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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第3章

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39

インフルエンザにかかってました。


 その訃報は突然だった。


 ロイ•アーデルハイド、アーデルハイド公国の皇子。


 学院に戻ったエリナとティコ、そしてシオンとは別行動をしていたシャルロッテが学院近くまで戻っていた。


 

「……運が悪かった。お主が悪いわけではない。」


 シャルロッテがエリナに慰めるような声をかける。

 


「私がもっと早く気づけていれば、こうはならなかった。」


「先輩……。」


 ティコもエリナの顔色を伺う。


「それは妾とて同じ事じゃ。あそこまで調べたからこそ気づけたことでもあろう?」


「それでは意味がない……。」


「なにより、助かった命もある。今はそちらに気持ちを向けるべきじゃ。意味がないことは断じてあるまい。」


 シャルロッテは独自に動き、原相方舟のアジトを見つけていた。だが、すでに敵構成員の姿はなく1人の亡骸と瀕死状態の少年の姿だけが残されていた。


「シオンには伝えておるのか?」


「いや、伝えていない。事態がすでにここまで進んでいればシオンに助けを求める事もあるまい。」


 エリナは後悔と共にその先を見据え始めていた。


 事件の後処理。学院への報告。そして原相方舟に対する今後のアプローチ。

 すべてを自分の手の内で収めることはすでに不可能なところまできている。


 しばらく、誰も口を開かなかった。


 


「それで、ライゼル•ヴォルトレイグは?」


「命に別状はなさそうじゃ。信用できる妾の知人に任せておる。」


 シャルロッテは短く答えた。


「じゃが、かなりの重症よの。」


 その一言に、エリナの肩が僅かに動く。


「精霊は失われ、魔力も枯渇しておる。命は繋いだが……今までの日常に戻れるかどうかは、まだ分からん」


 助かった命。

 救えなかった命。


 秤にかけること自体が、間違っている。

 それでも現実は、そういう形で突きつけてくる。


「……」


 エリナは、目を伏せた。


 拳を握ることも、

 歯を噛みしめることもなかった。


 ただ、静かに立ち尽くしている。


「……奴らは?」


「痕跡のみじゃ。構成員はすでに撤退。証拠になりそうなものも、ほとんど残っておらん」


 計画的だった。

 あまりにも。


 ここで起きたことは、偶発でも暴走でもない。

 最初から“切り捨てる前提”で組まれた動きだ。


 

「今は混乱を広げる時ではない。

 だが――」


 一拍。


「このまま終わる話でもない」


 エリナは、ゆっくりと顔を上げた。


 その目には、怒りも涙もない。

 あるのは、冷えた決意だけだ。


「奴らはすぐにまた現れる。」


 確信だった。

 狙いもはっきりしている。


 ティコは、その言葉を噛みしめるように聞いていた。


 学院。

 生徒。

 日常。


 それらが、もう“安全圏”ではないことを、

 誰よりも先に理解してしまった。


「……先輩」


 恐る恐る、声をかける。


「これから、どうするんですか?」


 エリナは答えなかった。


 代わりに、夜空を見上げる。


 雲の切れ間から、月が覗いていた。

 何も知らない光で、静かに地上を照らしている。



 ◆



 ロイ•アーデルハイドの死亡が学院に伝えられたのは翌日だった。


 事件の詳細は調査中としており、ごく一部の者にのみ正しい情報が伝えられている。

 ライゼル•ヴォルトレイグは未だ行方不明のまま。


 王族2人が絡む大事件は、学院内でも密かに噂されていくようになる。


 

「……王族が狙われている?」


 アリアはアリスの問いに反復して返す。


「この間のナギって子も王族なんだってね?あの子の事件のことは生徒内でも知っている人は少ないだろうし、六位と九位が狙われたとなれば、3人とも王族なわけじゃん?誘拐して身代金が欲しいなら王族を狙うのはリスクすぎるし、なにか他の目的があったんじゃないの?」


「確かに身代金目的なら、もっとやり方があると思います。王族を狙うにしても、一人で十分」


 アリスが眉をひそめる。


「だよね。二人も三人も手を出す意味が分かんない」


「ええ。しかも――」


 アリアは、視線を窓の外に向けた。


 学院の中庭。

 何も変わらない、いつもの風景。


「ロイさんは殺されている。ライゼルさんは行方不明。結果が、あまりにも不均一」


「……確かに」


 誘拐なら、生かす。

 見せしめなら、揃える。


「目的は“金”じゃない。 “政治的圧力”にしても、やり方が雑すぎる」


 アリスは腕を組んだ。


「じゃあ何?

 王族を集めて、精霊を奪うとか?」


「それも考えた。でも――」


 アリアは首を横に振る。


「それこそ、王族を狙ってまで手に入れるものが上級精霊はリスクしかないでしょう」


「必要なのは“王族”そのものじゃない」


 アリアは、静かに結論を置く。


「“王族である精霊使い”が、条件」


「……条件?」

 

 

「血筋、契約の質、精霊との結びつき。

 それらを同時に満たす存在」


 アリスは、少しだけ黙り込んだ。


「……つまりさ」


「ええ」


 アリアは、はっきりと答える。


「選別よ」


 王族なら誰でもいいわけではない。

 強ければいいわけでもない。


 “使えるかどうか”。


「……気分悪い話だね」


 アリスは吐き捨てるように言った。


「そうですね」


 アリアは否定しない。


「アタシ達が狙われる可能性は?」


「今のところは低いでしょう。私たちは王族ではありません。なにより狙われている精霊等級が上級以下なのであれば私たちは対象外です。ですが――」


一拍あけて


「最終的な目的が私達である可能性は否定できません。」


「うん。」


 それはなにか決意にも近いような言葉だった。

 アリスはアリアの真剣な眼差しに言葉を返すことも忘れ、その姿に魅入っているようだった。

 


 

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