お嬢様 『ルナ・ヴァイオレット』
横浜決戦から、数日後。
アルテミスの本拠ビルに、紫の特攻服を纏った五人が招かれていた。
深い紫は夜の色であり、誇りの色でもある。
ナイトヴァイオレット――
そう呼ばれていた彼女たちは、今日、その名を手放す。
雅は静かに彼女たちを見つめ、ほんの少しだけ口元を緩めた。
その微笑みは、評価でも試験でもない。受容の合図だった。
「あなたたちの勇気と誇りに、私たちは心から敬意を抱いていますわ」
言葉は穏やかだが、芯は強い。
「正式に――アルテミスの友好チームとして、お迎えいたします」
一瞬、場が静まり返り。
次の瞬間、いずみが胸に手を当て、大げさなほど目を潤ませた。
「まあぁ……♡
雅さまにそんなこと言われたら、もう……生きてて良かった気分よぉん♡」
その声に、緊張がほどける。
梓はすでにタブレットを操作しながら、事務的でありながら温度のある声で続けた。
「部屋は用意済みよ。
ルナゴスペルと同じ扱いで、友好チーム専用区画を割り当てます。
生活も活動も、アルテミスが全面的にサポートするわ」
案内された空間は、深い紫を基調にしたエレガントな内装だった。
シャンデリアの光が、いずみの縦ロールに反射する。
「オホホホ♡
なによこれ……アタシたちのために作られた宮殿じゃないの!」
感極まった声が、自然と漏れる。
「ルナゴスペルと……同じ扱い……」
誰かが、こらえきれずに涙を拭った。
麗子が一歩前に出て、柔らかく微笑む。
「ここからは“ナイト”ではありません。
“ルナ”として――月の光の下で、私たちと共に歩んでいきましょう」
いずみは、背筋を伸ばしてうなずいた。
「決まりね。 これからアタシたちは“ルナヴァイオレット”。
アルテミスの美と誇りを追い求める、紫の月の戦士よ♡」
アルテミス“月の雫プロジェクトビル”
6F・大会議室
雅を中心に、アルテミスの八人。
そして、すでに着席しているルナゴスペルの七人。
そこへ、紫の特攻服をまとった五人が姿を現した。
華やかで、圧がある。
だがその奥に、わずかな緊張が透けて見えた。
雅は立ち上がり、手を差し伸べる。
「遠慮はいりませんわ。ここでは肩書きも立場も関係ありません。
……自己紹介を、どうぞ」
いずみが一歩前へ。
「アタシがルナヴァイオレットのリーダー、紫いずみ。
オネエ系だの何だの言われてきたけど、美しさを追い求める生き方を選んだの。アルテミスに憧れて、今日ここに立ってるわ。趣味はティーカップ収集ですのぉ♡」
拍手が自然に湧き起こる。
次に、小柄なしおんが前に出た。
胸には、ウサギのぬいぐるみ。
「わ、わたしは……小鳥遊しおんです。ぬいぐるみ集めが好きで……
戦うときは全力だけど……ほんとは、女の子らしいものが大好きです」
涼子が優しく微笑む。
「かわいいわね。私も大事なぬいぐるみがあるの。あとで見せ合いましょ」
「モチロンよぉ!」
しおんの顔が、一気に明るくなる。
みちるが、落ち着いた声で続く。
「村瀬みちるです。お菓子作りが得意で……マカロンやケーキを焼きます。
よかったら、今度みなさんに」
「まあ!」
エマが思わず手を叩いた。
「合同お茶会、決定ですね!」
「あたしも甘いの大好きス」
千鶴も即座に乗る。
あやめは、少し視線を落としながら。
「佐伯あやめです。刺繍が好きで……特攻服も自分で縫ってます」
琴音が微笑む。
「2Fの工房、ぜひ見てください。驚きますわよ」
「……ぜひ♡」
目が、職人のそれになる。
最後に、ひまりが手を挙げた。
「星野ひまり! ダンスが大好き! いずみ様の横で踊りながら、ルナヴァイオレットの“美の突撃”を盛り上げます!」
「ダンス仲間だ!」
ひなたが即座に反応し、二人は笑顔を交わした。
雅は、全員を見渡してから静かに言う。
「……それぞれに、美がある。アルテミスは、あなたたちを友として迎えます」
そして、宗子がふと思い出したように尋ねる。
「大型二輪の免許は?」
「ええ。五人とも♡」
「では――」
地下ガレージ。
世界中の名車が、照明に照らされて並んでいた。
「遠慮はいらないわ」
梓が言う。
「あなたを一番輝かせる一台を、選びなさい」
いずみが迷いなく前に出る。
「カワサキ Ninja ZX-10R。深紫のラメで、縦ロール金ライン。
存在そのものが“美の暴力”になるように!」
「似合いすぎるわね」
美奈子が笑う。
しおんは、そっと手を上げる。
「木田のKBR1000RR-R……
ラベンダーとホワイトで、リボンのペイントを……」
「素敵よ」
彩が優しくうなずく。
みちる。
「スズキの隼。キャンディアップルレッドに、マカロンの刺繍を」
「美学が完成してるわ」
エマが感嘆する。
あやめ。
「BMW R1250RS。濃紺とシルバーで、花の刻印を」
「工芸品になるわね」
宗子が目を輝かせる。
ひまり。
「ヤマハ MT-10!ビビッドピンクで、夜に踊る光を!」
「走るライブだね!」
ひなたが声を弾ませる。
雅が静かに締めくくった。
「……これで決まりですわ。
“ルナヴァイオレット仕様”マシン計画、始動します」
その瞬間――
アルテミスは、最強の槍と、最強の盾を手に入れた。
月は、二つになった。




