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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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~幕間~ 『江戸のお姫様たちの大活躍1』

 

 時は享保。八代将軍・徳川吉宗の治世。倹約と改革の風が江戸を吹き抜けるその最中、町にはまだまだ闇がはびこっていた。米を買い占める悪徳商人、役目を忘れた役人、火付盗賊の跳梁。


 その日、御城の奥深く中奥の書院に将軍家の姫、雅姫は、父・吉宗に呼ばれた。


「世の中を正すのは法と武ばかりではない。お前のような若き者が、己の目と耳で確かめ、正すことも必要であろう」


 吉宗はそう言って、娘に一つの密命を授けた。江戸に巣食う闇を、己の仲間と共に晴らせ、と。


 そう姫に言い渡すと”ぽん。ぽん”と手を鳴らす。


 蝋燭の灯りが揺れると雅の後ろには、いつの間にか人の気配がする。


「何奴じゃ?」

 この警戒が厳しい中奥に忍び込むとは、只者でないことに雅は、一瞬身構える。


「警戒をお解きください。これより姫の影守りに御推挙いただきいました御庭番頭領が娘”梓”と申します。以後お見知り置きを」


「うむ、”雅”じゃ!良しなに頼む」


「二人だけでは足りないだろう。あと二人そちに預ける。入ってまいれ」

 そう吉宗は、穏やかに声を上げる。


 すると後ろの襖が音もなく開く。そこには別式女(べつしきめ)の格好をした二人の女人が平伏していた。


「一人は、大岡忠助の娘”茜”じゃ。部芸百般に通じているなかなかのじゃじゃ馬でのう。もう一人は、老中首座松平武元の娘”彩”じゃ。少々堅物だが頭は切れる才女である」

 笑いながら吉宗は姫に紹介した。


「これだけでは、世を正すことは、無理であろう。そこでこのお墨付きをお前に渡す」


 それは正しく権威であった。お墨付きには、徳川家の黒い紋が入っており、その内容は、この者は徳川吉宗の代理である。その権威は予(吉宗)の命と心得よ。と書かれており、最後には吉宗の名と花押 大目付の名と花押 老中首座の名と花押 南北江戸町両奉行の名と花押が書かれていた。


「あと掛かる費用は勘定奉行に申し送りしておる。費用緊縮がゆえ潤沢とは言えないが、そこは察してくれ」


「父上、最初に二百両()()いたします」


「ん?その位の金子では、何もできないのでは?」


「十分な元手でございます。()()いたしたる二百両は、倍にしてお返しいたします」


「親子に貸し借りなぞある訳はない。それにこれは世直しぞ。わずか二百両で出来ることなど・・・」


「父上!世直しとは、勧善懲悪のみではありません。世の人が楽しく生きていく制度まで作り上げてこそ世直しでは?」

 雅姫は、自信有り気に強く言い放った。


「よし、そこまで姫が申すなら今この手文庫に二百両ある。それを持っていけ」

 そう吉宗は言ったが、何か引っかかる。”なぜ二百両”と言ったのか?まさかこやつ、儂のへそくりの額が、手文庫に二百両あることまで知っていたのでは?そうして姫を見ると姫は素知らぬ顔をしてる。


 全てを察した吉宗は、”我が家の麒麟児”は姫だったのか。こやつは、生まれた時から、普通でなかった。他の姫が、蹴鞠や貝合わせで遊ぶのに、こやつは、書庫に入りびたり書物ばかり読みあさっていた。


「そうか、二百両だな?」


「はい。()()は二百両で倍返しでございます」




 翌日、江戸城の中奥に、雅姫を筆頭に四人の女人が集まっていた。


「今日からこの四人は、同志です。遠慮は美徳ですが、今後は不要。お互い名前で呼び合うことを許します。よろしいですね」


「はっ仰せのままに!」三人は返事をした。


「早速ですが、最初に何をすべきだと思いますか?」

 雅が皆に問うた。


「二百両では、あまりにも資金が心もとないですね。これを元手で増やす算段が最初かと」

 彩がその頭で思ったことを口に出す。


 元々雅は、二百両程度で世直しができるとは考えていなかった。たまたま父が、勘定奉行とお言葉を出したので、それを断る意味合いで言ったことであった。そして手文庫に二百両あることを知ってたので、それを口実に強請(ねだ)っただけなのだ。


「茜はどうですか?」


「家は、家禄も低く二百両の価値はわかりませんが、やはり二百両じゃ瀕死の家族を救うにしても精々二百人、とても世直しとは言えませんね」


「梓はどうですか?」


「御庭番は、隠密だけでも一人十両は必要です。江戸各地に配置するにも費用不足かと」


 これらの返答は雅が想像してたことである。費用不足は皆口に出すだろうと。それをあえて尋ねたのは、それぞれがどの立場で費用不足を指摘するのかを確かめたかったからである。


