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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 『少女たちの休日 in Artemis』

 メガヨット《Artemis》は、太平洋を東へ、15ノットで静かに進んでいた。


 《リクライゼーション室》

 梓と美奈子は、並んで深くリクライニングチェアに沈みながら、蒸気の香りに包まれていた。 美容スタッフの手が、丁寧にトリートメントを施していく。


「やっぱお前、マジで皇族かよってレベルの気品だよな」

美奈子がぽつりと呟く。


「ふふ、あなたの背筋の伸び具合、私は好きだけど」 梓が目を閉じたまま、静かに返す。


 言葉は少なくても、互いの信頼は深い。 レースで火花を散らしたあの夜が、今では静かな絆に変わっていた。


 昨夜は二人でビリヤードを楽しんだ。 不思議なことに、船はまったく揺れず、玉の転がりも完璧だった。

それもそのはず、この船には最新鋭のジャイロスタビライザーとフィンスタビライザーが搭載されているのだ。


 《1Fラウンジ》

 麗子と千鶴は、チーズとワインを片手に、ゆったりとした時間を過ごしていた。


「……これ、すごいな。このワインに比べたら、今まで飲んできたのは泥水だ」


「シャトー・マルゴー2000年。あなた、こういう味、好きでしょ?」


「でもさ、あんたまだ高校生だろ。酒なんか飲んでいいのか?」


「ふふ、公海上ですもの。日本の法律は適用されませんわ。

 この船の船籍は外国ですから」


「なるほど……この船、ワインもすごいんだろうな」


「ええ。三大シャトーにDRC、アメリカのカルトワインまで、

当たり年は全部揃ってるそうですわ」


「……どうしよう。これが基準になったら、もう他のワイン飲めなくなる」


「気にしないで。次はデザートワインを楽しみましょう」

麗子がソムリエを呼ぶ。


「では、シャトー・ディケム2001年にチョコレートを添えてお持ちいたします」


 ラウンジには、特注のB&Wスピーカーからチック・コリアのピアノが静かに流れていた。


 《B1 映画室》

 琴音と玲奈は、手を繋ぎながら『マッドマックス』を鑑賞していた。


「うわっ、トラック爆発!」


「きゃー!……でもこれ、荷重限界超えてるわね」

玲奈は冷静に分析する。


「え、そこ見る?」


「映画だけは、冷静に観る主義なんで」


「じゃあ、次のも感想よろしくね」


 10分後・・・・・ 重厚な扉の向こうから、叫び声が響く。


「いや~~!」


「ひぃぃぃぃ!」


「だ・だめぇ~!」


「もうよしてよ!」


 扉の横には、デジタル表示でこう書かれていた。 《貞子 上映中》


 《1F プールサイド》

 パラソルの下、デッキチェアに横たわる少女たち。 あかね、ひなた、彩、エマ、沙耶香、涼子、そして雅。 それぞれが思い思いに、夏の午後を楽しんでいた。


 ふと、ひなたが周囲を見渡しながら、指をさして言った。

「400、250、550、1500、350、650、1000……そして私が125ccか」


「ん?」 最初はバイクの排気量かと思ったが、すぐに全員が気づいた。 一斉に胸を手で隠す。


「えへへ、でもうちのリーダーは原付ですよ」

 ひなたが得意げに言った瞬間——


 背後から、ひなたはプールに蹴り飛ばされた。 水しぶきの中から顔を出すと、そこには般若の形相の美奈子が、指を鳴らして立っていた。


「ひ~~な~~た」


 周囲のメンバーは、そっと視線を逸らした。


 《操舵室》

 千秋は、今日も操舵室にいた。 いや、正確に言えば——船長のそばにいた。


「……あんな小さなハンドルで操縦するんだ。でも、誰も握ってない。みんな双眼鏡で外を見たり、コーヒー飲んだりしてるだけ……」


 その様子を察した渡辺が、優しく説明する。


「今はオートパイロットで運航中なんだ。デジタル海図とGPSで、船は自動で進む。レーダーで水平線の先まで監視してるから、他の船が接近すれば警報が鳴るし、必要なら自動で舵も切る」


「へぇ……すごい……」


「せっかくだし、操縦してみるかい?」


「えっ!? いいんですか? 私、バイクしか運転したことないのに……」


「大丈夫。外国じゃ、船の操縦に免許はいらない国も多いんだ。それに、ここは公海。今は他の船もいないし、安心して」


「……やります!やらせてください!」


「よし、オートパイロット解除。舵、渡します」


 千秋は、緊張しながらハンドルを握った。 左に回すと、船がゆっくりと左へ。 右に回せば、また静かに方向が変わる。


「……すごい。本当に、私がこの船を動かしてる……」 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


(こんな経験、もう二度とできないかもしれない。でも、今この瞬間だけは........)


