お嬢様 『バードパラダイス』
「あ、島が見えてきた」
千秋が操舵席から海を指さした。船内マイクから、ちょっと緊張した声。「前方に島影、確認!」
それを聞いたみんなは、ぞろぞろデッキへ。まだ眠い目をこすりながら、水平線の向こうにうっすら見える島を見た。
紺碧の海に浮かぶ島は、日本の最東端、南鳥島。前は防衛省と国交省が管理してたけど、三条財閥がレアアース開発を条件に借りて、今は最新リゾートに変身してた。
船が近づくと、島の様子がだんだん見えてきた。白い砂浜、ヤシの木、真ん中にドーンと建つ巨大ホテル。まるで海に浮かぶ城みたいだけど、なんかウソっぽい。
「え、マジで島? 未来都市じゃん?」
エマが目を丸くした。
「全部、人工島だって。元・南鳥島の跡地らしいよ。三条財閥、金と頭の使い方がハンパない」
涼子が肩をすくめた。
「資本主義の塊だね。私が言うのもアレだけど」
麗子が苦笑い。
「うちも、ちょっとお金使いすぎちゃったけど……深海のレアアース採掘権込みなら、長い目で見ればプラスになるはずです」
「でも、電気とか水って、どうしてんの?」
彩が不思議そうに首をかしげた。
「あ、ほら、海に浮かんでる風車が見えるでしょ?」
「洋上風力発電……?」
「そう。それに波力とか温度差発電も使って、全部まかなってるんです」
岸壁には、モナコみたいな豪華クルーザーがズラリ。横には飛行艇が静かに着水してた。
「私たち、こんなとこ入っていいのかな……」
千秋が心配そうにつぶやいた。
「むしろ、うちのヨットが一番目立ってる気がする。ほら、あそこ」
千鶴が笑った。
「私たち、お姫様なの? ……ねえ、これ夢じゃないよね?」
涼子がポツリ。
桟橋では、スタッフが手を振って迎えてくれた。
船はドッグの前で真円を描き、ゆっくりと接岸。
両舷と後ろには大きなエアークッション、後部から伸びる折りたたみ式の橋が桟橋へとつながった。
船内放送。
「ようこそ、TRIリゾートへ! 今日から4泊5日、楽しんでくださいね」
「……このレベル、ゼネコンでも見たことない。マジ、何なの?」
琴音がポカンとしてた。
「建設だけじゃない。防災とか、エネルギー、水処理、ゴミ処理……全部独立してる。完全にゴミゼロなんだね」
宗子が冷静に分析。
「完璧すぎて……逆にちょっと怖いかも」
彩がボソッと。
「治安もバッチリ。ドローンが飛んでるし、自衛システムもあるよ」
梓が目を細めた。
「ここでバイクレースとか、できないかな……」
沙耶香が呟く。
「総長も言ってたじゃん。走りは忘れて、普通の女子でいようって」
涼子が笑った。
「私、今、人生で一番テンション上がってるかも……!」
橋のところで待ってたのは、先に下船して白いサマードレスを着た雅。
「皆さん、ようこそ! ここは三条家が作った“理想の楽園”TRI島、“バードパラダイス”よ」と、優雅に微笑んだ。
スタッフが丁寧に案内。「それでは、受付へどうぞ」
受付には、ホテルのコンシェルジュみたいなAIロボットが7体。上半身は人間そっくり、下半身は三輪車みたいなデザイン。ちょっと笑えるけど、なんかスゴイ。
ロボットの”スリーテック”が
「お客様のデータ、確認しました。7部屋のスイートに、2名ずつご案内します」と、自然な感じで話しだした。
各ロボットがお腹のモニターに部屋の情報を表示して、ペアごとにセグウェイみたいなバギーで移動開始。
「これ……本当にロボット? 声も顔も自然すぎ」
エマがビックリしてた。
「下手な人間より感じいい……負けたかも」
