お嬢様 『横浜vs東京決戦前夜』
次の回には、以外な助っ人登場します。 夜8時頃公開予定です。
後夜祭から数日が経ったある夜。
東京で勢力を拡大してきた暴走族「ブラッディ・アクシス」が、ついに横浜へと進軍を開始した。
数百台のバイクが、黒と赤の旗をなびかせながら、首都高湾岸線を埋め尽くす。
その先頭で、総長・阿仁屋修羅が叫んだ。
「横浜を獲れば、関東南部は俺たちのもんだ!」
その声は夜の闇を裂き、赤黒の稲妻のように響き渡った。
一方、横浜港の巨大な倉庫街。
ここにも数百台の族車が集結していた。
「横浜は、俺たちの庭だ」
そう言い放ったのは、走り屋集団「不如帰」の総長・蓮。
彼の言葉に、集まった各チームの視線が集まる。
「普段は睨み合ってる俺たちだけど、地元を荒らされるのは我慢ならねぇ。ここに“横浜連合”を結成して、一つになって迎え撃つしかない」
蓮の提案に、鴎天會の古参が渋い声で続けた。
「走りじゃ負けねぇが、対立となると…悔しいが、まとめる頭はねぇ。横浜狂想会を潰したアルテミスになら、俺たちは従うぜ」
「湾岸サベージも参加だ。浜は俺たちの遊び場だ。よそ者に荒らされてたまるか。」
「うちも人数は少ねぇが、東京の傘下になるのはゴメンだ。連合に加わる」
その声を受けて、アルテミスのリーダー・雅が堂々と宣言した。
「私たちは逃げません。横浜を守るために、ここにいる全員で“横浜連合”を結成します!」
その瞬間、数百台のエンジンが一斉に咆哮を上げた。
横浜連合、誕生の夜だった。
その頃、首都高は赤黒の津波に飲み込まれていた。
数百台のマシンが隊列を組み、赤と黒の特攻服をはためかせる。
その中心に立つのは、ブラッディ・アクシス総長・阿仁屋修羅。
かつて新宿の裏社会を暴力で制圧した伝説の男。
「走り」ではなく「力」で頂点に立ち、規律と恐怖で千の兵を従えるカリスマである。
「東京から関東全域を、俺の色に染める。その第一歩が、横浜だ」
彼のもとには、潰された地方チームの残党や、アウトローに憧れる不良たちが続々と集まっていた。
それを巨大な軍団にまとめ上げたのは、阿仁屋の圧倒的な暴力と統率力だった。
彼の側には、二人の側近がいた。
一人は参謀・宮川鋭司。冷静沈着で情報戦を得意とし、「横浜は狂想会が解散した今、抵抗は薄い」と進言した男。
もう一人はボディーガード・剛島義丸。身長2メートル近く、鉄パイプを素手で折る怪力の持ち主。
深夜0時、新宿の廃ビル屋上。
1000人の軍団を前に、阿仁屋が口を開いた。
「東京はもう俺たちのもんだ。だが、ここで止まるつもりはねぇ。横浜を、港を、関東を、俺の旗の下に沈める!」
怒号のような歓声が夜空を震わせる。
「横浜に“女のガキども”が名乗りを上げてるらしいな?笑わせる。俺のアクシスが踏み潰してやる」
赤い旗が一斉に振り上げられ、出陣の合図が下された。
赤黒い津波が、首都高から横浜へと押し寄せていく。
その頃、横浜港の廃倉庫を改造した秘密の会議場では、緊張が張り詰めていた。
「……阿仁屋が本気で横浜を獲りに来る。1000の兵だ。俺たちじゃ到底太刀打ちできねぇ」
不如帰の蓮が、苦々しげに言った。
場の空気が重く沈む。
「じゃあ、何もせずやり過ごすんですか?」
雅が静かに問いかける。
「それじゃ、支配者が狂想会からアクシスに変わるだけ。古い暴走族に、またこの街を支配させるんですか?」
「正面からぶつかれば、まず持たねぇ。勝ち目がねぇ喧嘩に、仲間を突っ込ませるわけにゃいかねぇんだ」
