お嬢様学食の個室でレディースの正体を理解して結成を決意する。
次のページに移る。その写真を見た瞬間、雅は思わず「アァ!」と声を上げた。みんなの視線が雅に集まる。
「これですわ........この子たちが壁に書いてる絵や文字。これに似た感じで今朝我が家の壁に書かれていましてよ。エマさん彼女達はファッションモデルではないと思います。」
「会長、では彼女たちは.....................」とエマが言い掛けた時に・・・・
「わかりましたわ。彼女達は女性の暴走族という存在ですわ。詳しくは今皆さまのタブレット内のブレンドに転送しましたので見てください。」梓が答えた。
このブレンド【クラウド型校務支援システム】は、もちろん梓の会社が開発したスペシャルシステムで、何重ものファイアウォールとアンチウイルス対策で守られて、世界一厳しいネットワークと言われている。
皆慌ててカバンより、タブレットを取り出した。そして梓より送られたファイルを開く。
そこには、彼女たちの動画が入っていた。
「ちょっと私達とは、性格が対極にある集団ですわね。」いちばんに口を開いたのは、風紀委員の琴音だった。
「確かに、音はうるさいですね。マフラー壊れてるのかな?」専門的な観点から宗子が言った。宗子の家は、バイクからビジネスジェットまで生産し、自動車レースや2輪レースでは、世界最高峰のF-1レースやバイクのモトグランプリで数々の優勝を飾ってる世界の木田技術研究開発所を経営してる。
「ねぇ、梓さん。この女性が『喧嘩上等』って言ってる言葉の意味分かりますか?」彩が尋ねた。
「それは、いつでも喧嘩をかけてきなさい。負けないから。という意味らしいですわ」
すると、その言葉に真っ先に反応したのが、弓道部部長のあかねである。
「ほう........それは興味ありますね。成敗にいくかな」
「ちょっと、あかねちゃんが言うとシャレにならないから」と梓は慌てて止めた。
あかねは、柔道2段、空手3段、剣道2段。合気道3段、弓道2段、逮捕術準師範の武芸全般の達人である。
逮捕術......本人は家は普通の公務員ですからと謙遜してるが、実は祖父は警察庁長官で、父親も母親もキャリア組でそれぞれ県警本部長と警察庁方面本部長の要職にある。
とはいえ、それだけでは聖凰華女学院のS組には入れない。実は、あかねの母方の祖父は、旧華族家当主で、伊豆半島から箱根、鎌倉にかけての大地主であるので莫大な富も所有してるのである。
時間は午後12時半を過ぎた頃、まだ1時間位昼休みは残っている。
「みなさん、とりあえず一服しましょう。」雅は、個室備え付けのインターホンで給仕の井上に、お茶とお茶請けを頼む。
しばらく後、給仕は玉露の緑茶と生八つ橋を各自の前にサーブする。上質のお茶の香りが個室内に漂う。
みんなテーブルの上にある1冊の刺激的な本の写真をみて、まだ顔が火照ってるようにも見える。
一度心を落ち着かせる間が必要だと考えたので、この時間を取った。
雅はお茶を啜りながらも。広げられたその雑誌を見ていた。この雑誌の少女達には、私達が過ごしてきた世界と違う世界がある。私達は今の環境で過ごせば、確かに、王道的な生活を送れるだろう。
対して彼女達は、まがりなりとも覇道を目指す対極的な生き方である。その生き方に戸惑いながらも、ある種の憧れを持っているのはなぜだろう........
この雑誌は、私達が本来知るはずのない世界へのパンドラの箱である。
同時に新しい世界への道しるべになりうる鍵でもある。
「ねぇ、みなさん。今の生活はわたしたちにとって退屈だとは感じていませんか?」雅が突然みんなに問う。
問われた本人たちは、驚きながらお互いの顔を見た。
「わたしたちで、レディースをつくりませんこと?」
雅からの爆弾的な提案に対して皆驚いた。同時に先程の興奮がよみがえってきた。
「レディースと言うのは........この本に乗ってますようにバイクに乗って......夜走りまわる.......女暴走族のチームですか?」彩がこちらに視線を向けて話す。
「それって校則に違反するのでは..........」
「ふふふふふ............ みなさん、お忘れのようでございますね。私達S組は、一切の校則は適用されない治外法権を受けてますことを.........」
確かに彼女達を校則で縛ることはできない。そもそも校則は、生徒を守るために決められてる規則のようなものである。
彼女たちは一人一人でも絶対的権力者である。そんな生徒が集まってるS組を校則という枷で縛りつけると、学校が部分的とはいえ、国家権力の並みの力をもつことになる。なので超法規的観点からS組には校則の適用されない、治外法権が認められてるのである。
「じゃあさ、会長........私達もこの雑誌のような、どこか刹那的なレディースを作るということでしょうか。」エマが尋ねた。
「いいえ、私達は刹那的な覇道の道は通りません。エレガントで気高く、弱気を助け、それでいて友情と連帯を育む、ちょっとばかり派手で我がままな、我道の突き進むレディースを目指しますわ」
「..........おおおおぉ.............」みんなが、興奮している。
もともとトップになるべく、育てられた雅である。そのカリスマ性から共感を与える話法が自然と備わってる。
「私達が作る以上、このレディースは既存のレディースではありません。私達の私達による私達の為のレディースです。(.........どこかで聞いたような........)
その為に私は持っている力を使うことを躊躇いません。みなさんも今まで制限をかけていた力の解放をお願いします。」
「異議な~~し」みんなから賛同の声が上がる。
(........そうか!........今まで自分が持ってる力ゆえ、自然と自重していたのね......
我が儘を言わずとも周りが気付いて、叶えてくれて........それを漫然と受けいれて。
自分には不自由がないゆえ.......何かに感動することもなく、違う世界があることにも気が付けなかった........そう......それが退屈の原因だったのだ.......... きっとみんなも同じ気持ちだったんじゃないかしら)
周りを見回すと、学友たちも雑誌の中の少女達のようにキラキラした楽しそうな目をしてる。(うん!.......やれる.......私......いや私達みんな、ワクワクしてる。)
みんなが、レディースの話に夢中になってたら、突然個室のインターフォーンが鳴った。
「お嬢様方、お時間になりました。只今午後一時三十分でございます。」給仕からの連絡である。
「あ、井上さん。今日の午後からの授業は、私たち8人は全てキャンセルにしてくださいな。先生方に速やかなる連絡を入れてください。あ......それと三時にはアフタヌーンティーをお願いいたします.......」
「承りまりました。」給仕は何の躊躇いもなく、静かにインターフォーンを切る。
「あ、会長.....午後から授業ってなんでしたっけ?」
「確か慶心大学教授の牧野先生による財政学と八橋大学教授の山之内先生による経営管理学だったと思うわ」
「あ....それなら問題ないですね。特に牧野先生は、うちの教室に来てくれって、しつこい勧誘されますもの」白いレースのハンカチで口元を隠しながら
彩はくすくすと笑う。
「へぇ彩ちゃんは牧野先生か、私も山之内先生から入学してくれたら、即飛び級でうちのゼミでお待ちしておりますって、まだ高校2年になったばかりだというのに」とうんざりした顔で麗子は応えた。
「そんな些末なことより、私たちは早急にやらなければ、ならないことがありますよね。」
雅は微笑みながらみんなに言った。