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興信所の者ですが!!〜事件を解決するたびに、仏頂面の狼獣人副隊長の尻尾が揺れるんですけど!?〜  作者: 三來


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07. 副隊長の家族と、繋がる連絡


 画家の彼が描いてくれた、一枚の似顔絵。  


 深い皺の刻まれた、穏やかそうな、しかしどこか強い意志を感じさせる老人の顔。

 

 これが、私の依頼人である神城澪さんの兄の手がかりになるかもしれない。


 あの画家が追加で描いてくれた兄の分も加え、二人の似顔絵を元に、憲兵の方々も聞き込みに協力してくれることになった。


 私一人で動くよりも、ずっと効率がいいだろう。


 ひとまずの手がかりを得たことで、少しだけ安堵の息をつく。

 相変わらず羅針盤は、私が何度確認しても、ただくるくると回り続けるだけなのだ。どうやら追加の情報をもたらす気は無いらしい。


「……人手があるだけ、いいわよね」


 仮に日本で探し続けていたとしたら、見つからない人間を永遠と一人で追っていただろう。そう考えれば、確実に前進しているのだと前向きに考えたい。


 ため息をつきつつも、私は気持ちを切り替える。


 動いてくれている人がいる今、私は私の約束を果たさなければいけないだろう。


 シュタイン副隊長とした当初の契約。「私の持つ技術を伝える」ため、私は憲兵隊の会議室へと向かうのだった。




 会議室の一室に、シュタイン副隊長と、彼と同じように肩に飾りのついた制服を着た男女が集まっていた。

 彼らが各部隊の隊長、副隊長クラスなのだろう。


 私が持つ技術について伝える最初の場として、まずは彼らに内容を説明し、この世界で応用可能かどうかのすり合わせを行うことになったのだ。


 部屋の中央に進み出た私は、集まった上官たちに向かって一礼した。


「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。あちらの世界で調査員をしておりました、水瀬蒼と申します。本日は、私の経験に基づいた尾行技術についてお話しさせていただきます」


 私の自己紹介を受け、中心に座っていた一人の女性が立ち上がった。


 彼女もまた獣人らしく、ヒョウのような耳と、しなやかな尻尾が目を引いた。彼女の制服には、副隊長以上の位を示すような装飾が付けられている。


「私がここの憲兵隊長を務める、アレクサンドラ・シュタインだ。蒼、稀人である君の知識と経験には大いに期待している。よろしく頼む」



 はて。シュタイン……?


 彼女の名字を聞いて、私は内心で首を傾げた。シュタイン副隊長と同じ名字……。もしかして、ご夫婦なのだろうか。


 そんな私の疑問には気づかない様子で、アレクサンドラ隊長は席に着くよう促した。


「では、まずは聞こうか」


 その言葉に、私は逸れていた思考を切り替えた。


 私がしてきた尾行方法、連携、対象を見失った際の対処法、そして万が一気づかれそうになった場合の引き際。


 興信所で叩き込まれた知識と経験を、分かりやすく説明していく。

 その間、その場の全員が真剣な表情で耳を傾けてくれたのはありがたかった。


 一通り説明を終えると、アレクサンドラ隊長が口を開く。


「なるほど、理にかなっているな。特に仲間との連携は、我々も取り入れるべき点が多い。……だが、蒼。離れた場所にいる者との連携は、具体的にどうやって取るのだ? 声を出せば対象に気づかれるだろう」


 鋭い指摘だ。私は頷き、ポケットからスマートフォンを取り出した。


「これを使います。……そういえば、きちんと説明したことがありませんでしたね」



 私はスマホについて簡単な説明を加えた。

 

 遠くの人と声で話せること、そして文字でのやり取りも可能であること。


「この世界には、このような機械や応用できそうなものはありますか??」


 私の問いに、アレクサンドラ隊長が悩まし気に口を開く。


「そのような便利な物があればよいのだがな……なるほど、課題はそれか」


 隊長の言葉を皮切りに、その場の全員が意見を交換し合う。

 照明弾では気づかれるだろう、音も難しい。では匂いや煙はどうか。

 


