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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様達 『たかがマフラー、されど魂』

 根の峠を下り、夜の風を切って走るアルテミスとルナゴスペルのバイクたち。エンジンの鼓動が静寂を裂くなか、小さな町工場の前を通りかかったそのときだった。


「お父さん、だめ! そんなことしないで!」


少女の叫び声が、夜の空気を震わせた。あまりに切実なその声に、メンバーたちは一斉にブレーキをかけた。


「今の声……」


「行こう!」


バイクを降り、声のする方へ駆け出す。古びた工場の一角、薄暗い灯りの下で、男がロープを梁にかけ、今にも飛び降りようとしていた。必死に止める少女の小さな手が、男の腕を掴んでいる。


「やめてください!」


真っ先に飛び込んだのはエマだった。少女と一緒に男の体を引き戻し、足元の台を蹴り飛ばす。男は崩れ落ち、荒い息を吐いた。


「どうして、こんなことを……」


問いかけに、男はうつむいたまま、ぽつりぽつりと語り始めた。


「俺は……この工場の社長だった。中山精機工業っていう、小さな町工場だ。三代目でな……。でも、全部失った。銀行に融資の条件を変えられて、不動産屋に騙されて……土地も建物も、全部持っていかれた。仲間も去って、家族も……生活も……もう、何もかも終わったんだ」


その言葉に、エマが静かに言った。


「終わり方を、自分で選ばないでください。あなたの工場は、誰かの生活を支えてきたんでしょう? その誇りを、捨てないで」


宗子が一歩前に出る。


「おじさん、この工場で作った部品、どこかで誰かの命を支えてるんですよ。うちの親父も、そういう技術を信じてる。小さな工場の力を、信じてるんです」


男の目に、かすかに涙がにじんだ。だが次の瞬間、再びロープに手を伸ばす。


「やめろ!」


美奈子が体ごと飛び込み、男の腕をがっちりと掴んだ。


「バカヤロウ! 死んでどうすんだよ! 家族を置いて逃げる気か!」


その怒声は、怒りと同時に温かさを含んでいた。


あかねが前に出て、真っ直ぐに男を見据える。


「死んで責任を取ったつもりにならないで。悪いのはあなたじゃない。騙した奴らよ。あなたが戦わなきゃ、この子が二度も傷つくのよ」


「でも……もう、何もかも失ったんだ……」


男が震える声で呟いたそのとき、娘が泣きながら叫んだ。


「お父さん、私は工場がなくてもいい。でも、お父さんがいなくなったら……生きていけない!」


その言葉に、男は膝をつき、声を上げて泣いた。


エマが少女を抱きしめ、宗子が油にまみれた男の手をしっかりと握る。


「大丈夫。立て直し方はいくらでもあります」


「仲間がいれば、工場は何度でもやり直せる」


翌日、アルテミスとルナゴスペルは親子を自分たちのビルに招いた。ここなら、誠吾が再び命を絶とうとすることもない。


温かい飲み物を前に、ようやく落ち着いた誠吾が語り始めた。


「うちは、中山精機工業っていう町工場でな。マフラーを作ってたんだ。軽量で、排気効率を極限まで高めた特殊合金製のやつだ。派手じゃないが、性能は世界に通用するって自負してた」


