お嬢様 神奈川、栃木、東京を纏め 走り納めへ
夜の大黒PA。
工業地帯の光とベイブリッジのネオンが重なり合い、集まった数百台のバイクのヘッドライトがまるで祭りの提灯のように並んでいる。
爆音が一度鎮まると、次に訪れたのは異様なほどの静けさ。
最初に前へ出たのは、アルテミス総長・三条雅。
漆黒のライダースーツに金糸の刺繍を光らせ、冷ややかな笑みを浮かべて声を響かせた。
「アルテミス総長、三条雅よ。本来なら三チームだけの”走り納め”だったけれど……今夜は思いがけず賑やかね。せっかくだから、互いに顔を見ておきましょう」
その言葉に応じるように、ルナゴスペルの美奈子が一歩前ヘ。ミッドナイトブルーの特攻服をひるがえし、鋭い眼差しを向ける。
「ルナゴスペル隊長、美奈子だ。今夜は余計な争いじゃなく、誇りを持って集まった証にしようじゃないか」
次に進み出たのは、紫のマントを翻したルナヴァイオレットのいずみ。
マイクを持つように手を掲げ、艶やかな声で笑う。
「ルナヴァイオレット代表、いずみよ。年の瀬くらいは華やかにいきましょ? ねえ皆さぁん」
歓声と笑いがあがり、一瞬場の緊張が緩む。
そこへ、蓮が率いる不如帰を先頭に横浜連合が整列。
蓮は短く、低く言い放つ。
「横浜連合、不如帰だ。盟主はアルテミス、文句はねえな」
その一言に他の神奈川勢が黙って頷く。
完全に統制された姿は圧巻で、周囲の中小グループも息を呑んだ。
最後に、悠翔が紅の監視者の先頭から歩み出る。
赤いスカジャンの背に刻まれた“紅”の刺繍が、街灯の光に浮かび上がった。
「《紅の監視者》代表、悠翔。……今日はお前たちの”走り納め”に混ぜてもらう。だが忘れるな。俺たちは気持ちはすでにアルテミスの守護者であり、アルテミスの敵は栃木全チーム的でもある」
ざわめきが広がる中、雅はほんの僅かに目を細め、微妙な笑みを返す。
「アルテミスじゃなく彩ちゃんのガードでしょう」
ボソッと雅は呟く。
次に風変りなオマケだ出る。
「俺らは、栃木ナンバー2のカメレオンズだべ。今日は闇夜に溶けむこのマッドブラックのジャケット。何者にも見つけられないダべ。」
「PA内の明るさで逆に目立ってるのだが。」
思わず美奈子が突っ込む。
「さあ、これで全員顔合わせが済んだわね」
横浜大黒PAの空気は、一瞬ぴんと張り詰めたままだった。
だが、最初にその緊張を崩したのは、やっぱりアルテミスの彩。
「ねえねえ悠翔くん、やっぱり来ちゃったんだ!」
ぱっと駆け寄って手を振るその姿に、紅の監視者たちが「え、身内ノリ?」とざわつく。悠翔は苦笑しながら頭を掻いた。
「……いや、本当は俺だけ呼ばれてたんだけどな。まさか隊ごとバレるとは思わんかった」
「えぇぇっ!?」と周囲から一斉にツッコミ。
すかさずルナゴスペルの沙耶香が乗っかる。
「彩ちゃん、”口が軽い令嬢”って噂、今日で公式認定ね!」
「ち、ちがうもんっ!」と彩が真っ赤になると、背後でエマがくすくす笑いながらフランス語混じりにフォロー。
「まあまあ、可愛いハプニングってことで」
そこへルナヴァイオレットの千鶴が、わざと大げさにため息をつきながら前へ出る。
「せっかくの厳かな場なのに、もう学園祭のノリじゃないの……」
するとルナゴスペルの千鶴がすかさず手を挙げ、
「じゃあ模擬店やります? 大黒PAラーメン早食い大会とか!」
「おい、それ完全に文化祭だろ!」と不如帰の蓮が即ツッコミ。
普段は寡黙な彼にしては珍しい声量で、周囲が爆笑する。
一方でアルテミスの梓はタブレット片手に冷静に観察しており、
「……この和やかさ、交通量を考えると治安維持には悪くない。次回以降も”文化祭的演出”は検討対象」
と真顔でメモ。
「梓さん、マジで記録してるの!?」と宗子が慌てて止めに入る。
旗をはためかせて威圧していたチームも、気づけば互いにスマホを取り出して記念撮影モード。ベイブリッジを背景に、特攻服姿でピースする者まで出始める始末だった。
「……なんか、走る前にもう同窓会みたいだな」
悠翔がぼそっと漏らしたその言葉に、全員が笑い声を上げる。
「だが、これからが大変だな。アルテミスは、神奈川、栃木を押さえて実質東京も白旗あげたんだろ?」