 そんな意見交換を耳に入れている時だった。



 ピロン、と軽い通知音が静かな部屋に響いた。



 私のスマホに、メッセージが届いたのだ。


「繋がったの……!?」


 慌てて画面を確認すると、そこには健吾の名前が表示されていた。


『事務所もあいたまま、電話も繋がらない。無事か』


 短い文面だが、彼の心配が伝わってくる。  


 驚きと連絡がとれたことへの希望で思わず固まる私に、アレクサンドラ隊長が促した。


「どうした。その……『スマホ』とやらに連絡があったのだろう? ならば、お前も何か連絡してみたらどうだ」


「は、はい!」


 私は慌てて通話を試みるが、繋がらない。

 電話は無理でも、同じようにメッセージならばと「生きてる。電話は繋がらないし、帰れないけど無事」と焦りで震える指を制しながら打ち込み、送信ボタンを押した。


 送信失敗。……もう一度。失敗。


 それでも諦めずに、何度か再送を繰り返すうち、軽やかな通知音と共に、『送信しました』の文字が表示された。



「……送れた」


 もちろん、メッセージでも何度か試してはいたのだ。が、送れたのは今日が初めてのことだった。


 呆然と呟く私に、隣にいたシュタインが低い声で尋ねる。


「別の世界にいるとは伝えないのか」

「……信じるとは、思えません」


 確かに、ここに来た当初は、今起きていることを伝えなければとそう思っていた。


 でも、冷静になればなるほど、信じてもらえる可能性の低さに眩暈がしそうだった。


 ひとまずは、無事を伝えることが先決だろう。そう結論づけた私の返事に、彼はそれ以上何も言わなかった。



 沈黙が落ちる会議室。


 

 私たちの様子を見ていたアレクサンドラ隊長が、パン、と手を叩く。


「よし、今日の講義はここまでだ。各自、今の話を部隊に持ち帰り、どう活かせるか検討するように。……エドヴァルドは一時退室して扉前で待機。蒼だけ残りなさい」



 有無を言わさぬその声に、他の隊長たちが一礼して退室していく。


 シュタインだけは、部屋を出る前にひとこと、「今日の聞き込みは憲兵に任せろ」と私の肩を軽く叩いてくれた。


 その気遣いが少しだけ嬉しい。改めて、この世界で一人では無いと実感しながら黙礼を返す。


 そうして彼が出ていくのを見送ると、隊長が面白そうに口元を歪めた。


「どうやら、あの朴念仁ぼくねんじんは君をいたく気にかけているようだ」

 

