お嬢様 東光連合VS自然の力
伊勢志摩の海沿いの町。
夜明けとともに第一陣が到着したとき、街はすでに瓦礫と化していた。道路は裂け、電柱は倒れ、家屋は半壊や全壊で押し潰されている。
まだ余震が続き、人々の悲鳴と泣き声が冷たい風に混じっている。
300台のモトクロスが、避難所予定地の校庭に集結する。
被災者の目に、その集団はまるで統制された救助部隊のように映った。
蓮率いる不如帰が、瓦礫と化した住宅地に突入する。
スコップや油圧カッターを使い、倒壊した家屋を掘り返す。
「声がする! この下だ!」
土木経験のあるメンバーが即席の支柱を組み、崩落を防ぎながら中から親子を救い出した。
このような災害は、時間との戦いである。発生から48時間が勝負である、48時間を過ぎれば被災者の生存率は大幅に減るからである。
避難所となる校庭の一角に、テントが素早く設営される。
玲奈が血だらけの腕を持つ老人を診察しながら叫ぶ。
「止血が必要! 誰か消毒液!」
アルテミスの彩も手を貸し、衛生物資を次々と手渡す。
応急処置を受けた人々の中には涙ぐむ者もいた。
自衛隊や政府からの医療チームが送られてくるまでは、ここが医療の最前線となる。
避難所の隅で泣きじゃくる子どもたちに、行馬が静かに声をかける。
「大丈夫、君たちは一人じゃない」
僧衣姿の彼が柔らかく微笑むと、子どもたちの表情に少し安堵が浮かんだ。
ひまりは紙芝居のように物語を語り、震える子どもを膝に抱えて落ち着かせる。
瓦礫を撤去し、住民を避難場所へ誘導していた東光連合の面々。その最中....
「ゴゴゴゴゴ……ッ!」
再び、大地が低く唸りを上げた。
「余震か?」
あかねの叫びと同時に、避難所代わりにしていた古い公民館の壁が崩れ、悲鳴が上がる。
「中にまだ人がいる!」
千秋が駆け出そうとするが、倒壊しかけた建物はいつ落ちてもおかしくない。
「危険すぎる!」
梓が制止するも、目の前で泣き叫ぶ子供の声が背中を押す。
すると、「俺に任せろ!」と、神奈川のリーダー・龍司が名乗りを上げる。
彼の仲間の中には、レスキュー活動の経験を持つ消防団OBがいた。
「ロープを回せ! 支えを作れば数分はもつ!」
栃木チームは即座にバイクの荷台から工具とジャッキを取り出し、壁を支える。
東京チームの医療班がすでにストレッチャーを構え、負傷者の搬送準備に入っていた。
「動きが速ぇ……!」
梓もすぐに状況を飲み込み、アルテミスの仲間たちに指示を飛ばす。
「私たちは避難路の確保を! 麗子、宗子、車を回して!」
崩れゆく建物の中から、泣き叫ぶ母子が抱きかかえられて救出される。
その瞬間、再度大きな衝撃音が起こる。二階が落下し、瓦礫が吹き出すように崩れた。
「全員退避!」
龍司の怒号と同時に、彼らは寸でのところで外へ飛び出した。
土煙があたりを包み込み、しばし視界を失う。
だが、そこにあったのは、救い出された子供を抱きしめ、泣き崩れる母親の姿だった。
「……やったわね」
汗まみれの龍司の肩を、雅が力強く叩く。
「これで証明されました。あなたたちはただの走り屋じゃない。仲間を救う“力”を持っていますわ」
崩れた校舎を拠点に、救助班が一息ついているとき。
悠翔がスマートデバイスに届いた衛星画像やドローン偵察の結果を確認していた。
「……待て。これはおかしい」
悠翔が低い声で言う。
彼の後ろには紅の監視者の仲間たちが集まり、次々と報告を上げる。
「道路寸断で陸の孤島になってる集落を発見。物資はもちろん、外部との通信も完全に途絶」
「高齢者が多い地域らしい。水源も崩れてる」
その場に緊張が走る。
蓮が即座に反応する。
「悠翔、確かか?」
