イキルイシ
真っ暗な駅のホームに、明々とした照明をぶら提げた電車がやってきた。
時刻は〇時過ぎ。もうそろそろ終電の時間だ。そのためか、多くの人間がその電車に乗り込んだ。乗車した客は例外なく死んだ目をしていて、相当疲れているものと見える。背中を猫のように丸め、スーツは草臥れ、髪は乱れに乱れており、まるで落ち武者のようである。
車掌が両ごとに切符を切って回る。目的地への片道切符を手に持ち、皆が車掌を待っている。車掌は一枚、また一枚と切符を切っていく。切符を切られた客は、その後ぐったりとして、
「ありがとう」
と呟いた。
次の駅、次の駅と行くにつれ、客は増え始める。さっきまではサラリーマン風の人間ばかりだったが、今の車内には学生も混じり始めている。中には、どこかで転んだのか、傷だらけで乗車する者もいた。
「どうして、こんな世の中になっちまったんだろうなあ――」
車掌はぼやかずにはいられなかった。毎日、毎日死んだ魚の目をした人間の切符を切る、そんな生活は嫌だった。誰も生きる希望など持たず、誰もその列車に乗ることをためらわない。何の未練もなく、ただ乗車する。
終着駅の手前で、一人、気になる客が乗りこんできた。
その客は、手に家族の写真を持っていた。写真に写っている、妻と見られる女性はとても幸せそうな笑みを浮かべている。その女性の隣に、二人の男の子が写っていた。きっと、彼らは成長すればたくましい男になるだろう。
客は、車掌に無言で切符を手渡す。
「本当にいいのかい?」
客は何も答えなかった。ただ切符を差し出して、うつむいたままでいた。客は、かすかに涙を流し、体を小刻みに震わせていた。
車掌は小さくため息をつき、言った。
「あんたはまだこの電車に乗るべきじゃないな。さ、降りて家に帰るんだ。家族が待っているのだろう?」
客は顔を上げ、笑いかけた。
「そうだね。ありがとう」
深々と頭を下げ、彼は電車を降りて去って行った。
暗闇にサーチライトを当て、終着駅を照らす。しかし、いくら光を強くしても、先は見えない。終着駅は、永遠に見ることは出来ない。いや、見ないほうがいい。君たちも、いずれこの地を訪れることになるだろうから――。
車掌は、マイクを手に取り言った。
「次は終点、黄泉の国、黄泉の国。この世に未練のある方、生きる意志のある方は、今すぐに下車してください。もう二度とこの世には戻れません。間もなく、発車いたします」
デフレの影響か、生命というモノが安くなってきましたね。
命の価値は、決して値下がりしてほしくないものです。
あなたが今、捨てようとしているソレは、どれだけの価値があるのでしょうね。
今一度、命の価値を考えてみると良いかもしれません。
決して安くはないものだと気づくはずです。




