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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
序章

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3/42

3



 朝の鐘が鳴るより前に、学院はもう目を覚ましていた。

 普段なら静まり返っているはずの廊下には、生徒たちの小さな足音や囁き声が満ちている。

 精霊たちでさえ、今日は羽や光を落ち着きなく揺らし、主の肩でそわそわしていた。


 理由は言うまでもない。

 序列――昨日の属性検査を元にした順位の公開。


 1学年500名もの生徒を抱えるこの学院で、数字は単なる記録ではない。

 立場であり、評価であり、未来を形づくる“序文”だ。


 


 掲示板前に着くと、人の波ができていた。

 だが私たちが近づくと、空気がわずかに動き、列が割れた。

 生徒たちは下がるのではなく、距離を取る。

 自然反応。理解ではなく本能。


 


「……見られてるね。視線が刺さってる」


 アリスが息を吐き、肩に宿る火精がぱちりと音を立てた。


「今日は特に、でしょうね。

 数字は、普段より想像を簡単にしますから」


 ルシアの声は柔らかいが、その意味は鋭い。

 私は返答せず、紙へ視線を向けた。


 


 一番上に、自分の名前があった。


1位 アリア・フェンリズ(王級/水)


 次に続く二つの名前も、見慣れたもの。


2位 ルシア・アルステッド(王級/光)

3位 アリス・フェンリズ(王級/火)


 周囲の空気が変わる。

 驚きではない。諦めでも、嫉妬でもない。


 納得。

 数字が、それを証明していた。


 


 視線を下へ滑らせていくうちに、

 周囲から漏れる細かな反応と息遣いが耳に触れた。


「やっぱり……」

「この三人は別格だよ」

「王級が三人なんて……歴史でもほぼ前例がない」


 会話の温度は低くても、その奥には熱がある。


 


42位 エルド・ハリオン(中級/雷、下級/風)


 その数字を見た瞬間、私は昨日の検査室での彼の佇まいを思い出した。

 無駄な動作も、誇張された自信もなく、ただ静かに立っていた。

 戦う者の姿勢。

 数字が彼を肯定している。


 


さらに下へ。


193位 ミナ・ローレン(下位/地派生:植物)


 順位だけ見れば目立たない。

 しかし、紙の前で彼女の肩に宿る植物精がそっと光り、寄り添っていた。

 まるで「数字だけで判断するな」と言うように。


 


 そして――ふと、視線が止まる。


 不可解な行が、ひとつあった。


 9位。


 名前がない。

 いや、まるでインクが定着するのを拒んだかのように、そこだけが不自然な空白になっている。

 備考欄には、事務的な文字で一言だけ記されていた。


 『測定時エラー(機材破損により推定値を算出)』


 


「……誰だ?」

「おい、これ……昨日のボヤ騒ぎのやつじゃないか?」

「ああ、あの第三レーンを爆破した……」

「機材を壊して、測定不能で、それでも9位に入ったっていうのか?」


 小さく、しかし決して無視できないざわめき。

 精霊たちでさえ、その欄を避けるように漂っていた。


 



 


「静粛に。」


 鋭い声が空間をひと息で締め上げた。

 視線が教師へと集まる。


 


「これより一年課程を正式に開始する。

 序列は仮であり、絶対ではない。

 だが忘れるな――数字は、現在のお前たちそのものだ。」


 誰かが唾を飲む音が聞こえた。


 


「次に、本学院の制度について伝える。」


 教師が巻物を開くと、淡い魔力光が走った。


 


――《序列戦オーダー


 


「序列戦は二ヶ月に一度、学院側の判断で組み合わせを決定する。

 戦いの形式は自由。武器、魔法、精霊――いずれも制限はない。」


 周囲で精霊たちがざわめく。

 主ではなく、戦いの概念に反応している。


 


「上位者が勝てば順位は維持。

 しかし――下位者が上位者を倒した場合、その順位は入れ替わる。」


 ざわめきが弾けた。

 誰かが息を震わせ、誰かが拳を握り、誰かが笑った。


 


「死傷行為は認めない。

 危険判定に達した場合、結界と教員が介入する。

 だが――事故は、記録として残る。」


 


 最後に、教師の視線がこちらへ向いた。


 


「王級契約者三名は原則免除だ。

 ただし、双方合意のうえ学院が承認する場合、例外は成立する。」


 アリスが静かに笑い、

 ルシアが目を伏せ、

 私は教師から視線を逸らさなかった。


 



 


 そのあと学院案内が始まったが、

 生徒の心はすでに別の場所へ向いていた。


 掲示板。

 数字。

 勝ち負け。

 次の戦い。


 そして――煙の匂いを残した、空白の9位。


 


 精霊たちの光が廊下に淡く散りながら流れていく。

 私たちはゆっくり歩きながら、それぞれの視線を未来へ伸ばした。


 


この学院では、数字はただの結果ではない。

数字こそが、扉を開く鍵であり、閉ざす壁だ。


 


 まだ戦いは始まっていない。

 それでも世界は静かに熱を帯びていく。


 


そして学院は、序列という名前の運命を抱えたまま動き始める。

 

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