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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 『バードパラダイス - Day 1』

 スイートルームのドレッサー前。 エマは自前のメイクボックスを開き、黙々とブラシを走らせていた。


「涼子、あなたって骨格は美しいのに、いつも素顔に頼りすぎ。今日は“完璧な貴婦人”を作るわよ」


 真剣な声色に、涼子は腕を組んだまま鼻で笑った。


「へぇ……AIも私を別人扱いするくらいに変えてみなさいよ」


 1時間後。 鏡の中にいたのは、まるで映画のワンシーンから抜け出したような女性。 切れ長の瞳は深い陰影に輝き、唇はワインレッドに艶めいていた。 その横顔は、まるで王侯貴族の肖像画のようだった。


「……これ、本当に私?」


「Oui。今のあなた、AIにスキャンされたら“未登録のVIP”扱いされるわね」


 エマは満足げに微笑んだ。


 そして、それは冗談では終わらなかった。

  ベッドではエマがブランケットにくるまり、すやすやと寝息を立てていた。 昨日の移動疲れと時差ボケが効いたのか、まったく起きる気配がない。


 涼子は窓辺のソファで雑誌を閉じ、軽く伸びをした。


「……ちょっと、ラウンジでコーヒーでも飲んでくるか」


 軽くジャケットを羽織り、部屋のドアへ向かう。 このホテルではルームキーは不要。 ドア横の3台のカメラが、顔・歩き方・体格を複合的に判断してロックを解除する仕組みだ。


 廊下に出て、第一セキュリティゲートに差しかかる。


 《警告、登録外ゲスト》


 赤いランプが点滅し、通路がシャッターで閉じられた。


「はぁ? 私、涼子よ。登録されてるでしょ!」


 AIは無感情に身分証の提示を求めてくる。 仕方なくIDカードをかざし、ようやく通過。


 10分後。 アイスコーヒー片手に戻ってきた涼子の前で、ドア横のパネルが無機質な声で告げた。


 《認証エラー該当人物は登録されていません》


「……は?」


 カメラの前に立ち直し、再スキャン。 3台のカメラがカシャリと音を立て、顔の角度を変えながら涼子をなめるようにスキャンする。


 《該当データなし。アクセス拒否》


「……私、この部屋の宿泊者なんだけど?」


 廊下の奥から巡回ドローンが近づき、光学センサーが涼子を走査する。


 《警告:未登録ゲスト。理由を説明してください》


 数分のやり取りの末、ようやくAIが再照会を行い、ドアが解錠された。


 涼子はため息をつきながら、ぽつりと呟いた。

「……女が化けられる意味、初めて知ったよ」



 梓と美奈子は、ホテルの受付で電動バイクをレンタルし、島内探索へ出かけていた。 環境保護のため、島内の移動はすべて電動。 バイクのモーター音は、石畳と海風に溶けるように静かだった。