咲が目を潤ませながら言う。


「お父さんのマフラー、世界一なんです。私、あれが大好きだった」


宗子が頷く。


「一本見せてもらったけど、あれは真似できない職人技よ。そんな技術、奪わせるわけにはいかない」


梓がタブレットを操作しながら、眉をひそめる。


「……この契約、明らかにおかしい。銀行と不動産屋が最初からグルだった可能性が高い。背後にいるのは“ドラゴン・モータス”。アジアで急成長してる外資系メーカーよ」


宗子が顔をしかめる。


「あそこ、安物バイクで市場を荒らしてる企業じゃない。精密部品の技術がないから、狙ったのね……」


さらに梓が画面を切り替えると、ある政治家の名前が浮かび上がる。


「御厨議員。彩、あなたのお父さんの政敵よ」


空気が張り詰める。彩が拳を握りしめた。


「やっぱり……父と国会で何度もやり合ってた。まさか、こんなことまで……!」


エマが低く呟く。


「国を売るなんて、最低の政治家ね」


雅が立ち上がり、静かに言った。


「相手は政治家と外資。普通のやり方じゃ勝てない。でも、必ず白日の下に引きずり出してやる」


「中山さん、咲さん。安心してください。あなたたちの工場も、技術も、絶対に取り戻します」


誠吾が戸惑いながら尋ねる。


「あなたたちは……一体、何者なんですか?」


雅が微笑む。


「私たち? ただのレディースよ」


その笑みに、誠吾は言葉を失った。


だが、彼女たちの目には確かな決意が宿っていた。


誠吾は、ただ呆然と彼女たちを見つめていた。 咲がそっと父の手を握る。まだ震えているその手を、彼女はぎゅっと包み込んだ。


「お父さん、信じて。きっと、取り戻せるよ。だって、みんながこんなに動いてくれてるんだもん」


その言葉に、誠吾の目が潤む。だが、まだ信じきれない様子で、ぽつりと呟いた。


「でも……相手は政治家で、外国の大企業なんだろう? そんな相手に、どうやって……」


雅が静かに立ち上がり、仲間たちを見渡す。


「麗子さん、金融筋から調べて。あの不動産会社と銀行、そして御厨議員との金の流れ。裏取引の証拠があれば完璧ね。国際決済の記録も押さえて」


「了解。必要なら、うちの弁護士団も動かすわ。

あの地方銀行、株式買い占めて吸収してもいいけど?」


「それは最終手段。今回は銀行は残して、上層部の責任だけ取らせたいの。政治家が逃げられたら意味がないから」


雅は次にあかねへと視線を向ける。


「あかねさん、組織対策本部の立ち上げを、お爺様に内密でお願い。梓の資料を元に、内偵で動いて。GOサインは、御厨が確実に逃げられないタイミングで」


「了解。警察は水面下で動くわ。証拠が揃えば、一気に包囲できる」


「彩さん、お父様にこの件をリークして。

国会で御厨を追及してもらいましょう。NHKの中継が入る日を狙って」


彩は静かに頷いた。


「父は、こういうことを一番許さない人。

御厨が国益を売り渡していたと知れば、必ず動くわ」


「梓さん、DデーにはネットニュースとTV局、同時に一斉報道を。あなたの会社のメディア部門、使えるわよね?」


「もちろん。SNSも含めて、全チャンネルで一斉に流す準備をしておく」


「琴音さん、経済同友会の幹部として、記者会見をお願い。“政治家の私腹のために日本の技術が流出していいのか”って、怒りの声明を出して」


「了解。経済連の方にも根回ししておくわ。“国益を損なうなら、政治献金の見直しも検討する”ってね」


「エマさん、お母様にお願いして。ベルナールブランドとして、“技術を盗む国には製品を出荷できない”って声明を出してもらえないかしら?」


「任せて。母も、こういう話には黙っていられない人だから」


「宗子さんのところは?」


宗子は腕を組み、鋭い目で頷いた。


「うちは技術供与の即時停止、現地工場の撤退。

  今回の件、うちが一番怒ってますから。徹底的にやります」


雅が満足げに頷いた。


「ありがとう。そこまでしてくれたら、対アメリカ交渉も一気に進む。

 父も助かるわ」


誠吾は、ただ呆然とそのやり取りを聞いていた。 咲もまた、目を丸くしている。


「たかが……マフラーのことで、そこまで……?」


誠吾がようやく口を開いた。


雅は、少し寂しそうに微笑んだ。


「“たかが”じゃありません。これは、日本の技術です。あなたが命をかけて守ろうとしたもの。魂のこもった、誇りの結晶です」


彼女は続ける。


「あの国は、模倣して、劣化品を安く売る。技術に魂がない。

商品に誇りもない。資本主義を否定しながら、実は世界一の拝金主義国家。そして……」


その目が鋭くなる。


「それを助けて、自分の懐を肥やす我が国の政治家が、一番許せない」


静まり返る室内に、雅の言葉が深く響いた。


誠吾は、ゆっくりと顔を上げた。 その目には、もう迷いはなかった。


「……ありがとう。俺、もう一度、立ち上がってみるよ」


咲が笑顔で頷いた。


「うん。お父さんのマフラー、世界一だもん」


その夜、アルテミスとルナゴスペルの仲間たちは、再びバイクにまたがった。 夜の街を駆け抜けるその姿は、まるで正義の風のようだった。


そして、彼女たちの反撃が、静かに始まろうとしていた。

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