お嬢様 クリスマスの奇跡
アルテミスサンタ あかね
東京湾を望む超高級ホテル。
煌めくシャンデリアの下、クリスマスの特別晩餐会が開かれていた。
会場の中央に現れたのは、まるで物語から抜け出した女王のような真白だった。
エマと世界的デザイナーの母が仕立てたドレスに、あやめが誂えた帯飾りを組み合わせた唯一無二の装い。
髪は「予約の取れない」いずみオネエ様の手で完璧にセットされ、ひまりが書き下ろした小説の一節が朗読される中を、彼女はスポットライトに包まれて歩み出る。
みちるが焼き上げた世界大会級のケーキが登場し、梓のITシステムで全世界へ同時配信される。
雅が動かした財閥の力で集められた会場の観客は、上流社会の精鋭たち。
真白の姿に、息を呑んだ。
そして、その輪の中に、かつて真白を捨てた男がいた。
彼は言葉を失い、ただ呆然と見つめるしかない。
「……真白、嘘だろ。こんななぜ……お前が、ここまで……」
やがて震える声で吐き出す。
「もし……もしやり直せるなら、もう一度、俺と……」
しかし真白は、ただ静かに微笑んだ。
煌めくイルミネーションを背に、堂々と胸を張って。
「私はシンレデラ お相手がイミテーションの王子様じゃ物語は紡げないわ」
彼女の背後には、アルテミスと姉妹チームの仲間たちが立ち並んでいた。
国を動かす力、世界を魅了する才能。そのすべてが真白を支えている。
「あなたには、未練はないわ。それとも自分が王子様だと、このみんなの前で自信持っていえますか?」
その瞬間、会場は拍手と歓声に包まれた。
男は言葉を失い、ただ彼女の後ろ姿を見送るしかなかった。
真白は圧倒されながらも、震える声でこう呟く。
「……こんなに、誰かに大切にしてもらったの、初めて……。わたし、本当に生きててよかった……!」
涙が頬を伝い、それを見守る三チームの仲間たちは自然と拍手を送る。
まるで真白が“新しい家族”に迎え入れられた瞬間だった。
いずみオネエ様が、変身を終えた真白をぐるりと眺め、パチンと指を鳴らす。
「完璧!……でもね、シンデレラには王子様が必要でしょ?」
その瞬間、会場の扉が静かに開き、礼装に身を包んだ青年が現れる。
真白と同じくらいの年齢で、凛々しい表情。背筋を伸ばし、堂々と歩み寄る。
彼こそ防衛大学校の学生長。
次代のエリートとして注目される存在で、礼儀正しく、知性と気品を兼ね備えた青年だった。
梓が小声で囁く。
「……最初、うちのデータをフル稼働して、”彼女に一番の相手見つけて”て言われたときビックリしたわよ。ビックデーター社の総力を上げた1人だけのためのマッチングアプリよ」
雅は涼しい顔でシャンパングラスを傾ける。
エマが微笑んで真白に促す。
「さぁ、舞踏会のプリンセスには、相応しい相手が待っているわ」
学生長は真白の前で立ち止まり、深々と一礼。
「光栄です。お相手していただけますか?」
真白は頬を染め、恐る恐る手を差し出す。
音楽が流れ出し、二人はスポットライトに包まれてダンスを始める。
その姿はまさに絵本から飛び出した王子とシンデレラ。
ダンスをしながら、真白は胸が熱くなる。
「わたし……こんな世界があるなんて知らなかった。あの人に捨てられたことなんて、もうどうでもいい」
新しい光を宿した瞳で、真白はついに完全に立ち直っていく。
クリスマスホールの中央でダンスを続ける真白と学生長。
ぎこちなさが次第に消え、二人の呼吸が自然に揃っていく。
「……もしかして、チョコレートはビター派?」と学生長が囁く。
真白は驚いて目を瞬く。
「えっ、どうしてわかったんですか?」
「僕も同じだから。甘すぎるのは苦手でね」
思わず笑みがこぼれる真白。
続けざまに、学生長が言う。
「映画ならクラシックよりも現代劇が好きだろう?」
「そう! でも周りには理解されなくて……」
クリスマスホールの中央でダンスを続ける真白と学生長。
ぎこちなさが次第に消え、二人の呼吸が自然に揃っていく。
言葉が重なるたびに、二人はお互いの目を見つめ、笑い合う。
不思議なくらい息が合い、会話は止まらない。
その様子を見守っていた梓が、ニヤリと笑って雅に耳打ちする。
「ビッグデータ社のAIは伊達じゃないでしょ。二人の趣味・価値観・ライフスタイルまで、全部98%以上一致してるのよ」
雅はグラスを傾け、涼やかに一言。
「……つまり、これが“科学が導いた運命”というわけね」
千鶴は、二人を見て羨ましそうに言う。
「ねえ、あたいにも運命の人ほしいのですけど」
「あなたは、自分でなんとかしなさい」
梓は笑って突き放す。
真白の心はもう確信していた。
この人なら、自分を裏切らない。
あの男と違い、自分を大切にしてくれる。
音楽がクライマックスに差しかかり、二人は視線を合わせたまま舞う。
周囲から自然と大きな拍手が湧き起こった。
学生長が真白に囁く。
「実は、年明けにうちのアカシア会で、卒業ダンスパーティーが品川プリンスホテルであるんです。真白さん、どうか私のパートナーとしてご一緒願いませんせんか?」
穏やかな笑顔と誠実な声に、真白の胸は高鳴る。
しかし、ほんの一瞬、ためらいがよぎる。
「あの、私なんか……」
過去の傷や、かつての失恋が心の奥でざわめいた。
「あなたの事は、三条さんから聞いてます。正直最初は、同情の気持ちからあなたを、ダンスに誘いました。でも....先程あなたが、元彼と決別した言葉は素晴らしかった。そして、あなたに興味を持ち話しているうちに、もっと話したいと思う自分に気づきました」
真面目な顔で真白をみながら学生長は話す。
「真白さん。私があなたの王子様になれるかは、わかりません。それでも本心からあなたの横に居たいあなたを守りたいと思います」
その時、三チームの仲間たちの視線が温かく注がれる。
「迷うことないわ。自分を信じなさい、真白」
雅の低くも力強い声が背中を押す。
真白は、すでに過去の自分ではなかった。
彼のとこに行き承諾の返事をする。未来を見つめながら、はじめて心からの期待に胸を躍らせた。
クリスマスの夜が穏やかに更ける中、真白と学生長は肩を寄せ合って、アルテミス総長・雅のもとへ向かった。
「雅さん、今日は本当にありがとうございました」
真白は少し照れながら、でも心の底から感謝の気持ちを込めて頭を下げる。
「そして、僕も。真白さんのようない愛らし方を紹介して頂いて……感謝しています」
学生長も真白の隣で深くお辞儀をする。その仕草に、雅は軽く微笑んだ。
「ふふ、二人揃って、ちゃんと礼を言いに来るなんて律儀ね」
雅の声は柔らかく、しかしどこか堂々とした説得力があった。
真白と学生長は互いに顔を見合わせ、小さく笑みを交わす。
その瞬間、クリスマスの灯りに二人の影が寄り添い、柔らかな温もりが会場に広がった。




