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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 『ナイト・エコランその先へ』

 ナイト・エコランが終わった夜、海沿いのテラスには、戦いを終えた選手たちの笑い声があふれていた。 アルテミスのメンバー、美奈子たちを応援していたルナゴスペルの仲間たち、そしてライバルとして走ったヴァルキリースやクロムファングのライダーたちも、今は同じ空の下で、レースの余韻に浸っていた。


テーブルには地元の海鮮グリルやフルーツを使ったノンアルコールカクテルが並び、冷えたシャンパンの泡が、ほのかに甘い香りを立ち上らせている。


梓はグラスを片手に、美奈子と笑いながら、あのS字カーブでの駆け引きを語っていた。 あかねは彩と並んで、ヴァルキリースやクロムファングのライダーたちと健闘を称え合い、さっきまで火花を散らしていたとは思えないほど、穏やかな空気が流れていた。


そのとき、三島が静かに立ち上がった。 自然と、全員の視線が彼に集まる。


「……今日のレースは、ただの競争じゃなかった」

低く、しかし芯のある声が、波音の合間に響いた。


「この島の未来に必要なのは、速さだけじゃない。安全性、技術、そして互いを尊重する心だ。だからこそ、君たちに本気を出してもらった」

そう言って、三島はポケットから小さな金属製のエンブレムを取り出した。


「この“証”はな……私の父が、木田技術開発研究所にいた頃に作った、初代電動レーシングバイクの試作機に刻んだものだ」


彼の目が、遠い記憶をたどるように空を見上げる。


「父は“天才”と呼ばれていた。だが、当時の電動バイク技術は未熟で、失敗ばかりだった。それでも諦めなかった。仲間と何度も試作を重ね、ついに島で最初の電動バイクを完成させた」


宗子が息をのむように尋ねた。

「そのお父様って……三島洋行さん?」


間違いない。 木田がまだ小さな修理工場だった頃からの盟友であり、国産初のF1マシンやマン島レースの金字塔を支えた、伝説のエンジニア。 “木田にあらずんば、F1も二輪も勝てぬ”とまで言われた、あの黄金期の影の立役者だった。


「そう。だから、あのプロトタイプが手に入ったんだ」


三島は宗子に優しい目を向け、続けた。

「父は言っていた。“この証を持つ者は、最後まで走り抜ける覚悟を持て”と。仲間たちに託された証は、今では五つしか残っていない」


彼は掌に収まるエンブレムを差し出した。 中央には木田技術開発研究所の旧ロゴ、その周囲を島の海を模した波紋が囲んでいる。


「これは、私が信じる“次世代を走る者”に託す」


まず、梓に一つを手渡す。

「僅差で勝ったお前の冷静さは、チームの鍵になる」


次に、あかねへ。

「0.05秒差。お前の執念と集中力は本物だ」


美奈子には、そっと握らせる。

「限界まで追い上げた胆力。誰にも真似できない」


宗子には、まっすぐに手渡す。

「大きくなっても“木田は研究所”だ。その気持ちがある限り、木田は続く」


そして最後に、雅へ。

「よく逃げなかったな。その我が儘を、貫き通した」


五人は顔を見合わせ、無言で頷いた。 三島は微笑みながら言った。


「これを持ってるだけで魔法がかかるわけじゃない。だが、この証は“私の推挙を受けた走り屋”の印として、高裏レース界では一目置かれる。非公式サーキットや、閉鎖された港湾道路……そういう場所にも、自然と招かれるようになる」


その意味を、彼女たちはすぐに理解した。 それはただの記念品ではない。 裏の世界への扉を開く“鍵”だった。


その瞬間、彼女たちの物語は、ただのレースの延長ではなく、もっと深く、もっと遠くへと続く旅へと変わっていた。


朝の海は、昨日の熱気が嘘のように静かだった。 人工の砂浜を離れれば、すぐに水深1000メートルを超える紺碧の海。まさに孤島の風景が広がっている。


梓は麦わら帽子を手に、波打ち際を歩いていた。 足元には小さなサンゴの欠片が転がり、彼女はそれを拾っては光にかざして眺めていた。


あかねはパラソルの下で、果実入りのソーダを片手に雑誌をめくっている。 昨日のレースでは全身にアドレナリンが走っていたはずなのに、今は肩の力が抜け、穏やかな表情で海を見つめていた。


