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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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『~江戸のお姫様大活躍~2 八面六臂の働きならぬ”八華六臂の働き”』

 

 八華がそろった翌夜、吉宗の命により御用屋敷の一室に集まった。

 円座に並ぶ八人は、まだ互いの距離を測り合う空気が残っている。


 雅が口を開いた。

「わらわは将軍家の姫なれど、すべてを見通せるわけではない。町の声を知らねば、世直しも絵空事に終わろう」


 梓が頷く。

「隠密は耳目を張れますが、江戸八百八町すべてをくまなく調べるには限界がございます」


 そこに彩が静かに言葉を挟む。

「政治もまた同じ。上の者に届く訴えは、すでに濾過されたものばかり。民の生の声を拾う仕組みが必要です」


 茜が机を軽く叩き、きっぱりと提案した。

「ならば、町人自らが訴えを記す場を設けましょう。箱を置き、誰もが投げ入れられるように」


「目安箱、か」

 雅の目が輝く。


 だが、箱を置くだけでは人心は集まらぬ。ここで四人の新たな仲間が、それぞれ知恵を出す。


「箱の設置場所は人目につきやすく、かつ書き入れる者が恥じぬよう工夫すべきです。私が町人衆と交渉し、適所を選びましょう」

 町人らしい感覚で麗が置き場所の工夫を上げる。


「投げ込まれた文が盗まれぬよう、からくり仕掛けの錠前を施してみせる」

 と宗は、箱の形状を申し述べる。


「ここ江戸では、識字率が七割前後と聞きます。これは世界から見ればとても高いです。しかし残り三割こそ本当に救う人なのでは?そこで筆や紙を手にできぬ者のために、印を記す方法を考えます。西洋では絵や記号で訴えを伝える例もあります」

