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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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~『江戸のお姫様大活躍~最終話 八華開花』

江戸のお姫様編の最終話です。 次からは、再びアルテミス編に戻ります。

 

 夜の江戸城奥。

 障子の向こうで、燭台の炎が揺れている。


 井上甲斐守

「大黒屋。顔色が優れぬな」


「はっ……。恐れながら、将軍家直々のお沙汰にて、我ら米商人は“八華を妨げし者は打ち首獄門”と……。もはや、動くに動けませぬ……」


 井上は扇を開き、薄笑いを浮かべる。


「愚か者め。表の沙汰に怯えるな。将軍がそう言うのは、あの娘の父親ゆえよ。だが幕政は、老中衆の手にある。我が庇護の下で動く限り、誰もお主を斬り捨てはせぬ」


「……しかし……」


 井上は扇をぴたりと畳み、冷たく囁く。


「八華が広める麦や芋は、ただの食い物ではない。あれは吉宗の改革の芽、我らを脅かす種子よ。その芽を摘み取れ。それができぬなら、大黒屋、お主の首は米俵の上で腐ることになるぞ」


 大黒屋は膝を震わせ、深々と頭を下げた。


「……仰せのままに……。井上様のご威光を頼りに……必ずや」


 障子の外では、鈴虫が鳴いていた。だが室内には、冷たい緊張だけが張り詰めていた。



 小石川養生所の門前には、今日も回復した町人や農夫が集まっていた。

 ”芋粥で足の腫れが引いた” ”麦飯で力が戻った”と口々に礼を言う声は絶えない。


 だが、その人垣の向こうから不穏なざわめきが押し寄せてきた。

「効き目はあるにしてもな、あれは将軍家の姫様が裏で何か企んでるんだとよ」


「養生所は薬代も取らん。じゃあ金はどこから? 怪しいじゃねぇか」


「ひでぇ話を聞いたぜ。病人を治してるふりして、実は薬の実験をしてるって……」


 群衆の中に、仕込みの口入屋や小商人が混じり、声を張り上げて噂を煽る。

 庶民の顔に、不安と疑念の影が広がっていく。


 その場を目にした茜は、血の気を失った顔で養生所に駆け込む。

「まずい! 町人たちが“八華は人柱の実験をしている”と騒ぎ立ててる!」


 広間では、宗が机を叩きつけた。

「馬鹿な! あんな噂を信じるなんて!」


 彩は帳簿を示し、苦い声を洩らす。

「寄付をしていた豪商たちまで動揺しています。“姫君方が政の地歩を固めようと養生所を利用している”と吹き込まれたのです」


 梓は拳を固め、低く唸った。

「病を治した実績すら、裏の策にされるとは……。 これこそ、背後に権力者がいる証拠だ」


 その時、外から石が飛んできて、養生所の壁にぶつかり、乾いた音を立てた。


「あの館は胡散臭いぞ!」


「八華は権力争いの道具だ!」


 罵声が雨のように降り注ぎ、患者たちの顔にも動揺が走る。


 雅は立ち上がり、胸に手を当てて呟いた。

「……民を救おうとした我らが、民の疑念に呑まれるのか……」


 八華は、初めて「実績さえ覆される恐怖」に直面していた。


 小石川養生所。

 罵声が飛び交い、石が投げ込まれる。患者たちは怯え、町人たちは疑いの目を向ける。


 雅は一歩前に進み、群衆に向けて声を張り上げた。

「よい、疑うならば疑え! 八華はただ、己らの命を賭けてこの養生所を守るのみ! だが一つ問いたい。なぜ急に、これほど同じ噂が広まったのか?」


 人々がざわつく。

 梓は屋根に駆け上がり、群衆を煽っていた男を押さえ込んだ。

 懐から出てきたのは、大黒屋の印が押された小袋。

「やはり……金で雇われていたか」


 町人たちがどよめく。


 そこへ彩が帳簿を抱えて現れた。

「こちらをご覧ください! 米問屋大黒屋から流れた金子の記録。

 “井上家御用”と符牒がある!」


 群衆は色めき立ち、エマが続けた。

「病を救うために集まった金が、逆に人心を惑わす噂に使われていたのです!」


 麗は人々の前に立ち、毅然と宣言した。

「我ら八華の背にあるのは、利ではなく命。民の口を縛り、命を危うくする者こそ真の奸物です!」


 その時、騒ぎを聞きつけて駆けつけた南町奉行所の役人が、押さえられた男を連行していく。町人たちの目は一斉に養生所へと向き直った。


「やっぱり八華様は正しかったんだ……」


