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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 『パーティーの黒い影』

 目が合った瞬間、雅の瞳がわずかに細まった。


「……三島、卓司」


 声には出さず、心の中でその名を呼ぶ。


 三島卓司。 かつては国際耐久レース界で名を馳せた、天才ドライバー。 だが五年前、ル・マンでの大クラッシュを最後に、彼は表舞台から姿を消した。


 その後、彼の名は別の形で囁かれるようになる。 闇ギャンブル、八百長レース、不正パーツの流通…… そして三年前、三条家が支援していた若手レーサーが、八百長疑惑の渦中で命を落とした。 その背後にいたと噂されたのが、他ならぬ三島だった。


 証拠はない。 けれど、あの夜、事故直前に不気味に笑っていた三島の顔を、雅は今も忘れていない。

 なのに、なぜ彼がこの島に?


 このパーティーは完全招待制。 招いた覚えなど、ない。

 ウィスキーグラスを傾けながら、三島は雅に視線を送り、薄く笑った。 その目は、まるで獲物を見つけた捕食者のようだった。


 雅は表情を崩さず、シャンパンを口に含む。 そして、手元の通信端末をそっとタップし、梓に暗号指令を送った。


「三島の動向を監視して。できれば、目的も探って」


 表面上はにこやかに振る舞いながら、雅の胸中には、冷たい緊張が広がっていた。


 パーティー会場の一角。 ある男の姿を見た瞬間、美奈子の表情が凍りついた。


「……なんで、あんたがここにいるのよ」


 声をかけるよりも早く、彼女の脳裏に、あのエンジン音が蘇る。


 数年前。 美奈子が“走り屋”として名を上げる前、地元の港湾で開かれていた非公式レース。 そこに現れたのが、三島だった。


 表向きはレーシングチームのマネージャー。 だが裏では、闇レースのスポンサーや賭博の元締めとして知られていた。


 彼は早くから美奈子の才能を見抜き、何度も誘ってきた。

  「お前なら、賞金レースで食っていける」

  そう囁く声は、甘く、そして危険だった。


 彼の背後には、“狂想会の鬼影”敬治の影もあった。 一度足を踏み入れれば、もう戻れない世界。


 美奈子は、きっぱりとその道を拒んだ。


 三島はグラスを置き、ゆっくりと近づいてくる。


「久しぶりだな、美奈子。相変わらず、速そうな目をしてるじゃないか」


「……関係ないでしょ。あたしは、もうあんたの世界には行かないって言ったはずよ」


 三島の口元が、ゆっくりと歪む。


「そうか? でも、お前……もう逃げられないかもしれないぞ」


 その視線には、挑発と計算が宿っていた。 そして、口元だけでこう告げる。


「次は、君たち全員の番だ」


 その瞬間、雅も美奈子も悟った。 この男は、アルテミス全体を標的にしている。 レース界の裏と表を絡めた“試練”を仕掛けてくるつもりだ。 それは単なる勝負ではない。 アルテミスの絆と誇りそのものを試すものになる。


 三島はグラスを揺らし、氷の音を響かせながら背を向けた。 出口で一瞬だけ立ち止まり、振り返ることなく、低く笑う声だけを残して闇の中へと消えていった。


「あなたも、彼に因縁があるのかしら?」


 雅が美奈子に歩み寄り、静かに尋ねる。


「ええ。昔、彼がプロデュースしてた選手を、非公式レースで私がぶち抜いたの。それ以来、何度も裏レースに誘われたけど……飼い犬になる気はなかったから、全部断ったわ」


「そう……彼は裏の住人よ。三条家も、彼が仕掛けた裏レースを潰したことがあるの。うちの契約選手が巻き込まれそうになってね。あの時は、なんとか止められたけど……」


「どっちにしろ、何か仕掛けてくるわね。私か、あなたか……あるいは、両方か」


 雅はそう言うと、いつもの柔らかな笑みを浮かべ、再び招待客のもとへと歩き出した。


 その夜。 三島は、何かを思いついたように笑っていた。


 翌朝、島の港に奇妙な噂が広がった。


「ナイト・エコラン」開催。


 三島が主催する、夜間の電動バイク周回レース。 コースは島の外周道路。 潮風で滑りやすい長いカーブ、急なS字、暗闇と海霧に包まれた視界。 照明は最小限。 バッテリー残量と速度のバランスが勝敗を分ける、過酷な条件。


 掲示板に貼られた告知文には、こう記されていた。


「完走した者には、三島から“認められた証”が与えられる」


「……あいつ、本気でうちらを試すつもりだ」

  会議室に美奈子の声が響く。


 雅は黙って考えていた。 無視するのは簡単だ。 だが、これは明らかに挑戦状だ。


 アルテミスが逃げる? そんな選択肢は、ない。


「やりましょう。アルテミスは逃げない」


 雅がそう言って、美奈子を見つめる。


「うちは友好団体だけど、もうとっくにあんたらの仲間だよ」

  美奈子は腕を組み、真っ直ぐに雅を見返した。

「仲間を見捨てるやつは、レディースじゃない。あたいも、参加する」


 その言葉に、雅はふっと目を細めて微笑んだ。

「ありがとう。心強いわ」


 そのとき、会議室のドアが静かに開いた。 三島が、まるで最初からそこにいたかのような顔で現れた。


「話はまとまったようだな」

  ポケットから一枚の紙を取り出し、テーブルに置く。


「これが、ナイト・エコランの実戦コースだ。参加者は君たちアルテミスと、美奈子のチーム。つまり、俺が選んだ二つの“可能性”の戦いだ」


 雅は無言で紙を広げた。 手描きの地図。だが、驚くほど精密だった。 カーブの傾斜、路面の状態、街灯の切れる区間、風向きの注釈まで書き込まれている。


「手描き……ずいぶんと古風ね。でも、やけに細かいわね」

  雅の声は静かだったが、目は鋭く地図を読み取っていた。


「見ればわかる。ここが“罠”だ」

  三島の指が、赤丸の印を軽く叩く。


「このマップを持って挑め。俺に認められた証を掴めるかどうか……それは、お前たち次第だ」


「それと、あと2チーム出るからな」

  三島はそう言い残し、再び背を向けた。


「……これ、まるでF1のモナコグランプリを二輪用に模したようなコースですね」 梓がため息まじりに呟く。


「でも、違うのは……」 美奈子が地図を睨みながら言った。 「これは、ただのレースじゃない。あいつは、私たちの“覚悟”を試してる」


 雅と美奈子の視線が交差する。 言葉はなくても、互いの決意は伝わっていた。


 試練の幕は、すでに上がっていた。 そして、アルテミスは、逃げない。

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