表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/126

22

シオン達は、石造りで舗装された道を抜けると、開けた草原に出た。

その先には、巨大な森が広がっている。


「……ほんまに静かなもんやな」


 ナギが、遠慮のない感想を漏らす。


 視界を遮るほどの木々はなく、足元の草も短い。

 風は穏やかで、魔物の気配も感じられない。


「遺跡って聞いてたから、もっとこう……薄暗い場所かと思ってました」


 ミナが、少し拍子抜けしたように言った。


「C区は外縁部だからな。管理も行き届いている」


 エルドは地図を確認しながら答える。


「問題が起きるとすれば、むしろ“想定外”だ」


「不吉なこと言わんといて」


 ナギが即座に突っ込む。


 そんなやり取りをしながら、四人は森へと足を踏み入れた。



 森の中は、思っていたよりも静かだった。


 鳥の声も、虫の羽音もある。

 だが、それらがどこか遠く、背景のように感じられる。


「目的地は、この小湖やな」


 ナギが地図を指差す。


「水質確認と、周辺の魔力濃度測定。ほんまに調査だけや」


「採水用の容器も指定されてるな」


 エルドが任務表を読み上げる。


「湖の水を規定量採取し、拠点へ持ち帰る。滞在時間は最小限、と」


「……簡単、ですね」


 ミナはそう言いながらも、測定器を鞄から取り出していた。


 水晶盤の針は、今のところ安定している。


「数値も、想定範囲内です」


「ほらな。平和な実習や」


 ナギは気楽に笑う。


「安全な区画で、指示通りの情報を正確に持ち帰る。それができなければ、上位区画には行けない」


 エルドは気を引き締めるような表情をする。


 

 シオンは、その様子を横目に見ながら、森の奥へ視線を向けた。


(……静かすぎる気もするが)


 そう思ったが、口には出さない。


 C区。

 危険度・低。

 魔物出現率・極小。


 学院がそう判断した場所だ。


 それを疑う理由は、今のところ何もなかった。



 やがて、木々の隙間から、水面が見え始める。


「見えてきました」


 ミナが声を上げる。


 森に囲まれた、小さな湖。

 水は澄んでいて、波一つ立っていない。


 ――調査地点。


 四人は、特に緊張することもなく、その湖へと近づいていった。



 ◆



「――あれやな」


 木々の隙間を抜けた先に、小さな湖が広がっていた。


 澄んだ水。風もなく、鏡のように空を映している。

 湖畔には倒木がいくつか転がり、苔と湿った土の匂いが漂っていた。


「見た目は、普通ですね」


 ミナが一歩前に出る。


 鞄から、昨日買った簡易魔力測定器を取り出した。


 水晶盤の上で、細い針が静かに揺れている。


「想定魔力値……範囲内です」


 ミナはそう告げてから、湖面を覗き込む。


「水質も、透明度は高そうですね」


「じゃあ、ちゃちゃっと汲んで帰ろか」


 ナギが屈み込み、採取用ボトルを構えた、その時だった。


 ――カチ、と。


 測定器の針が、ほんのわずかに跳ねた。


「……?」


 ミナの動きが止まる。


「どうした?」


 エルドがすぐに反応する。


「いえ……」


 ミナは水晶盤をもう一度見つめ、針の動きを確認した。


「一瞬だけ、数値がブレました」


「ブレ?」


「はい。でも、今は戻っています。誤差の範囲、だと思います」


 ミナはそう言って、首を振った。


「このくらいなら、自然変動でも起きますし……」


「気にしすぎやって」


 ナギはあっさり言い、再び湖に向き直る。


「C区やで?何も起きへんって」


 エルドは一拍置いてから、頷いた。


「……一応、周囲も見ておこう。採取はそのあとだ」


「了解です」


 ミナは測定器を鞄にしまい、周囲の植生へと視線を移す。


 シオンは、湖面をじっと見つめていた。


 水は静かだ。

 波紋一つ立っていない。


『何もないってことはなさそうね。魔力を感じるわ。本当に少しだけど。』


 ディアナがシオンの思考に気づき念話を送る。


「なにかあってからでは遅い。念の為周囲は確認したほうがいいだろう。」


 エルドも違和感を感じ取ったようで全員に提案する。


「そうですね。あくまで調査ですから!」


「しゃーないな。ほな手分けしようか。」



 エルドの判断で、四人は湖の周囲を分担して確認することになった。


「ナギとシオンで、湖の南側」

「俺とミナは、北側を見る」


「了解や」


 軽い返事とともに、それぞれが動き出す。


 湖畔を回る足取りは穏やかだ。

 地面は湿っているが、足を取られるほどではない。


 ナギは先を歩きながら、時折草を踏み分け、倒木の裏を覗く。


「何もないなぁ」


「……そうだな」


 シオンは相槌を打ちながら、周囲を見渡す。


 木々は静かだ。

 風はあるが、葉擦れの音は最小限で、まるで音が吸われているようにも感じる。


(さっきから、精霊も静かすぎる)


 ディアナは、いつもなら何か一言挟んでくる。

 だが今は、珍しく黙ったままだった。


 ――数分後。


「問題なし、やな。」


 ナギが伸びをする。


「そっちも異常なし?」


「ああ。少なくとも、目に見える範囲では」


 二人は湖の中央付近で合流する。


 そのタイミングで、向こう側からミナの声が聞こえた。


「……エルドさん」


 いつもより、少し硬い声。


「どうした?」


 エルドとミナが立っているのは、湖の北側。

 ミナは測定器を両手で持ち、じっと水晶盤を見つめていた。


「数値が……おかしいです」


「さっきの誤差か?」


「いえ。今度は、はっきりと」


 ミナはゆっくりと、測定器をこちらへ向ける。


 水晶盤の針が、左右に細かく震えていた。


「想定値の範囲内ではあります。ですが……」


 言葉を選ぶように、一度息を吸う。


「“揺れ方”が、不自然です」


「不自然?」


 ナギが首を傾げる。


「数値は合っているのに、安定しません。

 まるで……何かに引っ張られているみたいで」


 エルドの表情が引き締まる。


「方向は?」


「……森の奥です」


 ミナが指差した先。


 湖を背にした、さらに深い森。


 木々が密集し、陽の光がほとんど届かない場所だった。


「一度報告に戻るべきだな」


 エルドは即座に判断する。


「C区とはいえ、想定外が出た以上、続行は危険だ」


「えー、もうちょい見てもええんちゃう?」


 ナギは軽く言ったが、ミナの表情を見て言葉を止めた。


「……ミナ?」


「……嫌な感じが、します」


 はっきりとした理由はない。

 だが、その一言には迷いがなかった。


「分かった。戻ろう」


 エルドが言う。


 エルドを先頭にして、四人は来た道を引き返し始めた。


 その時。


 ――草を踏みしめる、軽い音。


「……?」


 シオンが足を止める。


 振り返る。


「ナギ?」


 返事がない。


「……ナギ?」


 もう一度、名を呼ぶ。


 視界の中に、先ほどまで確かにあったはずの姿が――ない。


 森は、静まり返っていた。


「……え?」


 ミナが、小さく声を漏らす。


「……ナギさん?」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