その言葉に、場の空気が沈みかけた――そのときだった。
轟音が近づいてくる。
湾岸道路を埋め尽くすヘッドライトの群れ。
先頭で手を振るのは、かつて箱根で助けたレディースのリーダー。
「アルテミスさん!恩は忘れないよ!今度はうちらが力を貸す番だ!」
続いて、川崎の族旗を掲げた一団が現れる。
「東京に好き勝手はさせねぇ!川崎も地元だ、背中預けろ!」
横須賀の武闘派集団が荒々しく笑う。
「海風に育てられた暴走魂、見せてやらぁ!」
鎌倉、藤沢、平塚、小田原の旗を掲げたチームも続々と集結。
そして最後に現れたのは、かつてアルテミスを騙った“偽物”たち。
「……過ちは返す。今度は本物のあんたらと肩を並べさせてくれ。」
その数、二百余。
横浜連合は一夜にして六百台となり、士気は一気に燃え上がった。
だが、まだ数では劣る。
その現実を見据え、アルテミスの副総長・梓が手を上げた。
「数で劣っても、勝つ方法はあります。ここは横浜。旧街道、港湾倉庫、ベイブリッジ…地の利を使えば、必ず勝機は作れる」
雅が静かに頷く。
「梓、あなたの策に乗るわ。私たちアルテミスが先頭に立ち、この横浜を守る」
再び倉庫街に咆哮が響く。
横浜の族たちの胸に、“敗北”ではなく“迎撃”の炎が灯った。
古い倉庫に、横浜連合の旗が掲げられる。
不如帰、川崎、横須賀、湘南…各地から集まった総長たちが円陣を組み、梓の言葉を待っていた。
黒いライダースーツ姿の梓が、冷静な表情で口を開く。
「ブラッディ・アクシスは1000、こちらは600強。正面からぶつかれば、確実に潰されます」
川崎の代表が腕を組み、うなる。
「じゃあ、どうすんだよ。やられるしかねぇってのか?」
梓は首を横に振り、壁に広げられた地図を指でなぞった。
「彼らは東京から大軍で押し寄せる。つまり、長い隊列を崩さず走らざるを得ない。そこを、こちらが分断して叩く」
梓の指が、大黒PAから横浜ベイブリッジへと滑る。
「第一段階。川崎勢がベイブリッジで先頭をかく乱する。
第二段階。横須賀と湘南勢が後方を奇襲し、退路を断つ。
そして第三段階。アルテミスと不如帰が中央を貫き、本隊を三分割する」
宗子が低く唸る。
「三つに分けて各個撃破ってことか…!」
不如帰の蓮も拳を握りしめた。
「おもしれぇ。だが、分断できなきゃ終わりだぞ。」
梓は一歩前に出て、不敵に微笑む。
「そのために、私たちが囮になります。アルテミスが正面から阿仁屋の視界を奪う。奴がこちらに釘付けになれば、残りの布陣は必ず決まる」
会議場がざわめいた。
「あんたらが総大将を釣るだと…!」
「いや、あの走りを見てるなら…できるかもしれねぇ」
梓はさらに続ける。
「もう一つ、こちらには利点があります。相手は、こちらの正確な戦力を把握していない。せいぜい、横浜連合の400と見ているでしょう。」
「そこに、新たな味方の200が現れたら? 暗闇の中で、200が400でも600でも、敵は勝手に思い込む。存在しない味方は、いわば“幽霊”。そして彼らは、攻めてきた以上、必ず帰らなければならない。分断された兵は、帰路を恐れるものです」
静寂の中、雅が口を開いた。
「兵は詭道。梓の策に従います。横浜を、私たちの街を守るために」
不如帰の蓮がにやりと笑い、川崎、湘南、横須賀の総長たちも次々に頷いた。
こうして、“横浜連合”は完全に一つとなり、数の不利を覆すための作戦を固めた。
夜明け前の港に、エンジンの音が静かに響き始める。
それは、嵐の前の静けさ。
そして、横浜の誇りを懸けた戦いの始まりだった。




