お嬢様 元旦の大地震 二輪だから出来ること
元旦の夜。
豪奢な迎賓館の大広間で、アルテミスと東光連合の幹部たちは新年の挨拶を交わしていた。シャンデリアが煌めき、窓の外には都会の夜景が広がる。
そのとき。
低く腹の底を揺さぶるような振動が走り、卓上のグラスがカタリと音を立てた。
「……地震?」梓がすぐにスマートフォンを取り出し、AI解析アプリを起動する。
数秒後、耳障りな緊急速報音が一斉に鳴り響いた。
『緊急地震速報 三重県伊勢志摩地方にて震度7を観測。津波の可能性があります。沿岸部の住民は直ちに避難してください』
場が凍りついた。
「伊勢……志摩……」
彩の表情から血の気が引く。父である官房長官からも直接、暗号化回線で連絡が入った。
『主要道路は寸断、鉄道・空港も閉鎖状態。現地は孤立している。自衛隊は動くが、夜間・天候不良で展開に時間がかかる』
「つまり」雅は組んだ腕を解き、静かに言い切った。
「通常の交通インフラは使えない。物資も人員も、すぐには現地に届かないわ」
美奈子が苦い顔で頷く。
「四輪じゃ橋が落ちた地点で止まるし、高速も通行止め。空路も夜間は制限される……。でも、二輪なら……」
「行ける。」
雅の瞳に、迷いはなかった。
「私たちの出番よ。東光連合を総動員しましょう」
その言葉に、連合の面々の背筋が震える。
いずみが妖艶に微笑み、扇を鳴らした。
「ついにアタシらの“走り”が、本当に人の命を救うときが来たわけねぇ♡」
静かな決意と共に、東光連合の長い夜が始まった。
三条家の広大な迎賓館を臨時の本部とした東光連合の作戦会議室。
壁一面のスクリーンには、震源地・伊勢志摩周辺の航空写真やSNSから集められた被災映像が次々と映し出されていた。
「道路は、ほとんど壊滅的ですね」
雅が低い声で呟く。崩れ落ちた高速道路の高架、寸断された鉄道橋。救助用の車両はことごとく足止めされている。
「ヘリは要請が殺到しています。ですが、投入できる数には限界がある……」
梓が、手元のタブレットに指を走らせながら報告する。
麗子は腕を組み、唇を噛んだ。
「資金なら私が何とかするわ。ただ問題は、被災地の奥に入る“足”よ」
宗子が静かに手を挙げた。
「……父の会社の工場には、輸出待ちのモトクロスバイクが800台あります」
一同の視線が一斉に彼女へと集まった。
「モトクロス?」
あかねが眉をひそめる。
宗子は真っ直ぐに答える。
「はい。舗装路ではなく、未舗装の悪路や瓦礫の上でも走れる仕様です。馬力は低めですが、軽量で取り回しが良い。救援物資の運搬や人員の移動に最適です」
その言葉に、梓の瞳が輝いた。
「それなら道路が崩壊していても、直接現場へ突入できる……!」
「800台……すぐに出せるのですか?」
雅が問いかける。
宗子は迷いなく頷いた。
「はい。工場から直接輸送します。父も、緊急時なら全面協力すると」
会議室に、一瞬重い沈黙が落ちた。だが次の瞬間、雅が力強く頷いた。
「決まりだ。木田のモトクロスを主力に、我々の走り屋ネットワークを展開する。東光連合、総力を挙げて被災地に入ります!」
スクリーンに映る崩壊した街並みを前に、全員の胸に炎が灯る。
救援の最前線に立つのは、自分たちだ。
「まず、物資輸送を最優先とする」雅は扇子を広げ、机上に地図を置いた。
「三条財閥のヘリを動かす許可はすでに取った。上空から食糧・医薬品を運ぶ。だが着地してからの配給は、二輪部隊がやるしかない」
梓が端末を操作し、地図にルートを重ねた。
「AI解析によると、倒壊した橋の代わりに農道や林道を抜ければ、モトクロスバイクなら現地に到達できる見込みが高いわ。ただし危険度は最大」
美奈子が力強く頷く。
「なら、私たちルナゴスペルが先陣を切る。避難所の設営や人員誘導は任せなさい。力仕事も得意だもの」
いずみが扇子を口元に当てて、妖艶に笑った。
「アタシたちルナヴァイオレットは、芸能人や文化人脈から物資と募金を集めるわ。さらに避難所でのメンタルケアも担当しましょ。美しく生き抜く力を与えてあげるわ♡」
蓮が低い声で言葉を重ねる。
「不如帰は、横浜・神奈川連合を率いて山間部へ突入する。瓦礫に塞がれた孤立集落を救出する。あの狭い道は、俺たちが得意とする領域だ」
悠翔は冷静に腕を組み、淡々と告げた。
「紅の監視者は、全体の統制と救助の優先順位を決める。混乱すれば救える命も救えなくなる。彩君にも現地調整を任せたい」