 思いがけない一言に私は慌てた。


「えっ? あ、いえ、ご主人にはいつもよくしていただいています!」



 先ほどの名字の件が頭をよぎり、奥様ならば礼をせねばと、瞬時にそう答えてしまった。


 すると、彼女は一瞬きょとんとした後、腹を抱えて大笑いし始めた。



「ぶっ、ははは! そうか!! 夫婦だとおもったのか!! これは傑作だ!!」


 涙を拭いながら、彼女は笑い続ける。


「いや、すまない。私の説明不足だったな。改めて、私はアレクサンドラ・シュタイン。ここの憲兵隊長で、そして」


 彼女は悪戯っぽく笑って続けた。


「アイツの、血の繋がった姉だよ」


「え……っ!? お、お姉さん……ですか?」


「ああ。あれは可愛い可愛い私の弟だ。コキつかってやりなさい」


 予想外の事実に、私は固まってしまった。ただ、ぼんやりとした疑問が脳をよぎる。


「……あれ、でも……名字は同じでも、種族が……」



 どう見ても狼とは思えない彼女の獣人としての特徴に、うっかり疑問が口から出てしまう。


「……あ、申し訳ありません。つい気になってしまって」


 うっかり疑問が溢れてしまったが、複雑な家庭環境もあるかもしれないと、口を慌てて抑えて謝罪した。


 そんな私を見て、アレクサンドラ隊長は、ああ、と頷く。


「そうか、君たちの世界には獣人はいないのだったな。これはまた失礼した」


 居住まいを正して、アレクサンドラ隊長が獣人についての説明を始める。


「獣人は『獣人』という種族なのだ。それぞれの獣の特性を身に帯びるが、どの獣人になるのかは血に左右されず、個人個人違う。獣人と人間の間に、人間が生まれることもあれば、親とは全く違う種族が生まれることもザラにある」



 そう言って、彼女はケタケタと笑った。


「それが一人の獣人の稀人から、多様な獣人が広がった理由だよ」


 そう言われれば、そうであった。

 血に左右されるのなら、この世界の獣人が複数種いるのはそもそもおかしな話だったと、今更気がつく。



「……思い至らず、お恥ずかしい限りです」

「いやいや、気にすることは無いさ。……で、蒼。先ほどの連絡相手は、お前の『好い人』か?」


「いえ、数少ない友人です」


 私の否定に、アレクサンドラ隊長は、一つ頷いた。


「なるほど。だが、お前を心配し、状況を知りたがっている。そうだな?」


「はい。……私としても、説明したい気持ちはあるのですが……おそらく信じられないかと」


「……ふむ」


 アレクサンドラ隊長は顎に手を当てて、何かを考えているようだった。

 そして、にやりと笑う。


「では、わたしのことを相手に見せることはできるか」

「……どういう意味でしょうか」


 

「蒼の世界には獣人がいないのだろう? ならば、目の前の私の姿を見せることができれば、少しは相手も『普通ではない状況』だと納得するやもしれん」


 確かに、一理あるかもしれない。 私が納得している間に、彼女は行動を起こした。


「エドヴァルト! 戻ってこい!」


 隊長の呼び声に、訝しげな顔でシュタインが部屋に戻ってくる。


「何か?」

「ああ。少し付き合え」



 アレクサンドラ隊長は、私のスマートフォンで自分とシュタインのツーショットを撮らせた。


 次に、それぞれの顔がよく分かるアップの写真。


 そして、最後。



「よし、蒼。お前も弟の隣に立て」


「えっ、私もですか!?」


「当たり前だろう。お前が一緒に写らねば、意味があるまい」



 有無を言わさぬ姉の命令に、シュタインは諦めたような顔で私の隣に立った。戸惑いながら、私も彼の隣でレンズに視線を向ける。


「よし!そら、笑え!!」


 操作を覚えたアレクサンドラ隊長は、実に嬉々として、何枚も私たちの写真を撮った。


「こんなものか。さあ、これを送ってやるといい」


 ニコニコしながらスマホを返してくる彼女に、私は若干引き気味になりながらも、言われた通りに健吾へ写真と追加のメッセージを送信した。


 わたしの現状。そしてわたしの探し人もこの世界にいるらしいこと。


 再送信の連打を覚悟したが、どうやら今度は、すんなり送信完了できたようだ。


「ありがとうございました。……あの、最後の写真は必要でしたか?」

「何を言う。一番重要な写真だろうに」



 そう言って笑う隊長に、私はそれ以上何も言えなかった。


「では、二人とも、もう行っていいぞ」


 その言葉に、私とシュタインは共に部屋を退室することにした。


 その間際。


「蒼、この隊にシュタインは二人いるから紛らわしい。それぞれ名前で呼ぶように」


 その言葉と共に閉じられた扉を、じっとりとした目でシュタイン……エドヴァルト副隊長は睨んでいた。


「……えっと?」


「……好きに呼ぶといい」


 私の問いにそう答えたエドヴァルトの顔は、初めてみる「姉に振り回される弟」のものだった。


 ちょっと可愛く見えたのは、私だけの秘密である。


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 お姉さん強いですね。
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