「別に東京のチームに知り合いがいる訳じゃないのでが・・・」
不本意な顔をして雅は、興味なさそうに答える。
「でもあそこで、いずみオネエ様達が受付行ってるわよ」
「え?・・」
「は~~い。アルテミスファンクラブに入りた人は、所属チームと名前書いてね~♡ 団体さんには、御神体入りのこのお守りが特別につくわよ~」
そこには、きちんと3つの列が出来ていた。”族”は変なところで几帳面だった。
慌てて雅が、いずみオネエ様を引っぱって尋ねる。
「イズミちゃん、なんですか?ファンクラブって!それに私のご神体って?」
「うふっ。数は力って言うでしょ。それに敵つくるより味方作ったほうがいいですし。ご神体はね、この前総長が、髪をうちでカットしてくれたでしょ。その髪の毛・・・」
「嫌・・・その先は言わないで・・・」
「あら?そうすれば儲かるって、ルナゴスペルの千秋ちゃんが・・・・」
そっと逃げる千秋・・・しかし回り込まれた。千秋が見上げた雅の顔は、初めてみた般若の様相をしていた。
「もうその位にしてやれよ。こいつらも悪気があってやったことじゃないし」
「なに恰好つけて他人事のように言ってるのですか漣さん!」
「もうこうなっちまたんだ。流れはとめられねぇ。あとはどう管理するかだ。あとはまかせな」
そう言うと蓮はステージに上がり、みんなにに向かった言った。
「”雅総長”と栃木の”紅の管理者” ”東京のチームの代表者二名” ”ルナゴスペルの美奈子” ”ルナバイオレットのイズミ姉さん”そして横浜連合からは”不如帰の俺”で会議を持つ。みんなは騒がずに少しの間待機してくれ」
「こんな事もあろうかと、叩き台は作ってきた。まあ見てくれ」と蓮が紙を出す。
仮名称 東光連合会
総長会長 雅
副総会長 美奈子
幹事長 蓮(横浜連合不如帰)
理事長 悠翔(紅の監視者)
理事 アルテミス残り7名のメンバー
行馬 西東京 (調布走院)
康 東東京 (鬼氣蕗)
相談役 いずみ(ルナヴァイオレット)
「まあ、横浜連合が優遇されてるみたいだが、いままでの成立過程や繋がりを考慮してのことだから承諾してほしい。」
「拙僧は、一つ聞きたいことがる。上納金や、ステッカー販売や、パーティ券の販売等のノルマはないのであるか?」行馬が尋ねる。
思わず美奈子が噴き出す。
「何それ?うちらみんな、アルテミスから経済的に助けてもらったことはあるけど、上納金ってなに?」
「いや、俺ら弱小だったからブラッディーアクシスに上納金払っていたんだ」と康は言った。
「ああ、そんなのはない。ただし新参者には、渡した紙の最後の赤字の部分だけは絶対に守らせてくれ」
それを読んだ東京のチームは、真っ青な顔をして、頷いた。
そこには、赤字で”ルナバイオレットのオネエ様達に『オカマ』と言うな。言えばチームは即潰される”と書かれていた。
わいわいと記念撮影やら冷やかし合いで盛り上がっていた大黒PA。
その賑やかさを切り裂くように低く重たい排気音が鳴り響いた。
「……!」
誰ともなく振り返る。
そこにいたのは、アルテミス総長・雅。漆黒のレーシングスーツ姿でマシンに跨がり、スロットルを軽く煽る。
中山マフラーを通して絞り出された甲高いロータリーの咆哮が、静かに全員の背筋を伸ばさせた。
「ふざけ合うのは、ここまでですわ」
澄んだ声がマイクを通して響く。
その瞬間、PA中に広がっていた空気が、ピシッと切り替わった。
旗を振っていた連中も、スマホで記念撮影していた者も、皆がマシンへ。
笑顔が一瞬で消え、ヘルメットを被る仕草がやけに緊張を帯びて見える。
不如帰の蓮がエンジンをかけると、爆音が連鎖するように周囲へ広がった。
「よっしゃ……年納めだ、気合い入れていくぞ!」
紅の監視者も、ルナゴスペルも、ルナヴァイオレットも旗と特攻服をひるがえしながら次々と始動。
さっきまで笑い合っていた顔が、次の瞬間には真剣な眼差しに変わる。
悠翔も彩に手を振り返し、すぐさま冷たい目つきで前を見据えた。
「……行くぞ。余計な情は走りで吹き飛ばす」
轟音が重なり、ベイブリッジに向けて出口へと列が動き出す。
白い吐息が夜空に漂う中、誰もがただ一点“走り納め”の舞台に意識を集中させていた。




