表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/227

お嬢様 『秋の余白』

 

 秋の朝、澄んだ空気が駐車場に漂っていた。三島の試練を終えたばかりのアルテミス、ルナゴスペル、ルナヴァイオレットの面々は、バイクの傍らで静かに休息している。疲れの残る表情の中に、どこか達成感と安堵の色が混じっていた。


「ふふ、皆さま、お疲れ様でございますわね♡」


 声の主はルナヴァイオレットのいずみオネエ様。華やかに手を広げ、優雅に微笑むその姿は、疲れを引きずる皆の心をふわりとほぐした。


「試練は無事に終わりましたし、次は心を癒す時間を持ちませんこと?」


 美奈子が眉をひそめながらも興味深そうに訊ねる。「癒す時間……って、どういうこと?」


「ええ、日光の紅葉狩りですわ♡ 山道をバイクで走りながら、色づいた葉を楽しむのです。もちろん安全第一でございます。」


 梓が頷く。「ただの散策じゃなくて、走りながら季節を感じるってことね。路面の感覚も養えるし、ちょうどいい練習になるわ。」


「なるほど、落ち葉や秋風の中でのコーナリング……面白そうですね。」宗子が笑みを浮かべた。


「三チーム合同で行くのもポイントですわよ。アルテミスの計画性、ルナゴスペルの速さ、そして私たちルナヴァイオレットのサポート力を組み合わせれば、楽しさ倍増ですわ♡」


 彩も口元を緩めた。「……まあ、たまにはこういうのも悪くないですね。」


 紅や黄金に染まる山道を想像するだけで、皆の胸に小さな高揚感が広がる。試練の緊張から解放され、バイクと仲間と自然が織りなす、秋の特別な一日がもう目の前にあった。


 朝の東京。

 まだ街は目覚めきっていないが、アルテミス・ルナゴスペル・ルナヴァイオレットの三チームが連なって走ると、都会の空気が一気に張り詰める。


 アルテミスの漆黒と白銀のマシンが先頭を走り、ルナゴスペルが隙間を縫うようにして後続を守る。そのさらに後ろには、どこか舞台の幕間のように優雅なルナヴァイオレットの一団。


