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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第5章

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書き直すと思います



 轟音と土煙が、廃工場の広大な空間を支配していた。

 王級精霊使い、ギガス。

 彼が振るう戦鎚の一撃は、城壁すら粉砕する質量を誇る。それに加えて、背後に顕現した岩の巨人が放つ拳は、地形を変えるほどの破壊力を秘めていた。


「オラオラオラァ!! どうしたチビ! 潰れちまったかァ!?」


 ギガスが吠える。

 目の前のシャルロッテ目掛けて、何十、何百という打撃を叩き込んだ。

 床はクレーターのように陥没し、舞い上がった粉塵で視界はゼロ。

 常識的に考えれば、肉片すら残っていないはずだ。


「……終いかの?」


 だが、粉塵の奥から響いたのは、退屈そうな欠伸混じりの声だった。


「な……ッ!?」


 ギガスが息を呑む。

 風が凪ぎ、土煙が晴れる。

 そこには、傷一つない――いや、埃一つ付いていない少女、シャルロッテが佇んでいた。

 彼女は周囲に展開されていた不可視の障壁を指先で弄びながら、憐れむような目で巨漢を見上げた。


「お主、本当に王級か?お主の国はずいぶんと甘いのじゃな。わらわの国なら、乳飲み子でももう少しマシな魔力制御をするぞ」


「ふ、ふざけるなァ!! 俺の攻撃が効かねぇはずがねぇ!!」


 ギガスは焦燥に駆られ、魔力を暴走させる。

 地面が生き物のようにうねり、四方八方から鋭利な岩槍となってシャルロッテに襲いかかる。

 逃げ場のない全方位攻撃。


地獄針アース・ニードル!! 串刺しになりやがれェ!!」


 だが、シャルロッテは動かない。

 ただ一言、冷徹に告げた。


「脆い」


 カッ――!

 シャルロッテを中心とした空間が歪んだかと思うと、迫り来る無数の岩槍が、何かに触れた瞬間、砂のようにサラサラと崩れ落ちた。

 防御魔法ですらない。

 単なる魔力の放出。彼女から溢れ出る圧倒的な「格」の差が、ギガスの魔法構造を維持することすら許さなかったのだ。


「ば、バカな……魔法が、霧散した……?」


 ギガスの膝が震え出す。

 本能が警鐘を鳴らしていた。目の前にいるのは、人間ではない。

 人の形をした、災害そのものだと。


「さて、遊びは終わりじゃ。」


 シャルロッテが一歩、踏み出す。

 それだけで、ギガスは数歩後ずさった。


「『原相方舟アークヘルム・エイドス』の本拠地はどこじゃ?」

 

「あ、あァ……?」

 

「答えよ。さすれば、四肢をもぐ程度で許してやる。……答えねば魂ごとすり潰す」


 真紅の瞳が、暗闇の中で妖しく輝く。

 その視線に射抜かれた瞬間、ギガスは恐怖で狂乱した。


「知るかよそんなもん!! 俺は金で雇われただけだ!! テメェを殺すことが俺の仕事だ!それ以外は知らねぇ!」


 ギガスは背後の岩石巨人と融合するように魔力を肥大化させ、自らが巨大な岩の塊となって突っ込んできた。

 捨て身の特攻。

 シャルロッテは、深く、深く溜息をついた。


「そうか。知らぬか。……なら、用済みじゃな」


 彼女は右手を軽く持ち上げ、掌を迫り来る巨体に向けた。

 指先が、死の旋律を奏でる。


「潰えて後悔すると良い」


 瞬間、空気が凍りついた。


「【終災ディザスター・グラビティ)


 ギガスの頭上、わずか数メートルの位置に、握り拳ほどの漆黒の球体が現れた。

 光すら飲み込む、絶対的な闇。

 古代龍に向けたものに比べれば、豆粒のようなサイズだ。

 だが、人間一人を葬るには、これでも「過剰」だった。


「あ……?」


 ギガスが空を見上げる。

 重力が、反転する。

 否、収束する。


 鼓膜をつんざく破砕音と共に、空間そのものがギガスを押し潰した。

 強固な「土の皮膜」も、王級精霊による身体強化の肉体も、岩の巨人も。

 まるで熟れたトマトのように、容易く弾け飛ぶ。


「ぎ、ギャアアアアアアアアアッ!?」


 断末魔は一瞬だった。

 強烈な重力波は、彼を地面に縫い付け、そして厚さ数センチの肉のシミへと変えた。

 後に残ったのは、赤黒く染まった地面と、ひしゃげた戦鎚の残骸だけ。


「……脆いのう」


 シャルロッテは眉をひそめ、靴についた埃を払った。

 圧倒的な静寂。

 それが、王級同士の戦いとは思えない、あまりに呆気ない結末だった。

 



 