 彩は為政者の立場で、予算の大切さを。茜は、やはり町人生活の救済の立場で、梓は情報重要性の立場でそれぞれ二百両の価値を述べた。


 二百両は、一個人としては大金であるが、世直しからすると微々たる費用であり意味をなさないのである。


「では、この二百両を増やしましょう」


「しかし、我々は武家ですよ。商人でもない我々は、金子を増やすなんて考えたこともありません」


「そうです。私達では、この金子を何十倍何百倍にすることは、出来ません。ならばどうするか?簡単なことです。この金子を何十倍何百倍に出来る者を同志に迎え入れればよいだけです」

 雅は事もなく言い放った。


 しかし、それが一番難しいと皆同じ顔をしている。


「この二百両は、撒き餌です。それで寄って来た大魚を捕まえる。大魚さえ寄ればあとは、それを捕まえるだけ。我々に必要なのは実は金子じゃなく人なんです」




 江戸・両国広小路。

 雅姫が借り受けた二百両を投じ、即席の舞台と屋台が立ち並んでいた。

 看板には大書してある。


「世直しの志ある者、集うべし」


 人々は「また御姫様の道楽か」と冷ややかに見やる者もあれば、「ただ酒ただ飯」と群がる町人もいた。

 だが舞台の中央に立った雅姫は、涼やかな声で告げた。


「この二百両を以て、わらわは江戸をよりよき町に変えてみせよう。志ある者、力を貸してはくれぬか」


 人々がざわつく中、ひとりの町娘風がすっと前に出る。

 絹の小袖の仕立ては上等、だが目は商人そのものに鋭い。


「二百両? その使い方次第で十倍にも百倍にもなる金でございます。

 姫様、その算段もなく“世直し”などと申されるのは、愚かにございましょう」


 挑むような言葉に場がどよめく。


 だが雅はにこりと笑みを浮かべた。

「では、そなたがその道を示せ。わらわは才ある者を探しておる」


 娘の名は江戸一の御用商人の娘、麗。元々商才のあった彼女は、男でないと言うだけで、その才が埋もれていた。自分の才を思う存分使えるのなら面白いと参加を決意する。



 続いて、子供たちを笑わせるからくり芝居が始まる。紙人形が宙を舞い、太鼓の音とともに獅子が跳ねる。その仕掛けを操っていたのは、腕まくりをした職人風の娘宗。


 観客は喝采したが、宗は苦々しい顔をしていた。


「からくりをただの余興にするとはな。……だが、もしそれが人を救う手立てになるというのなら、話は別だ」


 雅の一言が響く。

「宗よ。人を笑顔にできる技は、人を救う技でもある。わらわに力を貸せ」


 宗は鼻を鳴らしながらも、肩をすくめた。それは同意の証であった。



 その折、広場の一角で騒ぎが起こる。

 薬売りが怪しげな丸薬を配っており、飲んだ町人が苦しみ始めたのだ。


 そこへ異国風の衣をまとった娘が進み出る。

「待って! その薬は毒に近い成分を含んでいます!」

 流暢な日本語に訛りが混じる。


 彼女は持参の瓶から粉末を取り出し、水に溶かして解毒の処置を施す。

 町人は息を吹き返し、群衆は驚嘆の声を上げた。


「そなたは?」と問う雅に、娘は胸を張る。

「長崎出島、オランダ商館の娘エマと申します」


 雅は即座に手を差し伸べた。

「わらわの父上、将軍は蘭学を奨励しておる。異国の学を以て、人を救う力を貸してはくれぬか」


 エマは微笑み、その手を取った。


 御披露目会の熱気が最高潮に達した時、京からの早駕籠が到着する。

 降り立ったのは、華やかな十二単に身を包んだ高貴の少女、帝の皇女、琴親王であった。


 彼女は雅に向かって言葉を放つ。

「江戸の地にこれほどの志が集うとは、父帝に伝え聞き、居ても立ってもいられず下向いた。わたくしも、一員としてこの世直しに加わろう」


 群衆はどよめき、雅は深々と頭を垂れる。



 突如、先程の偽薬販売の男が、浪人衆を連れて乱入し、催しを荒らそうとする。茜が刀を抜き、梓が人払いを仕切り、彩が采配を下す。そこへ加わった麗の知恵、宗のからくり仕掛け、エマの薬、そして琴親王の威光。


 そして、雅が懐からお墨付きを取り出した。そこには葵の刻印が押されていた。


 それを見た浪人は一目散でその場から立ち去ていく。


 雅は声高らかに宣言する。

「ここに八華、結成なり!」


 江戸の空に拍手と歓声が響き渡った。



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