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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第5章

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「遅いー!!」

「お腹すいたー!!」


 シオンたちが両手いっぱいの荷物を抱えて別荘に戻るなり、玄関先で待ち構えていた二匹の猛獣――ナギとアリスが、合唱して出迎えた。

 その目は完全に野生化しており、獲物(食材)をロックオンしている。


「……あのな。お前達があれもこれも注文するからこれだけの量買い回ることになったんだぞ」


 シオンが呆れながら重い荷物をテーブルに置く。

 中身は最高級の肉塊に、新鮮な海鮮、そして山盛りの野菜。

 それを見た瞬間、猛獣たちの表情がパァァッと輝いた。


「うおぉぉ! 肉や! 肉の山や!」

「さすがシオン! わかってるねー!」


「ふふ、市場のおじさんたちがだいぶサービスしてくれましたから。期待していてくださいね」


 ミナも誇らしげにドリンクのケースを置く。

 すでにテラスには、エルドの手によって完璧な炭火が用意されていた。


「おかえり。こっちはいつでも焼けるぞ」


「仕事が早いな、エルド。よし、じゃあ早速始めるか」


 すでに日が落ち、星が瞬く夜景を臨みながら、待ちに待ったバーベキューが始まった。


「肉ぅぅぅぅ!!」


 開始の合図と共に、ナギが箸を伸ばして網の上のカルビを狙う。

 だが、それを横合いから伸びてきたトングが神速で制した。

 カチッ、と鋭い金属音が鳴る。


「ナギ様。まだ焼けておりません。生肉を食らおうとするのは野蛮ですのでおやめください」


「ちぇっ……イオリは厳しいなぁ。ちょっと赤いくらいが美味いんやで?」


「お腹を壊しては元も子もありません。それとアリス様、貴女もです」


 涼しい顔でナギの箸をブロックしたのは、いつの間にか焼き場を仕切っていたイオリだ。

 手にしたトングはまるで剣のように鋭く、絶妙な焼き加減を見極めている。

 その横では、もう一人のメイド――シンシアが涙目で大量の野菜を抱えてアリスに迫っていた。


「あ、アリス様ぁ……! お、お野菜も……ピーマンも食べてくださいぃ……!」


「えー、やだー。お肉がいいー。ピーマン苦いもん」


「そ、そんなぁ……私、頑張って洗ったのにぃ……うぅ……」


 シンシアが今にも泣き出しそうな顔をするので、アリスもしぶしぶピーマンを受け取った。

 このメイドコンビが意外とこの猛獣たちの扱いを心得ている。


「ふふ、賑やかですね」


 その光景を見て、アリアが上品に笑う。

 シオンはイオリが「焼き上がりました」と皿に乗せた肉を受け取り、アリアに渡した。


「ほら、アリアも。遠慮してるとあいつらに食い尽くされるぞ」


「あら、ありがとうございます。……いただきます」


 アリアは少し緊張した面持ちで、タレのついた肉を口に運ぶ。

 ナイフとフォークではなく、割り箸で食べるスタイルも彼女には新鮮なようだ。

 恐る恐る口に含んだ瞬間、その目が大きく見開かれた。


「……っ! おいしい……!」


「だろ? 炭火で焼くと香りが違うんだよ」


「ええ、驚きました。お屋敷で料理長が焼くステーキとはまた違った、野性的で……でも温かい味がします」


 アリアが幸せそうに頬を緩めるのを見て、シオンも自分の分の肉を口に運ぶ。


 美味い。

 

 労働の後の肉は格別だ。特に今日は、理不尽なスパイクを顔面に受け続けた後だから尚更である。


「シオン、こっちのホタテも焼けたぞ。醤油垂らしておいたから」


 エルドが慣れた手付きで殻付きのホタテを渡してくる。


「気が利くな。……エルドは食ってるか? 焼いてばかりじゃないか?」


「ああ、俺は焼きながらつまんでるから平気だ。それに、こいつらが美味そうに食ってるのを見るのも悪くない」


 そう言って苦笑するエルドは、完全にお父さんの顔をしていた。

 猛獣使い改め、このチームの保護者枠は彼で確定らしい。


「シオンさーん! 私マシュマロ焼いてもいいですか!?」


 一通り肉と野菜が行き渡ったところで、ミナが串に刺したマシュマロを持って駆け寄ってくる。


「お、いいな。デザートにはまだ早いが……まあ、今日は無礼講か」


「はい! 外はカリカリ、中はトロトロにしますよー!」


 ミナが楽しそうにマシュマロを火にかざす。

 それを見たナギとアリスも「私もやる!」「アタシも!」と参戦し、今度は誰が一番綺麗に焼けるか選手権が始まった。


「見て見てー! 完璧な焦げ目!」

「あーっ! 私の燃えたー! 黒焦げやー!」

「ふふん、甘いなナギ。アタシのは……あ熱っ!? 落ちた!?」


 ギャーギャーと騒ぐ彼らを、波音が優しく包み込んでいく。

 シオンは冷えた炭酸水を喉に流し込み、夜空を見上げた。

 視界いっぱいに広がる星空。

 公国の影も、王位継承戦の重圧も、今だけは煙の向こうに消えていく。


「にゃあ」と足元でディアナが鳴いた。

 見れば、彼女の前にも高級そうな白身魚の切り身が置かれている。どうやらイオリが気を利かせたらしい。


「お前も満足か?」


『ええ。騒がしいけれど、悪くない夜ね』


 ディアナが舌なめずりをして、シオンの足に身体を擦り付ける。


 宴はまだまだ続きそうだ。

 ナギが追加の肉を要求し、シンシアが慌てて皿を落としそうになり、イオリがそれを空中でキャッチする。

 アリアが初めて食べる焼きトウモロコシに感動し、ミナが焦げたマシュマロをエルドに食べさせている。


 こんな時間が、ずっと続けばいい。

 柄にもなくそう思いながら、シオンはグラスを掲げた。


 誰に向けるでもなく、この最高の夏休みに向かって。

 

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