お嬢様 『こけたら、立て』
三日目午後。昼食を終えた彼女たちを待っていたのは、複合条件サーキット走行。人工散水で濡れた路面、視界を遮るスモークゲート、そしてランダムな障害物。マルケス師匠が言う。
「午前は持久戦。午後は対応力だ」
アルテミスはウェットに強いはずだったが、スモークゲートで次々と転倒。
「ゴン……ガシャン」
「バコン……ボン」
「こけた……」
「あ〜ん、見えない、こけた……!」
転倒した車両は、AI補助型自動修復装置「リジェーネ」がフル稼働。
もしAIに感情があれば、きっとこう叫んでいただろう。
「イイカゲンニシロヨ! テメエラ!」
ルナゴスペルもドライでは速いが、ウェットで減速しきれず同じく盛大にコケる。
「ちょ、待ちなさいよ! ガンッ……」
「止まれ〜! ズズズ……ガチャン!」
ベグナー師匠がため息をつく。
「お前らイノシシかよ。タイムばっか気にして減速くらいしろっての」
ピットのAIリジェーネが、もはや修理というより実況のように呟く。
「損傷判定中……またこけた……また……また……」
その声に、ベグナーがぼそりと呟いた。
「こいつ、学習して“呆れ”を覚えたな……」
その横で、ピットクルーの一人が小声でつぶやく。
「次の合宿までに“AIのストレス耐性”も強化しときますかね……」
夜間走行では、昼の失敗を糧に全員が安定した走りを見せる。 水しぶきに視界を奪われながらも、アルテミスは密な隊列を維持。 ルナゴスペルは速度ムラが減り、コーナー出口での加速が安定してきた。
最終ラップ、梓と美奈子が並走してゴール。 師匠たちが口を揃える。
「初日から比べれば、見違えたな」
「イノシシが、豹に変わったか」
四日目。朝6時、薄暗いピットに並ぶバイクたち。 ミラー師匠がホワイトボードにコース図を描きながら言う。
「100kmロングラン。10周ごとに先頭交代。隊列を崩したら即ペナルティ周回だ」
序盤はアルテミスがリードするも、交代のタイミングでルナゴスペルが逆転。 後方のアルテミス2人が遅れ、梓のインカムが飛ぶ。
「前との間隔詰めて! 置いていかれるわよ!」
後半、両チームは見事な隊列を維持し、ほぼ同着でゴール。
“チームで走る”という意識が、確かに根付いていた。
午後は障害物&雨区間を含む実戦形式。
雅が慎重になった隙に、美奈子が加速して前へ。
玲奈と梓はラインを潰し合いながら激しい攻防。
終盤、千秋が麗子をギリギリでかわし、ルナゴスペルが僅差で勝利。
「雨でもラインを守れるか、障害物で焦らないか……そこが明暗を分けたな」 マルケスの言葉が静かに響いた。
夕方、三島ルール模擬戦が始まる。 交代なし、全員完走、チーム内に“証”保持者が必要。 7人対7人の本番形式。
スタート直後から激しいトップ争い。
雅と美奈子が火花を散らし、梓と千秋が中団を引っ張る。
雨区間ではアルテミスが攻め、ルナゴスペルは安定走行で応戦。
最終コーナー、雅と美奈子が並んで突入し、
わずか0.3秒差で雅が先着。 合計ポイントでアルテミスが勝利を収めた。
最終日。夕焼けのサーキットに、エンジン音が響く。 アルテミス、ルナゴスペル、そして世界ランカーたちが見守る中、最後の戦いが始まる。
「6時間耐久。交代なし。全員で走り切れ」
アントニオ師匠の声が響く。
スタート直後から激しい攻防。 時間が進むにつれ、体力と集中力の勝負に。
1時間経過。アルテミスは燃費と体力温存を優先して安定走行。 ルナゴスペルは攻めの走りで前半のリードを稼ぐ。
「まだ先は長い、焦らない!」梓の声が飛ぶ。
「このまま差を広げる!」千秋が応じる。
3時間経過。ピットのモニターに映るライダーたちの姿は、どこか“魂が抜けかけている”。
「……ねぇ、今、幻覚見えた。ピットに……たぬき?」
琴音がインカムで独り言・・・
「それ、私も見た。ていうか、たぬきがピースしてた」
梓も同じく答える。
インカム越しに、師匠の声が飛ぶ。
「お前ら、酸素足りてるか!?ピット戻れ!」
「大丈夫です、たぬきも応援してくれてます」
玲奈まで会話がおかしくなってる。
ベグナー
「……全員、あとで病院な」
5時間経過。最終盤、雅と美奈子の一騎打ち。 雨区間では美奈子が前へ出るが、乾いたストレートで雅が再逆転。
「最後の30分は“心”の勝負だ。ブレーキを遅らせろ!」
ミラー師匠の言葉が、全員の背中を押す。
残り10分。両チームが一斉にペースアップ。 最終ラップ、雅と美奈子が再び並び、最終コーナーへ。
チェッカーフラッグが振られ、わずか0.5秒差で雅が先着。 ポイント集計の結果、アルテミスが僅差で勝利。
「最後まで本気で走れた。……楽しかったわよ、美奈子さん」
「総長、本番では、絶対負けないからね!」
師匠たちの総評が静かに響く。
「この走りなら、本番でも通用する」
「チームのために走れるようになった。あとは各自の武器を磨け」
「それと...........俺はタヌキじゃない!」
とマルケスが少々切れてた。
深夜のサーキットに、静かなエンジンの余韻が残る。
互いの健闘を称え合い笑いながら、合宿は静かに幕を下ろした。




