています。ですが……」


 ミナもつられて拳を握りしめる。


「あの攻撃ですら余裕で弾き返してくるのが3年生と1年生の経験値差っちゅうことやな」


 そう結論づけるナギは、すでに気落ち気味だった。


 フィールドでは、焦りを募らせたフェザーが勝負を急いでいた。


「魔力が先に尽きる......! これならどうですか!」


 フェザーが上空で静止し、全ての光翼を長杖に収束させる。

 最大出力による広範囲殲滅魔法。

鏡で反射しきれないほどの質量で押し潰すつもりだ。


「 『天聖突ホーリー・レイザー』!!」


 極太の光の柱が、ユーノへと降り注ぐ。

直撃すればフィールドごと蒸発しかねない威力。


 だが、ユーノはそれを見上げ、眼鏡の奥の瞳を冷ややかに細めただけだった。


「......誘導完了。そこまでだ」


 パチン、と。ユーノが指を鳴らした。


その瞬間、フェザーの周囲――上空の空間に、目に見えない「何か」が起動した。


「え?」


 フェザーが気づいた時には、遅かった。

 彼が必殺技を撃つために「静止」したその座標。

そこは、ユーノが序盤から鏡の反射を利用して、密かに魔力を溜め込み、「トラップ」として配置していた。


「――収束」


 フェザーの放った『天聖突ホーリー・レイザー』よりも早く、周囲360度から見えない熱線がフェザーを襲った。

超高熱の結界が、フェザーの逃げ道を完全に塞ぐ。


「あ、がぁあああああっ!?」


 熱量に焼かれ、フェザーの『天聖突ホーリー・レイザー』が霧散する。

 

 魔術構築が維持できない。

 集中を乱されたフェザーは、光の翼を維持できず、きりもみしながら地上へと落下した。


「ぐっ!」


 地面に叩きつけられたフェザーが、苦悶の表情で起き上がろうとする。

 だが、その喉元には、いつの間にか移動していたユーノの指先が突きつけられていた。


「......良い魔術だったよ。でも、君は自分の光に目が眩んで、周りが見えていなかった」


 ユーノが静かに告げる。

 その手元の魔道書が、音もなく閉ざされ霧散する。


「戦いとは火力比べじゃない。相手を自分の掌の上で躍らせるゲームだ」


「......っ、ぐ......!」


 フェザーの手から長杖が滑り落ち、地面に当たる寸前で光の粒子となって霧散した。

 完敗だった。

 力の差ではない。戦い方の引き出しの差、そして「場」を支配する経験値の差。


「勝者、ユーノ・ナテラ!」


審判の声が響く。


「......やはり強かったですね」


 控え室で、アリアは深いため息をついた。

 ユーノは汗一つかいていない。

 最初から最後まで、フェザーはユーノの描いた脚本の上で踊らされていただけだ。


「……経験値が違いすぎたな」


 隣のシオンが横目でモニターを見る。

 あの試合を見てもなお、表情が崩れないシオンをみてアリアは一種の不気味さを覚えるが、それはアリアにとって今に始まったことではない。

 


「さて......そろそろ僕の番か」


 シオンが立ち上がる。

 会場ではEグループの残り試合――ユアン対ザルマの3年生対決が始まろうとしていたが、それを悠長に見ている余裕はない。


 その次はいよいよ、グループFの初戦。

 シオン対タルマ・ネウギ。


「行ってくるよ。......まあ、適当にやってくるさ」


「1年生の意地を見せてくださいね」


 アリアの言葉にシオンは苦笑いを浮かべ、控え室を後にする。

 その足取りは重い。


「タルマ先輩は3年6位。ユーノ先輩ほどの技巧派じゃないにしても、百戦錬磨の上級生です。シオンさんであれば対応できると思いますが、やはり3年生があれだけの実力差を見せてくると不安は拭えません」


 アリアは重たい足取りで出ていくシオンを見送りながら、再度モニターに映るEグループの第2試合に視線を戻した。


 

 

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