その言葉に、彩は一瞬目を見開き、しかしすぐに真剣な眼差しで頷いた。
「……分かりました。必ずやり遂げます」
行馬は僧衣の裾を正し、静かに手を合わせた。
「調布走院は、炊き出しと心の支えを担おう。人の心が折れれば復興は遠のく。南無.....」
康が豪快に笑い、腕をぶした。
「鬼氣蕗は力仕事専門だ。瓦礫も電柱もぶっ壊して通り道を開けてやる。治安維持もやってやらぁ!」
作戦会議の緊張感はなおも続いていた。
スクリーンには伊勢志摩の被災地状況が赤く点滅している。
梓は扇子を閉じ、鋭い視線で集まったリーダーたちを見渡した。
「聞くわ。各チーム、メンバーの中に災害対応で役立つ技能を持っている者はいるかしら? 医療、看護、調理、建築、通信、心理支援……どんな分野でも構わない」
美奈子がすぐに手を挙げ、答える。
「ルナゴスペルでは、玲奈が准看護師資格を持っています。現地での応急処置は任せられます」
いずみが扇子を軽く鳴らし、妖艶に微笑む。
「ルナヴァイオレットでは、あやめが調理の腕前を活かせるわ。ひまりも心理支援の経験がある。避難所での心のケアに使えるはず」
蓮は低くうなずいた。
「不如帰は、建設や土木経験のあるメンバーがいる。瓦礫撤去や通行路の確保に使える」
悠翔は冷静にメモを取りながら答えた。
「紅の監視者には情報解析や災害統計の専門家がいる。救助優先順位や物資配分に役立つ」
行馬は僧衣を整え、静かに言った。
「調布走院は炊き出しと心のケアを担当できる。僧侶としての心得も有効です」
康は豪快に腕を振り上げた。
「鬼氣蕗は応急作業や力仕事が得意だ。現場での建築補助もできる」
梓はそれぞれの報告を端末にまとめ、地図上に技能者をマッピングした。
「よし、これで班編成の基礎は整った。各リーダーはメンバーの技能を最大限に活かし、班を作って現地で活動させること」
雅が静かに頷く。
「技能者がいなくても、全員が力になる。二輪の機動力、判断力、持久力どれも現場では不可欠です」
こうして、東光連合の 各リーダーがメンバーの特殊技能を把握し、班編成の準備に動く段階が現実的に描かれた。
夜明け前の木田技術研究開発工場。
広大な敷地には、800台の輸出用モトクロスバイクのクレートが整然と並ぶ。
巨大トレーラーから次々と降ろされるバイクたちは、泥や瓦礫にも対応できるオフロード仕様。まるで軍用車両のように光を反射している。
梓が端末で最終確認を行いながら、各チームリーダーに声をかける。
「第一陣300台。班ごとにメンバーを振り分けたわ。各リーダー、必ず技能者を班の核に配置すること。燃料は携行缶で補給済み。夜明けとともに出発する」
雅が静かに前に出る。
「これから先は長く、危険な道のりになる。だが、私たちが現地に届けば、多くの命を救えます」
その声に、各リーダーは力強く頷いた。
美奈子はトレーラー横でヘルメットを握り、メンバーを鼓舞する。
「避難所設営班はここから先のルートを熟知している。先陣を切って突破するわ!」
いずみは扇子を軽く鳴らし、妖艶に笑う。
「ルナヴァイオレット班、準備は万端よ。食料と心理ケアのセットも積み込んだ。私たちが被災者の心を支える」
蓮は不如帰のメンバーをまとめ、エンジン音を確かめながら低く言う。
「瓦礫や崩落で車が通れない場所も、俺たちなら突破できる。孤立集落に直行する」
悠翔は紅の監視者のデータ端末を確認しつつ、冷静に指示を出す。
「現地情報班はリアルタイムで救助ルートを更新。班ごとの進行速度を監視する」
行馬は僧衣を整え、炊き出し用の備品を積み込む。
「避難所班の準備も完了。心のケア、炊き出し、全て任せてもらおう」
康は鬼氣蕗の大型バイクを調整しながら笑った。
「力仕事班、準備OK!瓦礫も電柱も蹴散らして進むぞ!」
梓は最後に全員を見渡し、指示を出す。
「燃料、装備、通信確認。各班リーダー、出発確認の合図を出しなさい」
一斉にヘルメットが被られ、バイクがエンジンを唸らせる。
夜明け前の工場敷地は、300台のモトクロスの咆哮で震えた。
雅がゆっくりと手を上げる。
「東光連合第一陣、出発!」
轟音とともに、モトクロスたちは暗闇の中を突き進んだ。
泥濘の農道、崩落した橋、倒木……どんな障害も二輪の機動力で突破する。
夜明けの空が薄紅に染まる頃、伊勢志摩の被災地へと、東光連合の勇者たちが走り抜けていった。