あかねが苦笑い。
「でも下半身、なんかミノタウロスみたいですね」
移動中、窓の外には緑の草原や川が広がってた。
「なんでこんな広い庭があるの?」
「こちらはホログラムでございます」とロボットが丁寧に答えた。
「……完璧すぎる空間って、ちょっと気味が悪いね。
気が張りすぎると言うか、人間の曖昧さがないと言うか」
千鶴がベッドに倒れこみながら叫んだ。
「マジやばい、帰りたくない!」
「え、今着いたばっかでしょ。でも気持ちはわかる」
沙耶香が笑った。
ドアが開くと、そこには広いスイートルーム。オーシャンビューのリビング、ジャグジー付きバスルーム、キングサイズのベッドが2つ。それに、24時間対応のAIバトラー付き。
「鍵はないの?」涼子が聞くと、
「外の3か所に設置されたモニターで全身と顔をスキャンして、AIがロックを解除します。ご安心ください」
とロボットが答える。
部屋の隅には、古い木製のチェスト。その上には、手書きの地図と、陶器の茶器が置いてあった。
「……未来なのに、これら見ると落ち着くようなぬくもりを感じるの」
千鶴がそっと茶器を撫でた。
「てか、こんな世界があったなんて……私の人生……なんだったのか」
玲奈がつぶやいた。
「それでは、ごゆっくりどうぞ。
夜7時から、メインガーデンでウェルカムパーティーがあります」
ドアが静かに閉まり、部屋は静かになった。
そして、みんなでベッドに飛び込んだ。
「ふわぁぁぁぁぁ……!」
「沈む〜〜〜!」
「これが……お金持ちの眠り……」
声にならない歓声が、柔らかい羽毛に吸い込まれていった。ベッドは、まるで海に浮かぶ城みたいに体を包み込むようだ。
「……これ、起きられなくなるやつだ」
涼子が天井を見ながら言った。
「起きなくていいじゃん。ここに住もうよ」
千鶴が笑った。
「でもさ……」と、琴音がポツリ。「なんか、夢みたいに完璧すぎて、ちょっと怖くない?」
部屋の空気がピタッと止まった。
「わかる。全部が整いすぎてて……現実じゃないみたい。
でも未来ってこんなものじゃないかって思えるの」
「だからこそ、今は忘れようよ。現実のことも、過去のことも」
エマがそっと目を閉じた。
窓の外では、ホログラムの空がゆっくりと朝焼けに染まってた。
「……ねえ、あの空、本物かな」
ひなたが呟く。
「本物かどうか、どうでもいいじゃん。今、気持ちいいんだから」
あかねが笑った。
「そっか」
ひなたが笑って、クッションに顔をうずめた。
しばらくの間、誰も喋らなかった。
波の音みたいなBGMと、鳥の鳴き声みたいなSEが聞こえてた。
「……ねえこの島、どこまでが現実なんだろうね」宗子が口を開いた。
「それを確かめるのが、今回の旅なんじゃない? 会長も、まだ手探りなのよ」
梓は窓の外を見ながら、静かに続けた。
「そもそも、自然光と人工光に、明確な違いなんてある? 人工光を否定するなら、人は……暗闇を照らすことさえできなくなる」
「ふふ、哲学的ね」
麗子が笑いながら、ワインを飲んだ。
「じゃあ、まずはウェルカムパーティーで現実を味わいましょ」
エマが立ち上がって、くるりと一回転。
「ドレス、着替えなきゃ〜!」ひなたが飛び跳ねた。
「……私、踊れるかな」
千秋がそっとつぶやいた。
「大丈夫。笑えばいいのよ」彩が手を取った。
そして、女の子たちはそれぞれの部屋で、少しずつ“現実”を受け入れる準備を始めた。完璧すぎる楽園の中で、ちょっと不安だけど、期待を胸に。
バカンスは、始まったばかりだった。




