68
翌週。
精霊大祭学院選抜戦、グループ分けの抽選会の会場にシオンはいた。
「なぁ、帰っていいか?」
「あかん」
開口一番、逃亡を図ろうとするシオンの首根っこを、観客席の最前列から身を乗り出したナギがガッチリと掴む。
会場となる演習場には、選抜された24名の生徒と、それを見物に来た全校生徒で溢れかえっていた。異様な熱気に、シオンは早くも胃もたれを起こしそうだった。
「ナギ。これ『抽選会』だぞ?くじ引くだけだろ?僕が引かなくても勝手に決めてくれればいいじゃないか」
「アホ言いな。こういうのは『誰と当たるか』っていうドキドキ感を味わうイベントなんや。主役が不在でどないするん」
「いらないね、そのドキドキ。僕には致死毒だ」
ふぅ、とシオンが大げさに溜息をつくと、隣で資料を見ていたエルドが呆れたように口を開く。
「諦めろシオン。それに、今日のくじ運はお前の今後10日間を左右する重要なものだぞ」
「10日間?選抜戦ってそんなにやるのか?」
「……お前、本当に何も聞いてないんだな」
エルドがこめかみを押さえる。横からミナが補足した。
「今回はトーナメント形式ではなく、4人1組の総当たりリーグ戦ですから。試合数も多いですし、日程も長期間になります」
「リーグ戦……? 負けたら終わりのトーナメントじゃないのか?」
「はい。同じグループの3人全員と戦って、その勝敗数で順位を決めます」
その言葉に、シオンの顔から血の気が引いた。
「おい待て。それってつまり、初戦で負けても『はい終わり、解散!』にはならないってことか?」
「なりませんね。消化試合になろうが、きっちり3戦やってもらいます」
「もっといえば、勝っても負けても序列戦の組み合わせに影響するから、全敗しようもんならその後がかなり大変になるぞ」
「地獄かよ……」
一発負けて早々にリタイア、というシオンの完璧な計画が音を立てて崩れ去った。
絶望するシオンに、さらにエルドが追い打ちをかける。
「しかも、予選を抜けられるのは各グループの『1位』だけだと思った方がいい」
「1位だけ? 2位は?」
「2位は敗者復活戦行きだ。残りの2枠を巡って、2位同士で泥沼の潰し合いをさせられる。……正直、そこには回りたくないな」
「うわぁ……」
つまり、1回でも負ければその時点で1位通過は絶望的。
さらに2位になれば、地獄の延長戦が待っているということだ。
「ようは、全勝してさっさと1位抜けするのが一番楽ってことや。わかったらシャキッとし!」
「3位狙いか……」
「アホ言え!」
ナギに背中をバシッと叩かれたタイミングで、会場のアナウンスが鳴り響いた。
いよいよ運命のくじ引きが始まる。
◆
ステージ上に設置された巨大な魔法スクリーンに、次々と名前が表示されていく。
会場がどよめきと悲鳴に包まれる中、アリアとアリスが疲れた顔でシオン達の元へやってきた。
「……終わった」
アリスが真っ白に燃え尽きていた。
隣のアリアも、さすがに苦笑いを隠せていない。
「心中察するよ……。まさか、あんな偏り方をするなんてな」
「ど、どうしたんだ?」
「あれを見てください、シオンさん」
ミナが指差した先。
スクリーンの一番左端、『Aグループ』の欄には、同情を禁じ得ない名前が並んでいた。
【グループA】
ルイ・コフィーン(3学年序列1位)
ユーノ・グレイス(3学年序列5位)
ルシア・アルステッド(1学年序列2位)
アリス・フェンリズ(1学年序列3位)
「うわ……」
シオンは思わず声を漏らした。
学院最強の3年生と、1年生のトップランカー2人が同じ箱に詰め込まれている。残りの1人も3年生だ。まさに『死のグループ』である。
「なんでだよぉ!ルシアはともかく3年生2人一緒なのかよぉ!しかも生徒会長じゃんか!これじゃ予選突破なんて無理ゲーだろぉ!」
「まあまあアリス。2位になればまだチャンスはあるから……」
「2位になるのだって地獄でしょ!?もう嫌ぁぁ!」
頭を抱えてしゃがみ込むアリス。
その悲劇に会場中が同情の視線を送る中、シオンはおそるおそる自分の名前を探した。
「ええと、僕は……一番端の『F』か」
視線を右端へ移す。
そこに表示されていた名前は――
【グループF】
タルマ・ネウギ(3学年序列6位)
ナービィ・ブライト(2学年序列6位)
シオン(1学年序列7位)
エド(1学年序列8位)
「……ん〜〜〜?」
シオンは瞬きをした。
Aグループのインパクトが強すぎたせいだろうか。他のグループと比べても、明らかにFグループだけ『圧』が足りない。
3年生の名前もあるが、上位でよく聞く有名人ではないようだ。
「……シオン。あんた、またやったな?」
「はは、シオン君らしいというか……」
ナギとミナがジト目を向ける。
アリスが涙目で食ってかかった。
「ずるい!なにあのアタシとは真逆のグループは!私のところと難易度が違いすぎるでしょ!?」
「いや、僕に言われても……運だし」
「代わってよ! 今すぐ代わってよぉ!」
「無理言うなよ」
アリスの悲痛な叫びを聞き流しながら、シオンは内心で安堵の息を吐いた。
「勝手も負けても目立たなさそうで何よりだな」
最強と言われている生徒会長もいない。アリアやアリスのような知り合いもいない。
実に平和で、地味なグループだ。
シオンは自身の幸運に感謝しつつ、これなら10日間を穏便にやり過ごせるかもしれない、と甘い希望を抱くのだった。




