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静かに暮らしたい最強は、どうやら巻き込まれ体質のようです  作者: じゅくすい
第2章

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 シオンが【序列第8位】になってから、数日が経過していた。


 昇格した翌日こそ、ナギやエルド、ミナからの祝福攻めに遭い、クラスメイトからも質問攻めにされたシオンだったが、今はようやく落ち着きを取り戻しつつある。


 幸いだったのは、シオンへの注目度が「学院全体」で見ればそこまで高くなかったことだ。

 この学院には2年生、3年生という遥かに強力な上級生たちが存在する。

 「1年生内での1桁台の順位変動」というのは確かにニュースだが、学院全体を見ればそこまで珍しいことでもないらしい。

 アリアたち王級のような規格外は別として、シオンの扱いはあくまで「今年は骨のある新入生が入ったな」程度。


 おかげで、シオンは今日も平穏に――とは言わないまでも、胃薬なしで登校できていた。


 1年生たちの話題はすでに、次の序列戦の組み合わせや、王級たちの動向に移っている。


 ――そして、もう一つ。

 この時期恒例の「ある行事」の話で持ちきりだった。



「1年生合同……外部実習? なにそれ?」


「相変わらず何も知らんのな、シオンは」


 ホームルームの時間。教師から配られたプリントを見ながら首をかしげるシオンに、ナギが呆れたような声をかける。

 そのやり取りは、もはやこのクラスの日常風景だ。


「学院内では有名な行事の一つやで。座学や対人戦だけやなくて、実際に外へ出て仕事をするんや。卒業生はこういう進路に進むのも多いからなぁ」


「仕事?」


「そ。魔術師の仕事は派手なバトルだけちゃうねん。調査、採集、護衛……学院を卒業したら、こういう地味な任務が日常になる人も多いんや」


「へぇ、日常ね」


 シオンはプリントに視線を落とす。

 『調査任務』の文字。

 命のやり取りをする決闘よりは、よほど健全で魅力的な響きだ。


「んじゃ、ウチとシオンは参加ってことで決定な。エルドはどうする? せっかくだしパーティ組まん?」


 ナギが振り返ると、後ろの席のエルドが顔を上げた。


「……あ、俺が入るのは決定事項なんだな」


「当たり前やろ。ウチらは運命共同体みたいなもんや」


「あぁ。……まあ、参加するつもりだったからありがたい誘いだ」


 エルドは短く笑い、即答した。

 ナギはシオンの独り言には付き合わず、エルドの返事に満足そうに頷く。


「よっしゃ。これで前衛は安泰やな」


「前衛って……もう役割まで決めてるのか」


「決めとかんと動かれへんやろ? シオンは遊撃、ウチは中衛や」


 当然のように言われて、シオンは小さく息を吐いた。

 拒否権はないらしい。


 その様子を、少し離れたところからミナが見ていた。

 おずおずと、けれど意を決したように近づいてくる。


「……あの」


 三人の視線が集まる。


「もし、その……迷惑じゃなければ……私も……」


 声が小さくなる。

 彼女の視線がナギからエルドへ、さらにシオンへと移る。


「外部実習、参加してみたいなって……思ってて」


 一瞬の沈黙。


 ナギがきょとんと目を瞬かせたあと、ぱっと花が咲くように笑った。


「なんや、ええに決まってるやん!」


「で、でも……私は戦闘向きじゃないですし……」


 ミナは視線を落とす。


「精霊も補助寄りで……皆さんの足を引っ張るかもしれません」


 ランク193位。

 上位ランカーが集まるこのグループにおいて、彼女が引け目を感じるのは無理もないことだった。


 だが、エルドが首を横に振った。


「判断と支援ができる人間は必要だ」


「え……」


「全員が前に出て剣を振るう必要はない。後方で全体を見て、回復や防御を行える人材は、前衛にとって命綱だ」


 短く、はっきりとした言葉。