美奈子は浮き輪を腰に引っかけたまま、子どものように海へ入っていく。 「おーい、こっち水冷たいぞー!」と笑いながら手を振る。


それを見たエマが、ついに我慢できずにドレスの裾をまくって海に入り、周囲は笑い声に包まれた。


ホテルのテラスでは、琴音と麗子がゆっくりと朝食を楽しんでいた。 カトラリーが皿に触れる音と、コーヒーの香り。 潮風がテーブルクロスをふわりと揺らし、海面が陽光を反射してきらめいている。


昼前には全員がプールサイドに集まり、冷たいジュースやスムージーを片手に、昨日のレースを振り返る。 最終コーナーの攻防、0.05秒差のゴール……何度も笑い交じりに語られた。


雅がふとポケットから「三島の証」を取り出すと、皆の視線が集まった。 金色の縁取りが朝の光を受けて輝き、まるで小さな宝石のようだった。


その瞬間、昨日の熱と、これからへの期待が、胸の奥で再び灯った。


午後には荷造りが始まり、誰もが名残惜しそうに海を振り返っていた。


「走りを忘れてエンジョイするつもりだったのに、結局アタイたち、バイク馬鹿だなぁ」

美奈子のつぶやきに、みんなが笑って頷いた。


夕暮れの桟橋には、白く輝く豪華クルーザーが静かに揺れていた。 中でも、三条家の“アルテミス”は、ひときわ目を引く存在だった。白銀の船体は夕陽を受けて淡く輝き、まるで海の女神が眠る神殿のように、静かに波間に浮かんでいた。


甲板に上がると、白いソファとガラスのテーブルが並び、すでにシャンパングラスが整然と並べられていた。 潮風がカーテンを揺らし、遠くからカモメの声が聞こえる。


梓は靴を脱ぎ、デッキチェアに身を預けると、深く息を吸い込んだ。 潮の香りと、エンジンの低い振動が胸に心地よく響く。


千秋は真っ先に操舵室へ向かい、船長と並んで海図を覗き込んでいた。


「夜の海は星がよく見えますから、4階の展望室で天体観測なんていかがです?」

船長の言葉に、千秋は嬉しそうに頷いた。


ラウンジでは、美奈子がノンアルコールカクテルを受け取り、グラスをくるりと回して香りを楽しむ。


「これ、レースの後の一杯には最高ね」

そう言って、梓の隣に腰を下ろす。


クルーザーが静かに港を離れると、海面を切り裂く水音とともに、島の灯りがゆっくりと遠ざかっていく。 やがて日が沈み、空には無数の星が瞬き始めた。


「こんなに星があるなんて、知らなかったなぁ」

千鶴がフライドチキンを頬張りながら、空を見上げてつぶやく。


「千鶴は夜景より食い気でしょ」

麗子が笑いながらからかうと、みんなの笑い声が甲板に広がった。


その光景は、数日前に横浜を出港したときとよく似ていた。 けれど、ひとつだけ違っていた。 帰りの船には、新たな“仲間”が一人、加わっていたのだ。


甲板の一角では、三島が持参した木箱を開け、上質なチーズとシーフードを並べていた。 「今夜はのんびり航海を楽しもう」 そう言って微笑む彼の表情は穏やかだったが、その奥には、次なる試練の予感が静かに潜んでいた。


ルーザーが外洋へと滑り出すと、海面は夜の闇に溶け込み、空と海の境界が曖昧になっていった。 ゲスト用ラウンジには、まばゆいシャンデリアの光が降り注ぎ、アルテミスのメンバーと三島が静かに集っていた。


グラスの中で氷が溶け、小さな音を立てる。 窓の外に広がる星空を見上げながら、三島がぽつりと呟いた。 「さすが三条家のヨットだな。外洋に出ても横揺れひとつない。まるで氷の上を滑ってるみたいだ」


「そんな感想より、私たちをここに集めた理由を教えていただきたいですわ」 雅が腕を組み、じっと三島を見つめる。


帰り支度をしていた雅に、三島が声をかけたのは数時間前のことだった。 「行き先は同じだろ?俺も乗せてくれ」 そんな軽口に、普段なら即座に断るところだったが、「大事な話がある」と言われては、無碍にもできなかった。


「今回のナイト・エコランは、君たちの実力を測るには最高の舞台だった」 三島の言葉に、梓が目を細める。 「“測る”ってことは……次があるってことですね?」


三島は笑わず、グラスを傾け、琥珀色の液体を見つめた。

 

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