お嬢様 『ウェルカムパーティー』
日が傾き始めるころ、島中を走っていた電動カートやバイクが、次々と港近くのリゾートホテルへと戻ってきた。
海辺のガーデンは、夕陽の黄金色に包まれている。 西の水平線に沈みかけた太陽が、海面を赤く染め、 寄せては返す波の音が、まるでジャズのセッションのように心地よく響いていた。
芝生には真珠色の大型テントが並び、 シャンパンの泡が立ちのぼるグラスや、色とりどりのビュッフェ料理がテーブルを彩っている。
少しずつ灯される明かりが、南国らしい幻想的な雰囲気を広げていく。 ウェルカムパーティーの幕が、静かに上がった。
最初に現れたのは、雅。 白いドレスに深紅のルビーチョーカーを合わせ、ゆるく巻いた髪をまとめたその姿は、まるでこの島の女王のようだった。 ゲストたちは思わず息を呑み、彼女に視線を送る。
続いて、彩と千秋が連れ立って登場。 彩はシルバーグレーのロングドレスで涼しげな笑みを浮かべ、 千秋は黒地に金の刺繍が施されたドレスで、妖艶な雰囲気をまとっていた。
「似合わないって言ったのにさぁ……」 千秋は照れ笑いを浮かべる。
麗子と沙耶香は、まさに深窓の令嬢のような佇まい。 麗子はロイヤルブルーのサテン、沙耶香は淡い水色のシフォンのドレス。
「こんなの着るなんて聞いてなかったよ……」
沙耶香は小言をこぼしながらも、どこか嬉しそうだった。
宗子と玲奈は、黒を基調にしながらも、それぞれの個性を際立たせていた。 宗子はバイカースタイルをアレンジしたタイトなドレス、 玲奈はスリット入りのマーメイドドレスで登場。
「私がそっち着たかったのに〜」
玲奈が口を尖らせるも、宗子は涼しい顔で流す。
琴音と千鶴は、花柄でリンク。 琴音は大輪の牡丹が咲き誇るモダンなドレス、 千鶴は淡い桜の刺繍が繊細な印象を与える一着。
「トホホ、こんなの着せられたら大食いできないじゃないか〜」
千鶴は半泣き状態だった。
少し遅れて、エマと涼子、梓と美奈子が姿を見せる。
エマは真紅のドレスに薔薇の髪飾りを添え、 涼子はエマの手によるメイクで、まるで別人のように変身していた。 クラシカルなタイトスーツ姿に、周囲から「モデルか?」とざわめきが起きる。
「女は化けれるんだよ」
涼子は開き直って笑った。
梓と美奈子は、黒と赤のカラーリンクで登場。 スポーティーさとフォーマルさを絶妙に融合させた装いに、視線が集まる。
「ん……50ccに見えないって? ボアアップしてんだよ、文句あるか?」
美奈子がニヤリと笑う。
全員が揃った瞬間、会場から拍手が起きた。 司会者がマイクを通して、
「ようこそ、三条家の皆さま。このバードパラダイスへ」
と歓迎の言葉を贈る。
シャンパンの栓がポンと開き、夜のパーティーが本格的に始まった。
夕闇があたりを包み、ガーデンテラスはライトアップされる。 イルミネーションの下、招待客たちは色とりどりのドレスやスーツに身を包み、まるで国際親善パーティーのような華やかさを放っていた。
雅は三条家の代表として、まるで高校生とは思えないほどの落ち着きでゲストの挨拶を受けながら、会場全体に目を配っていた。 主催者が一番楽しめないのは、こういう時なのだ。
アルテミスのメンバーたちは、慣れた様子でルナゴスペルの面々をサポートし、自然と会話の輪へと導いていく。
ルナゴスペルのメンバーは少しぎこちないながらも、持ち前の明るさと図太さで、逆に好印象を与えていた。
笑い声とグラスの音が重なり、パーティーは夜が深まるにつれてますます輝きを増していく。
照明が少し落とされ、バンドの演奏がジャズのスローテンポに変わると、会場の空気は一層穏やかになった。
「踊りたかったなぁ」
ひなたがぽつりとつぶやく。
「TPOをわきまえなさいな。しかもこの曲、チークダンスよ? 殿方を誘えるの?」 あかねがからかうように言う。
「む、無理……チークって、あの……男の人に抱きついて踊るやつでしょ……」 ひなたは顔を赤らめて答えた。
その時、宗子の足元を小さな影がすばやく横切った。 反射的に振り返ると、そこには島のマスコット、小型AIロボット“シマンチュー”がいた。 なぜか宗子のドレスの裾に興味津々で、しがみついて離れない。
「こら、“シマンチュー”、お行儀悪いですよ」
宗子が軽くたしなめると、周囲からくすくすと笑い声が上がり、スタッフが慌てて駆け寄ってくる。
その様子を、梓と美奈子はカクテル片手に面白そうに眺めていた。
「……あれ、宗子さん、完全に気に入られてるね」
美奈子が笑うと、梓はグラスを傾けながら静かに頷いた。
「AIって、意外と好みがあるのかもね。ドレスの素材とか、動き方とか」
「それ、ちょっと怖いんだけど」
美奈子が眉をひそめる。
一方、彩は「かわいい〜!」と夢中で写真を撮っていた。 あかねとひなたはすっかり“シマンチュー”の味方になっていて、 「遊んでほしいんだよ、きっと」 とフォローする。
雅は笑顔を崩さず、経営者らしい目でスタッフの対応を観察していた。
(AIの行動パターン、少し見直したほうがいいかも。梓に相談しよう)
と、頭の中で次の改善案を組み立てる。
スタッフが“シマンチュー”をリセットして宗子から引き離し、丁寧に謝罪する。 宗子は「可愛かったから大丈夫ですわ」と優しく応じた。
そのとき、雅の視線が会場の隅に立つ一人の男をとらえた。 スーツ姿だが、顔に見覚えはなく、招待客リストにも記憶がない。
男は会場の雰囲気に溶け込まず、陰でスマートフォンのような端末をいじっている。
彩と千秋はカウンターで談笑していたが、ふと千秋がその男に気づいた。
「ねぇ、あのスーツの人、知ってる?」 と小声で尋ねる。
彩は無言で男を見つめる。 その目は、どこか警戒を含んでいた。
その瞬間、会場の照明がふっと落ちた。 ざわめきが広がる。
すぐにバックアップが作動し、明かりは瞬時に戻る。 だが、空気は一変していた。
「何か、起こるかもしれないわね」
雅はそうつぶやき、何事もなかったかのように会場の輪へと戻っていった。
そして、夜は静かに、しかし確実に深まっていく。 楽園の光の中に、ひとつの影が、確かに息を潜めていた。




