お嬢様 紅葉狩りと変わったチーム
展望台でのティータイムもひと段落した頃。
ふと山道の下から、場違いな轟音が響いてきた。
「……ん? なんか来るわよ」
梓が眉をひそめ、HUDに速度表示を出す。
次の瞬間
ドゴォォォォン!!!
派手すぎる爆音とともに、カウルに謎のペイントを施した改造マシンが十数台、列をなして現れた。
だが……その姿に三チームは一斉に固まる。
「ちょっ……あれ……なにアレ……?」
エマが目を丸くした。
なぜなら、バイクで現れたメンバーたちは全員、紅葉に擬態したカモフラージュジャケットを身にまとっていたからだ。
真っ赤や黄色の葉っぱ模様が全身にプリントされ、ヘルメットにも造花のもみじが差してある。
「フッフッフ! 秋の山では我らが本物のカモフラージュだ!」
先頭の男が胸を張った。
……だが背景の紅葉に完全に溶け込みすぎて、さっきまで誰も気づかなかったのだ。
「いや、ただのコスプレでしょ!」
美奈子が爆笑し、沙耶香は腹を抱える。
「紅葉狩りに便乗した走り屋集団……? ネーミングは……紅葉戦隊とか?」
梓が冷めた声で呟くと、オネエ様いずみがすかさず煽る。
「やだぁ♡ 落ち葉ヒーローズかしら? 可愛いじゃな〜い!」
メンバーたちは必死にポーズを決めるが、すでに出オチ感が半端なく、三チームの笑い声が展望台に響き渡った。
「ククク……笑っていられるのも今のうちだ!」
紅葉カモフラ軍団のリーダーが、背景と一体化したまま高らかに叫ぶ。
「この日光いろは坂は俺たちの庭! 同化走行隊が最速を証明してやる!」
「名前ダサっ!」
美奈子が即ツッコミを入れ、涼子が肩を震わせる。
「ていうか……紅葉で速さに関係あるの?」
宗子が首を傾げると、カメレオンズの一人が胸を張る。
「景色に溶け込む我らは、敵に存在を悟られずに走れるのだ!」
「……いや、道路では普通に見えるから」
梓が冷酷に切り捨てる。
その瞬間、カメレオンズたちは一斉にエンジンを吹かし、落ち葉を巻き上げながら叫んだ。
「行くぞ! 紅葉走行バトルだぁぁぁ!!!」
雨上がりの山道。路面はまだ湿っており、滑りやすい。
にもかかわらず、彼らはやる気満々で挑んでくる。
「……面白そうですわ」
雅がヘルメットを被り直し、アルテミスのメンバーたちが笑みを浮かべる。
「紅葉と一緒に散る覚悟、できてます?」
エマがフランス語交じりに挑発する。
その隣では、ルナゴスペルがすでにエンジンを温め、ルナヴァイオレットのオネエ様方が妙に楽しげに手を振る。
「さぁて♡ 落ち葉みたいに踏み散らかされたいのは、どっちかしらぁ〜?」
いずみオネエが高らかに笑った。
こうして、紅葉に溶け込む(つもりの)カメレオンズと、三レディース連合 秋の紅葉バトル が幕を開けた。
「行けぇぇぇっ! 同化走行フォーメーションッ!」
カメレオンズのリーダーが叫ぶと、隊員たちは紅葉色のスーツを翻し、紅葉吹雪の中に突入する。
しかし、
「目立つ……むしろ超目立つ……」
梓が冷静にモニターHUDを見て吐き捨てた。
AI制御が拾った熱源反応は、むしろ派手に点滅している。
「ステルスどころか、走るイルミネーションね」
麗子が鼻で笑い、アクセルをひねる。
ロータリーの甲高い唸りとともに、アルテミスのマシンは次々と追い抜いていく。
その一瞬......カメレオンズの一人が驚愕の声をあげた。
「なっ……なんで見失った!? 紅葉に溶け込んでるはずなのにっ!」
「いや、あなたたちが遅いだけよ」
エマが背後から軽やかに抜き去り、皮肉を投げる。
その光景に、ルナゴスペルの美奈子が笑いをこらえきれず叫んだ。
「ギャハハ! 紅葉で速くなると思ってんのかアンタら!」
「静かに、前詰めるわよ!」
千秋が冷静にラインを取る。ルナゴスペルは実力で応戦し、次々とカメレオンズを引き離していく。
後方では、
「ちょっと! スーツに雨水しみ込んで透けてるわよぉ〜♡」
いずみオネエがわざと大声でからかい、カメレオンズの隊員が動揺してコーナーをふくらむ。
「うわっ、バカ! そんなとこでスリップすんな!」
「隊長ぉ! 助けてぇ!」
ガコン! ズルッ! ガシャン!
