お嬢様 『最強の助っ人参上』
夕暮れの東名高速。
ブラッディ・アクシスの一千台が、総長・阿仁屋を先頭に黒い奔流となって横浜へ雪崩れ込んでいた。
排気音は地鳴りのように響き、街の灯りがかすかに揺れていた。まるで、何かが迫ってくるのを感じ取っているかのように。
ベイブリッジに差しかかるそのとき、川崎連合の数十台が橋の上に飛び出した。
蛇行しながら、挑発するように走る。
「ようこそ横浜へ! こっから先は、そう簡単に通れねぇぞ!」
スモークが一斉に撒かれ、花火が夜空に弾けた。
アクシスの隊列は視界を奪われ、長い列がじわじわと乱れはじめる。
その隙を突いて、横須賀と湘南の連中が後方から襲いかかった。
「背中がガラ空きだぜ!」
四百台を超える隊列の最後尾が火花を散らし、追突を避けるために急減速。
混乱が連鎖し、後方部隊は孤立していく。
「どこのチームだ? 横須賀か? 湘南か?」
「何人いるんだ……っ?」
アクシス本隊は、混乱の渦中にあった。
「ここからが本番よ!」
梓の声が無線に響く。
アルテミスと不如帰の精鋭たちがエンジンを吠え上げた。
KIDA-RS400ルナ改の排気音が、鋭い矢のように闇を切り裂く。
前方を警戒していた阿仁屋の視界に、鮮烈なライトの列が飛び込んできた。
「チッ、小娘どもが……!」
阿仁屋の意識は完全にアルテミスへと向けられる。
雅が先頭でベイブリッジ中央を疾走。
梓と宗子が左右に展開し、阿仁屋の周囲を翻弄する。
その隙に、不如帰の部隊が本隊中央を突き破り、ブラッディ・アクシスの隊列を三分割した。
「いったい何人いるんだ……? 横浜はせいぜい400のはずじゃ……」
分断されたことで、アクシス側は状況の把握すら困難になっていく。
逃げ道を選べば待ち伏せに遭い、グループはさらに細分化される。
大きなルートは封鎖され、逃げ込んだ先は袋小路。そこに待ち構えるのは、個別撃破の罠だった。
孤立した前衛部隊は川崎勢に絡め取られ、後衛は湘南と横須賀に押し潰される。
中央に残された阿仁屋本隊は、完全にアルテミスに釘付けとなった。
「分断完了。あとは叩き潰すだけ!」
梓の声が無線に響く。
横浜連合のメンバーが一斉に雄叫びを上げ、戦場は怒涛の乱戦へと突入した。
その中央で、阿仁屋が牙を剥いた。
「横浜の小娘ども……! ここで首を挙げ、関東制圧の布石にしてやる!」
雅、梓、宗子がKIDA-RS400ルナ改を駆り、阿仁屋の赤黒い隼と正面衝突。
スリップストリームの奪い合い、火花を散らすギリギリのブレーキング勝負が繰り広げられる。
阿仁屋の走りは、確かに脅威だった。
だが、アルテミスは一歩も引かない。
互角の攻防に、横浜連合の仲間たちが歓声を上げ始めた。
そのときだった。
背後から、轟音。
群れを裂くように、漆黒の巨影が迫ってくる。
「引いてくれ総長。ここは俺が出る。」
振り返った梓の瞳が見開かれる。
現れたのは、阿仁屋の切り札——用心棒・剛島義丸。
身長2メートル近い巨体。
鉄パイプを片手で振り回し、カスタムされたKawasaki Z1300を戦車のように操る。
「ちょっ……パワーが桁違い!」宗子が叫ぶ。
「こんなの、人間が操れる次元じゃない……!」
雅が必死に進路を塞ごうとするが、Z1300の爆音と質量はまるで壁。
鉄パイプが唸りを上げ、アルテミスのマシンが火花を散らして弾かれる。
その姿はまるで、五条大橋で弁慶と牛若丸が激突したかのようだった。
「やべぇ……アルテミスが押されてる!」
「義丸が出てきたら、さすがにヤバい……!」
観戦していた横浜連合の面々も息を呑む。
戦況は一気に、アルテミス絶体絶命へと傾いていった。
そのとき——
ドゥルルルルンッ!
