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イキルイシ

作者: 要徹
掲載日:2010/06/04

 真っ暗な駅のホームに、明々とした照明をぶら提げた電車がやってきた。

 時刻は〇時過ぎ。もうそろそろ終電の時間だ。そのためか、多くの人間がその電車に乗り込んだ。乗車した客は例外なく死んだ目をしていて、相当疲れているものと見える。背中を猫のように丸め、スーツは草臥れ、髪は乱れに乱れており、まるで落ち武者のようである。

 車掌が両ごとに切符を切って回る。目的地への片道切符を手に持ち、皆が車掌を待っている。車掌は一枚、また一枚と切符を切っていく。切符を切られた客は、その後ぐったりとして、

「ありがとう」

 と呟いた。

 次の駅、次の駅と行くにつれ、客は増え始める。さっきまではサラリーマン風の人間ばかりだったが、今の車内には学生も混じり始めている。中には、どこかで転んだのか、傷だらけで乗車する者もいた。

「どうして、こんな世の中になっちまったんだろうなあ――」

 車掌はぼやかずにはいられなかった。毎日、毎日死んだ魚の目をした人間の切符を切る、そんな生活は嫌だった。誰も生きる希望など持たず、誰もその列車に乗ることをためらわない。何の未練もなく、ただ乗車する。

 終着駅の手前で、一人、気になる客が乗りこんできた。

 その客は、手に家族の写真を持っていた。写真に写っている、妻と見られる女性はとても幸せそうな笑みを浮かべている。その女性の隣に、二人の男の子が写っていた。きっと、彼らは成長すればたくましい男になるだろう。

 客は、車掌に無言で切符を手渡す。

「本当にいいのかい?」

 客は何も答えなかった。ただ切符を差し出して、うつむいたままでいた。客は、かすかに涙を流し、体を小刻みに震わせていた。

 車掌は小さくため息をつき、言った。

「あんたはまだこの電車に乗るべきじゃないな。さ、降りて家に帰るんだ。家族が待っているのだろう?」

 客は顔を上げ、笑いかけた。

「そうだね。ありがとう」

 深々と頭を下げ、彼は電車を降りて去って行った。

 暗闇にサーチライトを当て、終着駅を照らす。しかし、いくら光を強くしても、先は見えない。終着駅は、永遠に見ることは出来ない。いや、見ないほうがいい。君たちも、いずれこの地を訪れることになるだろうから――。

 車掌は、マイクを手に取り言った。


「次は終点、黄泉の国、黄泉の国。この世に未練のある方、生きる意志のある方は、今すぐに下車してください。もう二度とこの世には戻れません。間もなく、発車いたします」


デフレの影響か、生命というモノが安くなってきましたね。

命の価値は、決して値下がりしてほしくないものです。

あなたが今、捨てようとしているソレは、どれだけの価値があるのでしょうね。

今一度、命の価値を考えてみると良いかもしれません。

決して安くはないものだと気づくはずです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんな列車が架空でも走っていることが本当に辛いですね。 そんな中切実に切符を切っていく車掌さん。彼の心境がすごく心に染みて、いろいろ考えさせられます。 疲れている人は幾らだっている。死にたい…
[一言] うーん、この作品いいですね。私は好きです。 やはり、帰るように言ってくれる車掌さんが乗っていることを切に望みます。 故郷では、自殺する人が急激に増えています。生きていればやがて違う人生も訪れ…
2010/06/06 16:28 退会済み
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