お嬢様 クリスマス企画 シンレデラ大作戦
三条雅 サンタクロース
冬の夜。吐く息が白く染まる歩道橋の上。
欄干にもたれかかる少女の肩が、小刻みに震えていた。
「……もう、いいの。私なんて、生きていても」
か細い声が、夜風に溶けて消える。
制服の袖口から覗いた手首には、まだ新しい包帯が巻かれていた。
そんな彼女の背後に、ゆっくりと足音が近づく。
振り返った真白の瞳に映ったのは、黒いロングコートを翻した少女
「……誰?」
戸惑う真白に、彩がそっと寄り添い、柔らかな笑みを浮かべる。
「大丈夫。私たちは通りすがり……でも、見過ごせなかったの」
そこに、さらに数人の足音。
ルナゴスペルの美奈子がマフラーを外し、真白の首に巻いてやる。
「泣くのは、温かい場所でやればいい。冷たい風に負けたら、もったいないわ」
千秋と涼子も肩を並べ、力強く頷いた。
「アンタ一人じゃないってこと、忘れんな」
そして少し遅れて現れたのは、ルナヴァイオレット。
いずみが大きく手を振り、しおんが静かに歩み寄る。
「私たち、クリスマスの準備をしてたの。……一人分くらいなら、まだ間に合うわよ♡」
みちるは買い物袋を掲げ、笑顔を見せる。ひまりとあやめも真白を囲み込むように近づいた。
突然集まった三チームの少女たち。
その輪の中で、真白は胸の奥に熱を感じる。
「……私なんか、いてもいいの?」
消え入りそうな問いかけに、雅が静かに答えた。
「存在に理由なんていらない。あなたが生きている、それだけで十分」
その言葉に、真白の目から大粒の涙がこぼれた。
泣きながらも、彼女は初めて差し伸べられた手を取る。
歩道橋の上に集まった少女たちの影が、白い街灯に揺れていた。
その言葉に、真白の目から大粒の涙がこぼれた。
泣きながらも、彼女は初めて差し伸べられた手を取る。
暖かなカフェの奥。窓の外には雪がちらつき、街のイルミネーションがきらめいている。
大きなテーブルには、アルテミス・ルナゴスペル・ルナヴァイオレットの三チームが勢ぞろいしていた。
「で、どうするの?」と、美奈子が腕を組む。
「真白を笑顔にするクリスマス、でしょ?」
琴音が資料を広げながら微笑む。
「場所は、父のホテルのバンケットを貸し切りにできますわ。ツリーも最高のものを」
宗子が手を挙げる。
「じゃあ、私は木田の技術研究所からイルミネーションを持ち込む! 最新型の光学投影で、雪の結晶を空間に浮かべられるんだ」
「わぁ……幻想的ですね」ひまりが目を輝かせる。
「私たちは歌やダンスで場を盛り上げます。真白さんに、音楽で元気を届けます」
梓はタブレットを操作しながら、淡々と補足する。
「ルナゴスペルのメンバーには、演出の中心を任せるのがいいでしょう。千秋さんや涼子さんは、群衆を巻き込む力がありますから」
玲奈が胸を張る。
「ええ、私たちに任せなさい! クリスマスの夜を絶対に忘れられない日にしてみせるわ!」
テーブルの端で、真白はただ呆然と彼女たちを見ていた。
こんなにも、自分のために全力を尽くしてくれる人たちがいるなんて。
「……私、本当にいいの? みんなの大切な時間を、私なんかのために使って」
おずおずと呟いた真白に、雅が柔らかい微笑を向けた。
「いいのよ。これは私たちがやりたいからやるの。あなたが幸せになることで、私たちも幸せになるのだから」
その言葉に、真白の胸の奥にぽっと灯りがともる。
それは、今まで彼女が感じたことのない“温もり”だった。
カフェの窓越しに、街のツリーが光を放つ。
三チームの笑顔に囲まれ、真白はようやく小さく笑みを返した。
その瞬間、彼女の世界は確かに変わり始めていた。
準備の話が一段落したとき、真白はそっと手を膝の上で握りしめた。
胸の奥から溢れそうな疑問を、勇気を振り絞って口にする。
「……ねえ。どうして、そんなにしてくれるの? 私なんかのために……ここまで」
小さな声に、テーブルを囲んでいた空気が一瞬止まる。
けれど、次の瞬間に彩が笑って答えた。
「“私なんか”なんて言わないで。私はね、あなたの目を見た瞬間にわかったの。ああ、この人は救われるべきだって」
美奈子が身を乗り出し、真白の肩に軽く手を置く。