 交差点で信号待ちをしている若い走り屋グループの視線が、一斉に彼女たちに注がれた。

 誰も口に出さなかったが、その眼差しには「本物が来た」という畏怖が混じっていた。


 かつて東京最大の暴走族”ブラッディ・アクシス”を正面から潰したのは、このアルテミス。

 情報は走り屋の間で瞬く間に広がり、今や彼女たちを挑発する者はいない。


「……ずいぶん静かになりましたわね、東京も」

 梓がHUDを流し見しながら呟く。


「敵対するより、見上げる方が楽ってことよ。」

 美奈子が冷静に言い、後続をチェックする。


 信号が青に変わり、三チームの列は一斉に発進した。

 その姿は“恐れられる存在”というより、“走り屋文化の新たな象徴”に近い。


 やがて東京のビル群を抜け、車列は日光方面へと伸びていく。

 街路樹の緑が次第に赤や黄金に染まり、冷たい風がヘルメットの隙間を抜けるたびに、季節の移ろいが肌で感じられた。


 だが、東北道に差し掛かった頃。前方で赤色灯が点滅した。

 視界の先、観光バスがエンストし、路肩に停車していた。


「危ないですわ……このままじゃ後続が突っ込むかも。」

 即座に彩が減速し、インカムで後続を制御。


「あかねさん、通報と交通整理をお願いします!」

「了解。」


 警察家系の血を引くあかねが迅速に誘導を始める。宗子はすぐにエンジントラブルを見抜き、バス運転手に的確な助言を与えた。


「燃料系統の詰まりですね。セルをもう一度、間隔を空けて回してみてください。」


 数分後、バスのエンジンが再始動。乗客から安堵の拍手が沸き起こった。




 東北自動車道を降り、旧街道へ差し掛かる頃、十数台の大型ネイキッドが前方から現れた。

 派手なマフラー音とともに、彼らはアルテミスの列へ無遠慮に並走してきた。


「おいおい、女だけのツーリングか? 景気よく一緒に走らせろよ!」

「そこの赤いバイクのお嬢ちゃん、後ろ乗せてやろうか?」


 舐めきった笑みとともに声をかけてくる。

 だが、それは最悪の相手を選んでしまったのだ。


 梓がミラー越しに冷たい視線を送り、アクセルを軽く煽る。

 ロータリー+スーパーチャージャーが咆哮をあげ、瞬く間に数十メートルの差をつけた。


「は……? 今の加速、なんだよ……!」


 美奈子率いるルナゴスペルも続く。

 驚いている野郎バイカーを横目に、力強くアウトから抜き去っていく。

 千秋や涼子がすれ違いざまに小さく笑った。


「足りないわね、度胸も腕も。」


 野郎バイカーたちは必死に追うが、テールランプは遠ざかるばかり。

 ライン取りも速度も、まるで格が違った。


 殿を務めるルナヴァイオレットのいずみが、わざと減速して彼らに並んだ。

 レインボーカラーのヘルメットをくいっと傾け、挑発的に微笑む。


「ねぇアナタたち……“女だから遅い”なんて思っちゃったのかしら?♡」


 しおんも横で華やかに笑い、指先でひらひらと合図する。

「その程度の腕で“お守り役”気取り? 滑稽ですわねぇ。」


 みちるが追い打ちをかける。

「ケーキのデコレーションでももっと繊細よ。走りが雑すぎるわぁ。」


 完全に笑いものにされ、野郎バイカーたちは顔を真っ赤にしてアクセルを開けたが、すでに勝負はついていた。

 彼らが速度を上げる頃には、アルテミスとルナゴスペルのテールランプは霧のように消えていたのだ。


「くっそ……何者だアイツら……!」

 残された者たちの悔しさをよそに、三チームの笑い声は秋雨の旧街道に溶けていった。


 雨雲を抜け、山肌に開けた展望台に到着すると、視界いっぱいに紅葉が広がった。

 濡れたもみじが夕陽を反射し、山一面を赤と金のグラデーションで染め上げている。


 三チームはバイクを停め、それぞれのジャケットを脱ぎながらひと息ついた。


「ふふっ♡ さっきの彼ら、情けなく引き下がりましたわねぇ」

 いずみオネエ様がハンドバッグから出したサーモポットを傾け、紙コップに紅茶を注ぐ。

 漂う香りが、雨上がりの冷気に溶けていった。


「走りで完封されて、最後は言葉でトドメ……。あれじゃ二度と“女だから”なんて口にできないでしょうね」

 梓がHUDをオフにしながら、冷ややかに笑う。


「……まあ、彼らも勉強になったんじゃなくて?」

 雅はグローブを外し、濡れた髪を払いながら紅葉を見上げた。

 その凛とした横顔は、まるでこの景色の一部のように映える。


「けど、いい気味だよな。ナメてかかった奴を一瞬で置き去り。最高にスカッとしたぜ!」

 美奈子がベンチに腰を下ろし、笑いながら水を一口。


「わかる〜! あの必死な顔ったら!」

 涼子と沙耶香も大笑いし、玲奈やひなたも頷いていた。

 千鶴だけは「でも少し可哀想だったかも?」と呟いたが、すぐに「まあ、自業自得ね」と肩をすくめた。


 エマはカメラを構え、紅葉とメンバーを背景に何枚もシャッターを切る。

「ちょっと、はいポーズ! インスタに上げたら世界中の友達が嫉妬するわよ〜」


「でもねぇ……」

 いずみオネエ様はカップを回しながら、わざと艶っぽい声を出した。

「女を甘く見る男って、結局ベッドでも同じなのよねぇ♡」


「ちょっ……! いずみオネエ様、それは……!」

 琴音が耳まで真っ赤になり、両手を振って慌てる。


「ふふっ、冗談よぉ♡ でも効いたでしょ?」

 ひらひらと手を振るオネエ様の笑いに、三チームの笑い声がこだました。


 雨上がりの紅葉に包まれた休憩所は、まるで戦いの後の祝祭のようだった。


 ……が、まさか次に待っているのが“紅葉狩り以上に厄介な騒動”だとは、誰ひとり想像していなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