紅葉吹雪とともに、次々と自滅していく“自称隠密部隊”。
一方レディス三チームは、濡れた路面を巧みに捉え、タイヤのグリップ限界を冷静にコントロールしていた。
「楽しい勝負でしたわ」
雅の声は、どこか明るく笑顔に満ちていた。
最後の直線、アルテミス、ルナゴスペル、ルナヴァイオレットが横一列に並ぶ。紅葉を背に受け、スーパーチャージャーの咆哮とともに駆け抜ける。
振り返ればカメレオンズは、路肩で肩を落としていた。
「オメェら、神奈川のもんだべ? 妙なごじゃっぺ言うじゃね。下手ッスたらマシーンさぼっこすたべ」
彼らのぼやきに、オネエ様方が手を振って答える。
「あんら~♡ 可愛いとこあるじゃない。でも無理して標準語話すよりアタシ達は、その言葉のほうが好きよ~♡」
「げっ~!オカマだべ!」
『なにぃ?あたし達が何だって?あんたらのマシーン完全にぼっこしてやろうか?』
先程とは、比べようもない位の低い声(ズ太い声)でいずみオネエ様が、指を鳴らしながら、カメレオンズを睨む。
「ひぃぃぃぃ、ごめんなさい。」
どうやら言ってはならないフレーズが含まれていたことにカメレオンズは気づいたようだ。
「そうよぉ♡ わかればいいのよ。いいこと~バイクは魅せるもの、レディーは愛でるものよ。覚えておきなさい」
かくして、「紅葉同化作戦」は見事に散り、秋の山道はアルテミスたちの舞台となったのだった。
「いや〜、あのスーツ……一瞬マジで笑い死ぬかと思ったわ」
涼子がヘルメットを脱ぎながら、腹を抱えて笑う。
「“同化”どころか、落ち葉より派手だったものね」
麗子が紅茶を口にしながら皮肉を漏らすと、
横であかねが「一応、真剣なんだから笑うのは失礼よ」と言いながらも、口元は緩んでいた。
「わたくしたちに挑む度胸は褒めてあげてもよろしいですわ」
雅が涼しげに紅葉を見上げると、
宗子がうんうんとうなずき、熱いお茶をカップに注いでくれる。
「でもさ、雨でスーツ透けてんのに全然気づいてないの最高だったよな!」
美奈子が声を上げると、いずみオネエがすかさず身振り手振りで真似をする。
「キャー隊長ぉ〜助けてぇ〜♡ ……って、このへんで足滑らすのよぉ〜」
腰をくねらせながらの実演に、周囲は大爆笑した。
「やめてください、笑いすぎてお腹が痛い……!」
エマがハンカチで目尻を押さえ、琴音まで肩を震わせていた。
紅葉が降り注ぐ休憩所に、三チームの笑い声がこだまする。
さっきまでの雨に濡れた緊張感は、すっかり秋の柔らかな空気に溶けていった。
「……紅葉って、こうやって皆で笑いながら眺めるのが一番ね」
梓のつぶやきに、誰もが頷いた。
そう、彼女たちの秋はまだまだ続く。
そしてこの静かな時間の先に、また新たな騒動が待ち構えていることを、誰も知らずに。