 そこには社交辞令ではない、実力者としての信頼があった。


 ミナは驚いたように顔を上げる。


「……いいんですか?」


「あぁ。むしろ頼みたい」


 ナギも肩をすくめて笑う。


「ウチら、別に無茶して魔物討伐する気ちゃうしな。安全第一や」


「できることを、精一杯こなせばいいんだよ」


 シオンが最後に口を挟むと、ミナの瞳が潤んだ。

 彼女は少しだけ迷ってから、深く息を吸った。


「……じゃあ、お願いします。私、頑張ります!」


 そう言って、ぺこりと頭を下げる。


 これで、四人。

 自然と並んで立っていることに、シオンは遅れて気づいた。


(……あれ?)


「ってことは、パーティ完成してない?」


「今さら気づいたんかい」


 ナギが即座に突っ込む。


「こういうのは勢いやで、勢い。早い者勝ちや!」


「……巻き込まれた気しかしない」


「安心し。外部実習は全員参加ちゃうからな」


 ナギは配布された紙を指で叩いた。


「下級精霊の契約者も多いし、300位以下は見送りが普通や。入学したてで一緒に動く相手がおらん子も多いしな」


 ミナが、その言葉に小さく頷く。

 だからこそ。属性もランクもバラバラなこの四人が、当たり前のように組むのは自然な流れだったのだ。


「……まぁ」


 シオンは苦笑する。

 悪い気分ではない。


「行くからには、何も起きないといいんだけど」


 ナギが、にやっと笑った。


「それ、フラグ立てる人のセリフやで」


「やっぱり?」


「やっぱりや」


 四人は顔を見合わせ、笑い合った。

 そのまま、教室のざわめきに意識が引き戻された。



 チャイムが鳴り、教師が教卓の前に立つ。

 手元の資料を整え、厳粛な声を出した。


「今回の外部実習は、学院が毎年実施している定例行事だ。目的は“調査”――戦闘ではない。不要な戦闘を回避し、情報を持ち帰ることもまた、魔術師の重要な技術だ」


(その言い方じゃ、結局戦闘するんじゃん)


 シオンは心の中でツッコミを入れるが、教師は淡々と説明を続けていく。


「実習先は、国の辺境にある『旧戦争遺跡』。

 過去の戦争の影響で、特殊な生態系が形成されている地域だ。君たちの役割は、区画ごとに定められた魔物の出現情報が、現在も有効かどうかを確認すること」


 教師の声に合わせて、生徒達は配られた遺跡の地図を確認する。

 広大な森と、風化した石造りの建造物が描かれている。


「なお、この実習は自由参加だ。

 戦闘能力、契約精霊の位階、本人の希望を考慮した上で、参加者には担当区画を割り振る。もちろん、その実習も成績につながるから、参加できる者は参加することを勧める」


 成績につながることを聞き、少しざわつく教室内。

 だが、すでにメンバーが決まっているシオン達の興味は、すでに「現地」に向いていた。


「……調査、ね」


「戦うわけではないってことですね」


「まぁ実際、こういう仕事が一番多いんやけどな」


 ナギが伸びをしながら言う。


「学院出たら傭兵になる者であっても、いきなり最前線には放り込まれへんからな。“安全な場所であっても、油断せず正確な情報を持ち帰る”。それができるかを見る実習や」


「なるほどな」


 三人の言葉を受けて、シオンは小さく息を吐いた。

 それなら、自分たちでもこなせるだろう。

 1年の8位になったからといって、上級生のような無茶な期待をされることもないはずだ。


 そう思った、次の瞬間。


「参加希望はウチが代表して出してくるで! リーダーはシオンな! ほな行ってくるわ!」


「お、おい!?」


 シオンが止める暇もなく、ナギの姿はすでに風のように教卓へ向かっていた。


「……はぁ」


 結局、逃げ道はないらしい。

 シオンは諦めて、窓の外の空を見上げた。


 遠くに見える空は青いが、どこか不安定な雲が流れている気がした。

 

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