「命を救ってくれるのはあの方々だ!」


 群衆の空気が一変する。


 だが雅は拳を握りしめた。

「……井上家御用の名。上様に報告せねばならぬ。この背後には、老中がいる」


 八華は、初めて「黒幕」の名を掴んだ瞬間であった。



 江戸城・黒書院。

 静寂を裂くように、畳を踏みしめて進み出る八華。


 先頭に立つのは雅、その後ろに琴親王・茜・梓・彩、さらに麗・宗・エマが続く。


 吉宗は床几に深く腰掛け、鋭い眼差しを娘に向けた。

 背後には老中たちが居並び、場の空気は張りつめていた。


「父上……いえ、上様に申し上げます。

 我ら八華の養生所を妨げし者、大黒屋の背後には、井上家御用の名がありました」


 老中たちが一斉にざわつく。

「何を申されるか! 証拠はあるのですか!」と声が飛ぶ。


 すると彩が前へ進み、帳簿を掲げた。

「こちらに、金子の流れを示す記録がございます。大黒屋から雇われし者の証言も、すでに奉行所が押さえております」


 茜も口を開く。

「噂を流し、庶民を惑わせ、病に苦しむ者を再び地獄に落とす……。

 これは、上様の御政道を愚弄する行為にございます!」


 さらに琴親王が、追い打ちをかける。

「このままでは、八華のみならず、徳川の治世そのものが疑われましょう。

 どうか、黒幕を御自らの手で裁かれませ」


 広間は静まり返る。

 吉宗はゆっくりと立ち上がり、八華を見渡した。


「……姫よ。おぬしがこの政道に口を出すこと、予は幾度も戒めてきた。

 されど、その目、その声、その仲間。既に民の心を掴んでおるようだな」


 雅の瞳が揺れる。だが一歩も退かず、頭を下げた。

「上様。父としての情ではなく、将軍としての御決断を……」


 しばしの沈黙。

 やがて吉宗は刀の柄に手をかけ、畳を打つように力強く告げた。

「よい! 八華の奏上、しかと聞き届けた。この上は我が名のもと、徹底して調べ上げる!井上、覚悟せよ!」


 老中たちの顔が一斉に凍り付いた。

 その瞬間、八華はついに将軍を動かし、黒幕の正体に迫る第一歩を刻んだのであった。



 江戸城

 夏の光が障子越しに差し込む中、老中たちが一列に並ぶ。

 その中央に引き出されたのは井上老中。衣の裾は乱れ、顔色は蒼白だった。


 吟味方大目付の読み上げる声が広間に響く。

「……大黒屋を使い、養生所を貶め、庶民を惑わした罪。

 その背後に幕政を私す意図があったこと、証拠により明らかである」


 ざわ、と列座の老中たちが動揺する。


 井上は膝を震わせながら叫んだ。

「わ、私はただ……! 米の利を守ろうとしたまで!

 上様、どうかご慈悲を!」


 だが、吉宗は冷ややかに彼を見下ろす。

「利を守るために民を飢えさせ、病を蔓延させるか。それを政と申すなら、我が名の徳川の世は地に堕ちよう。井上、覚悟いたせ」


 一言に場が凍り付く。


 大目付が一歩進み出て声を張る。

「上位である井上家、改易! 主は切腹を命ず!」


 井上はその場で平伏し、護衛の侍に抱えられながら奥へと連れ去られていく。


 その後の静寂の中で、吉宗は八華へと視線を向けた。

「これにて一件落着。されど民を惑わす奸物は、まだ潜むやもしれぬ。

 八華よ、これよりも気を緩めるな」


 八華は静かに頭を垂れ、雅は胸の奥で小さく呟いた。

「……黒幕は討ち果たされた。だが、戦はまだ始まったばかりですね」


 八華は、静かに拳を握りしめた。




 養生所にて八華が、蒸かしたサツマイモと茶を楽しんでいた。黒幕を屠ったことで皆笑顔である。


 琴親王は茶をすすりながら皆に言った。

「人の為に尽くすのは、こんなに気持ちを豊にさせるのですね。このまま、永遠に皆と一緒に過ごしたい」


 茜も同意しつつも、それは不可能だと諭す。

「私達の命は、神仏によるものです。そしてこの命は役目を終えると、お返ししなければなりませぬ」


「しかし、案外と神仏の慈悲により、先の世にまた命を御貸し下さるかもしれんぞ。もし生まれ変われば、どこに居ようともまた八華で集まり世直しをいたそうぞ!」

 雅は、皆を見て約束するように言葉を締めた。


 この八華の働きは、後に滝沢馬琴の”南総里見八犬伝”のヒントになったと唱える者もいる。


 そして、現在のアルテミスの八人との関係は.......ただ、神仏のみが知る所である。


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