 エマの指摘は、確信を突いていた。


「帝より賜りし御璽(ぎょじ)を写した印を与えましょう。これがあれば、目安箱はただの箱ではなく、朝廷の威光も宿す」

 琴親王は、箱に権威を与えイタズラを防ぐ効果を与える提案である。


 梓が口笛を鳴らし、茜が目を丸くした。

 八人の才覚が、ひとつの箱に集約されてゆく。



 数日後、八華は連れ立って江戸城下、両国橋の袂に赴いた。

 町人も武士も、珍しげに見守る中、雅が直々に目安箱を設置する。


「この箱に訴えを入れる者、身分は問わぬ。怨嗟も苦情も望みも、すべて投げ入れるがよい。八華が必ず読み、世直しの糧といたす」


 群衆はざわめき、やがて拍手が沸き起こる。子供が駆け寄り、最初の投函をした。皺だらけの紙切れには、たどたどしい字でこう書かれていた。


「お侍さま、長屋の井戸が壊れて困っております」


 ささやかな願い。だが八華にとっては、確かに江戸の声であった。


 雅はその紙を掲げ、力強く告げる。

「これこそ、我らの始まりじゃ!」


 麗がそれを聞いて一言呟いた。


「で、姫様そのお足はどこから出るのですか?」


 武士階級の4人と皇族の1人が、一斉にハモる。

『忘れてた・・・・・・・』




 夏の夕暮れ。大川の河岸に仮設の舞台が立ち、赤提灯が灯る。

 看板にはこう記されていた。


「八華御披露 異国見世物とからくり芝居 入場料五文」


 最初は物見高い町人たちが半信半疑で集まってきただけだったが、幕が開くや否や、歓声が沸き起こった。


 舞台中央に、色鮮やかな獅子舞のからくり人形が飛び出す。

 歯車が噛み合い、太鼓の音に合わせて舞う姿は生きているかのよう。

 子供たちが歓声を上げ、大人も思わず銭を投げ込む。


「江戸一のからくり師の娘、宗にしかできぬ芸じゃ」

 と、梓が小声で感嘆した。


 続いて登場したのは、異国衣装に身を包んだエマ。

 手にしていたのは西洋の望遠鏡。


「どうぞ覗いてごらんなさい。遠くの両国橋の人影までも、手に取るように見えます」


 町人たちは驚嘆し、次々と小銭を差し出す。

 さらに異国の香料や薬草を並べると、長蛇の列ができた。


 舞台裏では麗が目を光らせ、銭箱の管理に余念がない。

「入場料だけでは足りませんわ。屋台に甘酒や団子を並べ、ここでも利益を上げますの」


 彼女が采配すると、あっという間に行列。

 庶民は笑顔で財布の紐を緩めていった。


 そして、最後に舞台に現れたのは京より下向した琴親王。

 十二単ではなく、町娘風の軽装に身を包み、柔らかな笑みを浮かべる。


「この催しの収益はすべて、江戸の困窮する町人のために使います。どうか、皆々様の真心を銭一文に託してくださいませ」


 その一言で場が静まり、やがて拍手が大きなうねりとなった。

 町人たちは競うように銭を投げ入れた。


 夜が更け、銭箱を開けると、中には山のような銭。

 計算すると、初日だけで二百両に迫る額となっていた。


 麗が驚きの声を上げる。

「姫様……これで、活動の礎が整いましたわ」


 雅は銭の山を見やり、静かに言った。

「これは町人が託した希望の形。決して無駄にはせぬ。八華は、この力で江戸を変えてみせる」


 こうして、八華の活動資金「八華基金」は産声を上げたのであった。


 両国橋の袂に設置された目安箱。

 ある日、子供の手で投じられた一枚の紙が取り上げられた。


「長屋の井戸が壊れて困っております。水が出ず、みな病にかかりそうです」


 文字は稚拙で震えていたが、必死さが伝わる。

 雅はその紙を広げ、皆の前で言った。


「八華基金の初めての使い途……これに決めよう」


 八華はすぐに動いた。


 数日の作業の末、ついに井戸から清水がこんこんと湧き出した。

 子供たちは歓声を上げ、年寄りは手を合わせて涙した。


「これで……これで命がつながる」


 町人の言葉に、八華の面々は顔を見合わせる。


 雅は、井戸の水面を見つめながら静かに言った。

「わらわたちの世直しは、大事も小事も隔てはせぬ。この一桶の水が、江戸を潤すと信じよう」


 それは決して華やかではなかったが、江戸庶民にとっては何よりもありがたい世直しであった。


 この出来事をきっかけに、「八華に願いを託せば、本当に動いてくれる」と江戸の町に評判が広がってゆく。


 長屋の井戸を直した数日後、八華は江戸の町を見回る。

 そこには水が戻ったとはいえ、病に苦しむ人々の姿がまだ多くあった。

 雅が目を細め、静かに言う。


「井戸だけでは足りぬ……病に苦しむ者を救う施設を作らねば」


 彩が帳簿をめくりながら言った。

「基金はまだ残りわずか。しかし、使い道を考えれば、人命を守ることが優先です」


 梓は影のように頷く。

「情報網を使えば、病人が集中する地域を特定できます。小石川あたりが適しておりましょう」


「エマ、そちは、以前毒物を見破り見事に毒の対処をした。そちの蘭学が役に立つと思うがどうじゃ?」


「それは可能ですよ。オランダの医学書を取り寄せて医者を育てる必要があります。ただ今の基金では足りません」


 つまりこう言うことである。療養所付設医学所と言うことだろう。問題はその費用であった。


 小石川養生所の拡張計画医学書庫の建設案が出された夜。

 八華は寄合を開き、帳簿を前に頭を抱えていた。


 彩は冷静に計算した。

「建築費、医師の招聘料、輸入書籍の購入……合わせて六百両は下らぬ。

 残る基金はわずか百二十両。これでは到底及ばぬ」

 梓は腕を組みながら言った。

「吉宗公から追加の援助を請うこともできようが、上様は『自らの知恵で世を立てよ』と仰せ。安易には頼れぬ」


 その時、麗が扇をぱちんと閉じ、艶やかに笑った。

「みなさま、ご心配には及びませぬ。資金は必ず集められますわ」

 麗は屏風に紙を広げ、すらすらと筆を走らせていく。


 壱、 「八華銘茶」と「八華飴」

 養生所の名を冠した茶と飴を製造販売。

 ”病を防ぐ八華の茶”子供の健やかさを祈る八華の飴”として評判を呼び庶民に広く行き渡らせる。


 弐、 感恩講(あまつこうらん)それぞれが出せる範囲で毎月積み立て病の時に養生所の個室を使用できる。(現在で言う差額ベッド)


 参、 豪商・大名への“預け金”制度

「医学書庫は日ノ本の宝」と銘打ち、投資を募る。

 将来の収益(診療費・書物貸し出し料)から分配金を出す契約をし、豪商や旗本の資金を引き入れる。また医学所に留学させる枠を大名には与える。


「ただの寄付を願うのではありません。『利益』と『名誉』を同時に差し上げれば、豪商も武家も財布の紐を緩めましょう」 

 麗は屏風を差して言った。


「恐ろしいほど商才に長けているな、麗。采配はそなたに任せるぞ」 


 こうして、八華は「養生所と書庫の建設資金」を得るため、江戸城下を巻き込んだ一大市を開くこととなる。

 江戸の町人や豪商は熱狂し、資金は一気に集まりはじめた。  



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