 ゾルタンは、その光景を瓦礫の陰から見ていた。

 冷静に戦局を分析するゾルタンは、標的をまずはティコに定めた。


「素晴らしい。あの力は恐らく闇属性。しかもかなり高位のものでしょうね。今は皇女を優先しましょう」


 研究者としての直感が告げている。

 あの少女は、計測不能だ。関わってはいけない存在だ。

 ゾルタンは即座に狙いを切り替える。

 

 皇女さえ攫ってしまえばこちらのものだ――。


「私になら勝てるとお思いですか?」


 冷ややかな声が、行手を塞いだ。


「……」


 ゾルタンが顔を向けると、そこにはもう1人の女性――ティコが立っていた。

 彼女は手にしたハンカチで、手の汚れを拭き取っている。

 その足元には、ゾルタンが配置していた数十人の強化兵たちが、白目を剥いて転がっていた。


「私の兵隊たちを一瞬で……?」

 

「治療の邪魔になりますから、少し眠っていただきました。……さて、貴方には聞きたいことが山ほどあります」


 ティコがベルクをゲイルの側まで連れてくると、その後はゾルタンに一歩ずつ近づいてくる。

 

 彼女もまた、規格外。


「そう簡単に話すと思いますか?これでも研究者の端くれです。あの脳筋のようにいくとは思わないことですね」

 

「研究員なら、なおさらデータを提供していただきましょう。貴方の脳内にある情報を全て」


 逃げ場はない。

 前門の虎、後門の狼。


 それなのに――


 追い詰められているはずのゾルタンの顔は未だに不気味な笑みを浮かべている。

 

 それも束の間。彼の表情が一変した。

 不気味な笑顔から、今度は狂気じみた歪んだ笑みが張り付く。


「まさか、これを使う羽目になるとは。手に入れるのもなかなか苦労したのですがねぇ」

 

「苦労?」

 

「あなた方の強さは規格外だ。ですが、いやだからこそ私のコレクションにするには相応しい!」


 ゾルタンは白衣の懐から、封印の施された二つの試験管を取り出した。

 中には、ドス黒く濁った液体と、発光する核のようなものが浮いている。


「止めるのじゃティコ!そいつを割らせるでない!」


 異変を察知したシャルロッテが叫ぶ。

 

 だが、ゾルタンの方が早かった。

 

 彼は狂笑と共に、二つの試験管を地面に叩きつけた。


 パリンッ!!


 ガラスが砕け散る。

 刹那、廃工場内の空気が一変した。

 地面から噴き出したのは、禍々しい瘴気。

 悲鳴のような、怨嗟のような風切り音が響き渡り、空間を引き裂くような雷鳴が轟く。


「出てきなさい私の可愛い精霊たち!!そして、後悔させてあげなさい」


 瘴気が渦を巻き、二つの巨大な影を形成していく。

 現れたのは、二体の精霊だった。

 だが、その姿はあまりにも痛々しかった。

 全身に鎖のような呪印が幾重にも刻まれ、皮膚の一部は機械的に改造されている。瞳からは理性の光が失われ、ただ殺戮衝動だけを強制的に植え付けられた、哀れな傀儡。


 一体は、嵐を纏う猛獣のような風の精霊。

 もう一体は、荒れ狂う雷光を放つの巨人ような精霊。


「……ッ!?」


 それを見た瞬間、ゲイルを抱き抱えていたベルクの心臓が止まりかけた。

 

 見間違えるはずがない。

 

 幼い頃から、兄・ロイの背中にいつも寄り添っていた、あの頼もしい姿を。

 そして、兄の友であったライゼルが使役していた、誇り高き雷の精霊を。


「あ、あぁ……嘘よ……そんな……」


 ベルクの唇がわななく。

 絶望で、視界が滲む。


「ガルガンチュア……? それに、ヴォルティノーグ……なの?」


「御名答!風帝・ガルガンチュア! そして雷帝・ヴォルティノーグ!」


 ゾルタンが高笑いし、両手を広げてその「作品」を誇示した。


「実験に耐えきれず、使役者が死亡した場合の精霊の処理をすることこそ、私の仕事なのです。所詮は王級のなり損ない。ですが、狂化させたこの状態なら王級にもひけをとりません!」


「き、さま……ッ!!」


 ベルクの全身が、怒りと悲しみで激しく震える。

 兄を殺しただけではない。

 その魂の半身とも言える精霊を、あろうことか操り人形にして、改造し、尊厳を踏みにじったのだ。

 精霊使いにとって、これ以上の冒涜はない。これ以上の地獄はない。


「ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなぁっ!!」


「ヒヒヒ!いい声で鳴きますねぇ!あなたはこの女どもを倒してからゆっくり実験に付き合ってもらいますのでね。大人しく見ていなさい。……さあ行くのです!」


 ゾルタンの命令と共に、かつてロイとライゼル、2人の相棒だったその精霊帝達はティコに虚ろな瞳をに向けた。


 その目には、かつての覇気はない。

 あるのは、プログラムされた殺意だけだった。


「グオオオオオオオオオオッ!!!」


 慟哭のような咆哮と共に、二体の堕ちた精霊が襲いかかった。

 

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