お嬢様 『怒りの森林』
鎌倉の旅館の一室、ルナヴァイオレットの5人はテーブルを囲んでいた。
いずみが、プロ用のタブレットを指でなぞりながら微笑む。
「任せてちょうだい。芸能人から上流階級のマダムまで通う私のサロンの顧客網、こういう時のためにあるのよ」
華道宗家のしおんは、静かに頷く。
「弧月流は古くから文化界にも弟子が多いの。水源地を狙う再開発計画に、どこの政治家が関与しているのか……探れると思うわ」
みちるは焼き菓子の箱を机に置き、目を輝かせた。
「うちのケーキを卸してる大手商社経由で、外国資本の流れを追えるかも。どうも外資系の投資ファンドが絡んでるにおいがするよ」
あやめは艶やかな和服の端を整えながら、涼やかに言葉を継ぐ。
「呉服を納めている老舗や茶道界からも、政財界の裏話は集まるのよ。太陽熱発電表向きは環境事業でも実態は環境破壊、その裏にどんな金の流れがあるか……」
最後に、ひまりがノートPCを開き、さらさらとタイピングを始める。
「私はペンの力でいくわ。作家仲間から、映画プロデューサー経由で聞いたの。再生エネルギー利権に食い込もうとしてる“匿名ファンド”の話……きっと今回の案件と繋がってる」
五人はそれぞれの得意分野を持ち寄り、情報の断片を一つのパズルのように組み上げていった。
そして浮かび上がったのは、
外国マネーが絡む再開発ファンド
その資金が暴力団の地上げ活動に流れている
最終的な計画地は、あかねの祖父の所有する「水源地を含む山林」
いずみがシャンパングラスを軽く持ち上げ、仲間たちに向けて言う。
「さぁ、証拠が揃ったわ。これでアルテミスとルナゴスペルに渡せば、次の一手が打てる。おネエの真骨頂、見せてあげましょ」
鎌倉・あかねの祖父宅。
重厚な和の造りの大広間に三チームが揃い、座卓の上には資料とノートPCが並ぶ。障子越しに虫の声が響く夜、異様な緊張感と熱気が漂っていた。
梓が指でスクリーンを示す。
「これが再開発計画の核心。名目は“次世代型太陽熱発電施設”。けれど実際には、この山林をすべて伐採して巨大な反射パネル群を設置する。ここ水源地に重なるのが問題」
スクリーンに赤く囲まれたエリアを見て、アルテミスのメンバーがざわめく。
彩が眉をひそめる。
「水源を壊したら鎌倉全域の地下水脈に影響が出るわ。観光どころじゃなくなる」
怒りを抑えきれず雅が応じる。
「家がメガソーラーに手を出さなかったのは、環境対策の名の下に環境破壊をもたらすからなの。一般家庭の屋根や公共施設に設置するのは、いいわ。でもね森林を切り開いてまで設置するのは問題だと思うの。熱海の災害の件みんなも聞いたことあるわよね。」
全員が頷く。
「森林を伐採すると、森は保水力をなくし土砂災害の危険度が増すの。そして森の生態系が崩れ予想が出来ない事態も起こるわ。
大きな台風がくれば、パネルが吹き飛び二次災害の危険も否定できない。そしてパネルの寿命は約30年。
その撤去責任もあいまいで使用後のパネルの廃材処理も棚上げなの。
それに一番の問題点は、そのほとんどが外国資本だと言う事実。
こんなので進めるメガソーラー計画は、将来の不安になることは間違いないわ」
すぐにルナゴスペルの美奈子が身を乗り出した。
「表向きはエコ事業。国の補助金も流れ込む。けど実態は.........」
玲奈が机を叩き、資料を広げる。
「暴力団が先兵。地元の反対派を脅して土地を売らせる。裏には外国系ファンドが資金を出していて、最終的には莫大な電力利権を握る算段」
ルナヴァイオレットのリーダー・いずみが腕を組んで言う。
「さらに裏を洗ったら、この事業に関与してるのは環境保護を看板にした“ペーパーカンパニー”ばかりなのね。完全に偽装だわ。環境破壊を“環境事業”に見せかけて補助金を吸い上げてるのよ」
琴音が静かに頷く。
「ゼネコン関係の資料を調べたわ。施工予定の企業は、過去にも森林伐採で問題を起こしてるところばかり」
重い沈黙が広間を覆う。
あかねが口を開いた。
「祖父の山林を狙うのは、ただの地上げじゃなかった。鎌倉全体を犠牲にする計画だなんて……」