「そうよ。あたしたちは強いチームである前に、仲間を守る人間でいたいの。今はまだ出会ったばかりでも、あんたはもう仲間なんだから」
いずみが優しく頷き、ルナヴァイオレットの面々も柔らかな表情を浮かべる。
「わたしたちだって同じ。誰かが苦しんでいるのを見過ごすなんてできない。……それがレディースだから」
梓がタブレットを閉じ、理知的な眼差しで言葉を添える。
「合理的に考えてもね、他人を救うことで自分たちも強くなる。組織としても、人としても。だからこれはあなたのためだけじゃなく、私たち自身のためでもあるの」
最後に雅が、柔らか声で声で締めくくった。
「理由なんて一つで十分よ。あなたに笑ってほしい。ただそれだけ。それが、私たちアルテミスがここにいる意味」
その言葉が胸に響いた瞬間、真白の視界がにじんだ。
自分はずっと、孤独で、不必要な存在だと思っていた。
けれど今誰かが必要としてくれている。
「……ありがとう……」
震える声でそう言った真白の頬に、初めて涙ではなく、笑みがこぼれた。
紅茶の香りがふんわり漂うラウンジで、笑い声が一瞬やんだ。
真白は視線を落とし、震える指先でマグカップを撫でていた。
「……私ね、ずっと隠してたことがあるの」
囁くような声に、彩も雅も、美奈子も、いずみも息を呑んだ。
真白は唇を噛み、やっとの思いで言葉を続ける。
「私、……好きだった人に捨てられたの」
その一言で、空気がぴんと張りつめた。
真白の頬は赤く染まり、涙が滲む。
「婚約してたの。家の都合で決められた相手だったけど、私は本気で好きになってしまった。でも……彼は、私じゃなくて別の子を選んだの。『お前は重い』って言われて」
押し殺した声に、悔しさと惨めさが滲んでいた。
「それから、全部どうでもよくなった。自分の存在なんて誰も必要としてないって思って……あの日、橋の欄干に立ったの」
雅が小さく目を伏せ、梓が指先で唇を押さえる。
美奈子が拳を握りしめ、言葉を飲み込んだ。
真白は肩を震わせ、必死に笑おうとした。
「笑えるでしょ? みっともないわよね……」
けれど、その声を遮ったのは彩の強い言葉だった。
「笑えないわよ。……真白さん、あなたは、今ここにいる。それだけで十分なんだから」
その瞬間、真白の心の壁が少しだけ崩れた。
少女の真白が涙ながらに、自分が恋人に裏切られ、孤独の淵に立たされていたことを打ち明けたあと。
アルテミス、ルナゴスペル、そしてルナヴァイオレットの三つのチームは、自然と顔を見合わせた。
「だったら、あたしたちが最高のクリスマスを作ってあげればいいじゃない」
梓が軽く指を鳴らし、いつもの勝気な笑みを浮かべる。
梓が軽く指を鳴らし、いつもの勝気な笑みを浮かべる。
街外れの広場には、真白のために三チームが総力を結集していた。紅葉の名残がまだ地面に散り、冬の空気が張りつめる中、それぞれが自分の力を存分に発揮していた。
雅は財閥の影響力を駆使し、特注の大型イルミネーションや豪華なクリスマスツリーを即座に手配。敷地内には光のアーチが立ち、空間全体が華やかに彩られていく。
エマは、世界的ファッションブランド「マキコ・フォンベル・ベルナール」のコネクションを活かし、真白のための特製ドレスと小物を用意。柔らかなベルベットと繊細なレースが、少女の表情を一層引き立てる。
ルナヴァイオレットのいずみオネエ様は、日本一予約が取れない美容室のオーナー兼スタイリストとして、真白のヘアメイクを担当。瞬く間に華やかなヘアスタイルに仕上げ、少女の目に輝きが戻る。
みちるは横須賀一の人気パティシェとして、特注ケーキとスイーツを並べ、香ばしい甘い匂いが会場を満たす。あやめは老舗呉服店の跡取りとして、飾りつけの和の要素を巧みに取り入れ、伝統美とクリスマスの煌めきを融合させた。
そして最後に、雅が深呼吸して振り返る。
「よし、これで準備完了。真白さん、今日の主役はあなたよ」
真白は思わず息を呑む。目の前に広がる光と色、甘い香り、そして仲間たちの笑顔。
「……こんな、世界があったんだ……」
胸に暖かさがじんわりと広がり、少女は小さく涙を流した。
クリスマスパーティーは、始まったばかりである。