「間違いない。映像でも確認した。……放っておけば数日で命の危険だ」
雅は静かにうなずき、全員を見渡す。
「わかりました、次の行動は決まったわね。孤立した集落の救助を最優先にしましょう」
ここで龍司や行馬ら地方リーダーが応じ、再び「誰が行くか」「どのルートを攻めるか」で議論が始まる。
住民や避難者たちも、その姿を呆然と見つめていた。
暴走族と恐れられてきた彼らが、命を救うヒーローに変わった瞬間だった。
東光連合の臨時指令所。
雅の言葉で全員が緊張を高める中、蓮が立ち上がった。
「道路は寸断、橋も落ちてる。……四輪じゃ無理だ。だが、木田が出してくれたモトクロスなら行ける」
宗子が頷き、現場地図を指差す。
「迂回ルートは山を越えるしかありません。通常のバイクでは危険ですが、モトクロッサーなら踏破可能です」
龍司が前に出る。
「なら、俺たち神奈川組が先陣を切る。山道や林道は慣れたもんだ。地元じゃ散々走ってきたからな」
悠翔はタブレットを操作し、集落の位置を映し出す。
「ここから約30km。だが直線ルートは崖崩れで塞がれている。森を抜ける裏道を通るしかない。……危険だが、時間をかける余裕はない」
梓が冷静に指示を出す。
「モトクロス部隊を20名編成。半数は物資搬送用、残りは救助・偵察用に分けるわ。医療班からも看護師を2名同行させて」
雅が最後に声を上げる。
「これは命を繋ぐ走り。無茶はしないでください。ただし、彼らを見捨てることも許されない。危険は承知してますが、お願いします。」
エンジンが一斉に唸りを上げる。
夜の闇の中、ヘッドライトの列が山道へ吸い込まれるように走り出す。
土を巻き上げ、木々を縫うように、東光連合のモトクロス部隊は孤立集落へと突入した。
闇を裂くように、東光連合のモトクロス部隊は山道を駆け抜けていた。
雨は止んでいたが、地面はぬかるみ、木々が無惨に倒れ道を塞いでいる。
「前方、土砂崩れだ!」
先頭を走っていた龍司が叫び、急制動をかける。
見れば、斜面から崩れた巨岩が道をふさぎ、濁流のように水が溢れていた。
「こりゃ四輪じゃ絶対に通れねぇな……」
蓮が歯を食いしばる。
だが龍司は笑った。
「こういう時のためのモトクロッサーだろ? 全員、オフロード走行モードでついてこい!」
彼は巧みにハンドルを切り、倒木の隙間を抜け、ぬかるみを跳ね上げながら岩場を飛び越えていく。
後続も続き、泥にタイヤを取られながらも必死で食らいついた。
途中、増水した沢を渡る場面もあった。
「無理だ、流される!」と誰かが叫んだ瞬間、龍司はアクセルを全開にして一気に突っ切った。
後続も次々と跳び込み、飛沫を浴びながら向こう岸へ。
一人、バランスを崩して倒れかけた仲間を、康がすかさず手を伸ばして引き上げる。
「死ぬ気で踏ん張れ! 俺たちは救いに行くんだ!」
そして
深夜、山の向こうに灯りが見えた。
「……あった、あそこだ!」悠翔の情報班が指さす。
小さな集落。だが家々の多くが倒壊し、寒空の下で震える人々の姿が見える。
東光連合の一行が到着すると、村人たちは驚きと安堵の入り混じった声をあげた。
「助かった……誰も来てくれないと思っていた!」
「水も食料も尽きかけていたんだ……!」
龍司の指示で医療班が負傷者を診察し、調理師資格を持つメンバーが温かい食事を作り始める。
康が子どもたちに毛布をかけ、衛星通信機で本部に状況を報告する。
龍司は、人々に向かって、力強く告げた。
「安心してください。必ず救います。私たち東光連合は、そのために走ってきました」
夜空にはまだ余震の気配が漂う。
だが、村には確かに希望の光が戻りつつあった。