彩が腕を組んで低く呟く。
「……父にこの資料を見せたら、きっと激怒するでしょうね」
一瞬、場が静まる。
ルナゴスペルの玲奈が目を丸くする。
「父? 官房長官の……?」
彩は頷き、表情を引き締める。
「ええ。父は内閣官房長官として、治安対策や再開発関連の補助金スキームにも目を光らせている立場。だけど裏金や外国資本が絡んでいる以上、表の政治ルートだけでは止めきれない。だから証拠が必要なの」
あかねが拳を握る。
「つまり、官房長官ルートで“圧力”をかける手はある。でも表沙汰にしたら暴力団も資金源も地下に潜って、より見えなくなる。正面突破だけではダメってことか」
ルナヴァイオレットのいずみがニヤリと笑う。
「そこであたしたちの出番ってわけね。人脈を使って、ファンドの黒幕を世間に晒してやる。政治の盾と、あたしたちの暗部調査、両方揃えば完璧よん」
ルナゴスペルの美奈子が力強く机を叩いた。
「潜入調査は任せなさい。現場で連中がどんな動きをしてるか、全部洗いざらい引きずり出してやるわ」
梓が全員を見回し、落ち着いた声で締める。
「アルテミスは全体の戦略と情報整理。ルナゴスペルは現場潜入と実力行使。ルナヴァイオレットは人脈と世論工作。そして、彩のお父様の官房長官ルートを“最後のカード”として使う。三チームで連携すれば、必ず潰せる」
雅が凛とした声で言い切った。
「これは単なる抗争じゃない。鎌倉を守る戦いよ」
その日の夜
ルナゴスペルの隊長・美奈子が、調査ファイルを前に置き、深く息を吸う。
「鎌倉の水源地一帯……暴力団の背後にいるのは“環境破壊型の太陽熱発電プロジェクト”よ。補助金と外国資本を使って、あかねさんの祖父の山林を丸ごと潰そうとしてる」
テーブルの上には航空写真や、ダミー会社の登記簿が並ぶ。
千秋が指で地図をなぞりながら続けた。
「この赤いラインが予定地。完全に水源地を飲み込む形ね。もし開発されたら、鎌倉の地下水は枯れるわ」
沈黙の中で、アルテミスのあかねが立ち上がった。
彼女の表情は普段の冷静さを失い、硬く結ばれている。
「……ここまでしてくれて、本当にありがとう」
そう言って、あかねは深々とルナゴスペルに頭を下げた。
「ちょ、ちょっと! あかねさん、頭を上げてよ!」
美奈子が慌てて立ち上がる。
「アルテミスに世話になった私たちが、ようやく借りを返すチャンスが来ただけ。だから、礼なんていらないの」
千鶴や玲奈も口々に「そうだよ!」と声を上げる。
ルナゴスペルの面々は、決して誇張せず真剣な眼差しであかねを見つめていた。
その空気を受け止めて、アルテミスの総長・雅が口を開いた。
「……恩の貸し借りじゃない」
彼女の声音は落ち着いていたが、胸の奥から響く強さがあった。
「ただ、政治上今は警察が動かせない間、暴力団に対しての戦闘力がいるわね。私達20人じゃ役不足かも」
「あら、兵隊さんならいるわよん」そう言っていずみちゃんはウィンクを雅にした。
「入ってらっしゃい~♡」
「やれやれ、どんな呼び出しかと思えば、大変なことになってるじゃないか」
襖をあけて入ったきたのは、不如帰の蓮である。
「急にそこのオネエ様から、横浜連合の精鋭100人連れこいって連絡が入ったもので、慌ててかき集めたら120人になっちまったわ」
「蓮さんなぜ?」雅は唖然として尋ねた。
「おいおい、あんた横浜連合の大将だぜ。あんたがやられたら、また横浜は昔に逆戻りだ。あんたが作った横浜の秩序、みんな感謝してるんだぜ。とりあえず目立たないように今夜は、あちこっちに分散して泊めてある」
「どぉ?雅さま.....あなた自身が思ってるよりもみんなのカリスマなのよぉ♡」
雅は、こみ上げてくるものをぐっと抑え込み言った。
「みんなの宿泊費や滞在費等はこちらで全部持ちます。それと他抗争終了まで一人に日当5万円お出しします。それから............みんなに”ありがとう”って伝えてください」
(これで戦える。武器は全て揃った。負けはない)
雅は心でそう呟いた。