「潮風、気持ちいいな。レースの時とは別世界だ」 美奈子がサングラス越しに海を眺める。


「今日は転ばないでよ」

  梓が笑う。


 軽口を交わしながら、二人は港沿いのカフェを目指す。


「日差しが強くて、湿度も高いですね」


「亜熱帯ですから。早くエアコンの効いたカフェに入りましょう」


 白壁に青い扉のカフェの前で停車すると、焙煎したてのコーヒーと焼きたてのシナモンロールの香りが漂ってきた。


 店内には、ゆったりとしたボサノヴァが流れている。


「本日のおすすめは、パッションフルーツラテです」

  配膳ロボットが滑らかな声で案内する。


「かあ〜、ここでもロボットかよ。じゃあ、それとシナモンロールで」

  美奈子が笑う。


「私はアイスカフェラテで」

  梓が続ける。


 しばらくして、香り高いラテと甘いロールが運ばれてくる。店内に流れるボサノヴァの音に包まれながら、二人は静かな時間を楽しんでいた。

 その空気を破るように、低い声が響いた。


「やあ、こんなところで美人二人とは。運命ってやつかな?」


 派手な柄シャツにサングラスの男が、テラス席に近づいてくる。 その後ろには、同じような雰囲気の男がもう一人。


「もしよかったら、このあと海沿いを案内するけど? ジェットボートもあるし、映えるスポット知ってるんだよね」


 美奈子はストローから口を離し、冷ややかに言った。


「……あいにく、私たち、もう予定があるの。ね、梓ちゃん?」


「そう邪険にするなって。俺ら、勝ち組だし。“ビッグデータ社”って知ってる? 俺ら、そこのSEなんだよね」


 その言葉に、梓は小さく笑った。 その笑みは、どこか冷たく、そして余裕に満ちていた。


「……ええ、もちろん知ってます。私の家が、そこを創業したので」


 男たちの顔が一瞬で固まる。


「それに、ここはセキュリティ強化エリア。しつこいナンパ行為は、AI監視に引っかかるわよ」


 その瞬間、店の天井カメラがカチリと動き、青いライトが点灯する。 まるで、梓の言葉を裏付けるように。


「……おっと、じゃ、じゃあまた……」


 男たちは顔を引きつらせながら、そそくさと立ち去った。


「はぁ〜、バカな人たち。あとでデータアクセスして、あいつら便所掃除から始めさせるわ」

  梓がストローをくるくる回しながら、冗談めかして言った。


「ちょっと、怖いこと言わないでよ」 美奈子が苦笑いする。


「冗談よ。でも、ああいうのって、どこにでも湧いてくるのね。未来でも、人間って変わらないのね」


「変わらないからこそ、AIが必要になるんでしょうね」


 二人の間に、潮風が吹き抜ける。 その静けさが、さっきまでの騒がしさを洗い流していくようだった。



 一方、彩と千秋は、AI自動運転の電動カートに並んで乗り、島の北側にあるアートミュージアムへ向かっていた。


「わぁ……見て、あの建物、浮いてるみたい」

 千秋が目を輝かせる。


「ホログラムの反射を使って、地面との境界をぼかしてるんですって」

  彩が説明パネルを読みながら答える。


 館内では、最新のホログラム展示が次々と展開され、千秋はまるで子どものように目を輝かせていた。 一方の彩は、展示の背景や技術解説をじっくり読み込み、千秋に丁寧に解説していた。


 帰り際、ミュージアムショップで彩が足を止める。

「ちょっと、買い物してもいいですか?」


「彼氏へのお土産?」

  千秋がニヤリと笑う。


「違いますよ」

  彩は少しだけ頬を赤らめながら、男性向けの小物を見つめていた。


「じゃあ、あたしが見立ててあげる。これなんかどう?」

  千秋が手に取ったのは、小ぶりな水晶のペーパーウェイト。


(あ、つい……船長さんを思い出しながら選んじゃった……)


「千秋さん、渋いの選びますね。誰のこと考えて選んだのかな?」


「う、うるさいな……」

  千秋は指をもじもじと絡めながら、視線を逸らした。


「店員さん、これ2つください。別々にラッピングで」


「えっ、2つ?」


「千秋さん、いい? ちゃんとお別れするにも、お礼はしなくちゃね」


 数日後。 内閣官房長官のデスクと、クルーザー“アルテミス”の船長の操舵席には、同じ水晶のペーパーウェイトが静かに置かれることになる。



 麗子と沙耶香は、島の南部にあるマリーナを訪れていた。


 停泊中の最新型水素燃料ヨットを前に、麗子は目を輝かせていた。

「この船、推進システムが二重構造になってるのね。波力回収まで考えてるなんて……さすが最新式ね」


「へぇ〜、なんか映画の中みたい」

  沙耶香はデッキに立ち、潮風を浴びながら目を細めた。


「こういう世界、前はテレビの中だけだと思ってたよ。……なんか、変わったな、あたし」


「変わるのは、悪いことじゃないわ」

  麗子がそっと言った。


「でも、変わった自分が、自分じゃないみたいでさ。ちょっと怖い」


「それでも、あなたはあなたよ。どんなに服を変えても、場所が変わっても、芯は変わらない」


「……あんた、たまにズルいくらいカッコいいこと言うよね」


「ふふ、よく言われるわ」



 宗子と玲奈は、島の電動バイクステーションにいた。 宗子は最新モデルのスペックをチェックしながら、スタッフと専門用語で会話を交わしている。


「このトルク制御、従来の市販モデルと比べてどれくらい反応速度が違うんですか?」


「えーと……えーと……」

 スタッフがタジタジになっている横で、玲奈はぽかんとその様子を見ていた。


「……何言ってるか、半分もわかんないけど、宗子ってやっぱすごいね」


「ふふ、乗ればわかりますよ。さ、行きましょう」


 二人はバイクにまたがり、海沿いのシーサイドロードを走り出す。 潮風を切って走る感覚に、玲奈は思わず笑顔になった。


 途中の展望台でバイクを止め、海を見渡す。


「ほんと、風車以外、何もないんだね」

  玲奈がぽつりと呟く。


「周囲1000キロ、島ひとつないんです。だからこそ、この海原は特別なんですよ。日常から切り離された、もう一つの世界」


「……非日常って、こういうことを言うんだね」


 二人はしばらく、風に吹かれながら、ただ海を眺めていた。



 琴音と千鶴は、島の建築巡りツアーに参加していた。 世界的ゼネコンの社長令嬢である琴音は、建物の構造やデザインに目を輝かせていた。


「このホテル棟、免震構造だけじゃなくて、海風を利用した自然換気も取り入れてるの。すごいわ」


「へぇ〜……」

  千鶴はメモ帳を片手に、相槌を打ちながら聞いていた。


 歴史資料館では、島の開発計画図に見入る琴音を見て、千鶴が感心したように言う。


「ほんと、将来、島のひとつくらい造っちゃいそうだね」


「そのときは、あなたの別荘を建ててあげますわ」


 二人は顔を見合わせて、くすくすと笑った。


 夢のような島で、少女たちはそれぞれの時間を過ごしていた。 それぞれの場所で、それぞれの想いを胸に抱きながら。

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