 その後、千秋は本当に防衛大学に進学し、主席で卒業。 やがて、海上自衛隊初の本格空母ほうしょうの初代艦長となる。それは、また別の物語——。 


「……あら、航跡が蛇行してるわね。操舵室には千秋さんかしら」

雅がスカイデッキから海面を見下ろし、ふっと微笑んだ。


「船長、すばらしいサービスですわね」

その声は、まるで千秋の未来を祝福するように、穏やかに風に溶けていった。


午後3時。 船内放送が、優しい音楽とともに流れる。


「アフタヌーンティーの準備が整いました。本日は天候も良好ですので、2F外部ラウンジにてお待ちしております」


「来た〜!この時間、待ってたんだよね!」

チョコレートを頬張ったまま、千鶴が勢いよく階段を駆け上がる。


「ふ〜……千鶴には“量より質”は求められないわね。あの子は“量も質”も、全部欲しがるタイプだわ」

麗子が肩をすくめて言うと、周囲から笑いがこぼれた。


夜が訪れ、メガヨット《Artemis》は静かに波間に浮かぶ。 それぞれの部屋には、それぞれの物語と笑い声が灯り、まるで一つの小さな町のように、温かな活気に満ちていた。


そして翌朝——


「おはようございます。本日、皆様にサプライズイベントをご用意しました。ヨット内のどこかに、【三条家の財宝】を隠してあります。見事見つけたペアには、スペシャルディナーをご招待します」


船内全域を使った、“高級版宝探しゲーム”の幕が上がった。


琴音&玲奈ペア。

「設計図でいうと、この壁裏に空間があるはず!」

「マジかよ、設計から攻めるんか!マニアすぎるだろ」


設計と現場感覚の融合で壁の隙間を探るが、そこはただのスタッフ用通路だった。


エマ&沙耶香ペア。

「こういうの、ゲーム感覚で得意よ。モデルの仕事、空間認知力必要だもの」

「……あたし、力仕事は任せろって感じなんだけど」


キッチン裏の冷凍室を探索するも、寒さに震えて退散する。


麗子&千鶴ペア。

「この手の隠し物って、意外と人の“集まらない”場所にあるのよ」

「……つまり、女子トイレの掃除用具ロッカー?」

「全部調べるわよ」


ドアを開けた瞬間、モップの柄が麗子の額に直撃。タンコブだけが成果だった。


彩&千秋ペア。

機関部の隅、作業服ロッカーの裏に小さな箱を発見。 中には、三条家の刻印が入ったジュエリーケースと、ペアディナーチケット。


「マジで!? なんでこんなとこに気づいたんですか」

「うちの父、内閣官房長官なの。思考回路が似てたのかもね」


その夜、 船上デッキがライトアップされ、甲板全体が月に照らされた舞踏会場のように変貌していた。


各ペアにはドレスが用意され、白いクロスのテーブルが等間隔に並ぶ。 メニューは、アルテミスとルナゴスペルのメンバーの好みに合わせてカスタマイズされた特別ディナー。


中央には、雅が白いドレスで静かに立っていた。


「あなたたちの絆は、想像以上に素敵なものになりそうね。今夜だけは、喧騒も走りも忘れて。普通の女の子同士として、乾杯しましょ」


その言葉に、誰もがグラスを掲げた。


夜空には花火が咲き、海面に反射して煌めく。 少女たちは、戦いも競争もない、ただの“夏の夜”を楽しんでいた。


そしてその記憶は、彼女たちの心に、静かに、でも確かに刻まれていく。

まるで、月光に照らされた航跡のように。

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