場違いなほど華やかなエンジン音が、闇夜を切り裂いた。
紫色に輝く5台のバイクが、夜空から舞い降りる。
全員が紫の特攻服をまとい、縦ロールをなびかせた異様な集団。
「アタシたちが来たからには、もう大丈夫よォ♡」
リーダー格のいずみオネエ様が、長い縦ロールを揺らしながら高らかに宣言。
仲間たちも声を揃える。
「ナイトヴァイオレット、華麗に登場ぉおお!」
戦場の空気が一瞬、止まった。
「な、なんだコイツらは……!?」
阿仁屋が目を剥いたその瞬間、義丸が突進する。
「邪魔だァァァッ!」
だが、いずみオネエ様は怯まない。
紫の特攻服を翻し、両腕を大きく広げて叫ぶ。
「オ・シ・オ・キ♡」
ドガァッ!!
ラリアート一閃。
義丸の巨体が宙を舞い、Z1300ごと地面に叩きつけられた。
「な、なんだアイツら……!? 義丸が一撃で……!」
「嘘だろ、あの怪物が……!」
横浜連合は歓喜の声を上げ、アルテミスも驚愕の表情で目を見張る。
雅が小さく息を呑んだ。
紫の特攻服をなびかせながら、いずみオネエ様が高らかに宣言する。
「アタシたち、ずっと見てたのよォ……」
その声は、夜のざわめきを一瞬止めた。
「横須賀の夜に咲く紫の華が、アルテミスの走りの“美”に惚れ込まないわけがないじゃない♡」
梓が、ぽつりとつぶやく。
「私たちの走りに……憧れて?」
いずみは妖艶にウィンクし、唇の端を艶やかに持ち上げた。
「力でねじ伏せるだけじゃ野暮よ。速さと優雅さ、そして気品……それこそ真のレディースの美学! アンタたちアルテミスは、それを体現してるわ!」
「……気が合いそうね、あの人たち」
エマが微笑みながら、仲間にそっと囁いた。
いずみオネエ様は腰に手を当て、口紅を引いた唇で高らかに叫ぶ。
「さあ、華麗にいくわよ、ヴァイオレット! 美しくない敵は、まとめてブッ飛ばしなさいッ!」
「オオオォォォーー!!」
紫のバイクが一斉に咆哮し、ブラッディ・アクシスの側面へと突撃。
その動きは、まるで夜空を裂く稲妻のようだった。
「いけぇぇぇぇ!!!」
横浜連合も一斉に雄叫びを上げる。
不如帰のリーダー・蓮が吠えた。
「これが横浜の心意気だァ!!」
アルテミスは先頭で、KIDA-RS400ルナ改を操り、白い刃のように敵陣を突き抜ける。
後方からはルナゴスペルが鋭い隊列で追い、左右からは川崎・横須賀の走り屋たちが包囲網を広げていく。
一方のブラッディ・アクシスは、完全に混乱していた。
「な、なんだこの動きは……囲まれてる!?」
「ちっ、くそっ、隊列が崩れる!」
梓が冷静に指示を飛ばす。
「前後で挟み込なさい! 右からヴァイオレット、左は横須賀組! 合図は……今よ!」
紫の稲妻・ナイトヴァイオレットの突撃と、アルテミスの華麗な走りが交錯する。
その光景は、まるで夜空に舞う流星群のようだった。
やがて、ブラッディ・アクシスの隊列は完全に崩壊。
阿仁屋の野望は、横浜の地で音を立てて崩れはじめていた。
その夜、横浜の空に響いたのは、勝利の咆哮。
誇りと絆で結ばれた“横浜連合”が、暴力の嵐を迎え撃ち、見事に押し返したのだった。
そして、夜明け前のベイブリッジに、紫と白の旗が静かに翻っていた——
それは、ただの勝利ではない。
この街を守り抜いた者たちの、誇りの証だった。




