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お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


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お嬢様 『白い神殿、操舵室の秘密』

 側面の階段を上がると、そこには白い制服に身を包んだ男性が立っていた。 肩には4本線の階級章。白い帽子をかぶり、姿勢は凛とし、動きは無駄がない。 年の頃は40代前半。まるで映画から抜け出してきたような、洗練された雰囲気だった。


彼は一人ひとりに丁寧に握手を交わしながら、静かに言った。


「ようこそ、アルテミスへ」


その立ち居振る舞いに、千秋は思わず顔を赤らめ、小さな声で呟いた。


「……素敵なおじ様……」


彼の名は渡辺一誠。 この船の船長であり、かつては海上自衛隊の護衛艦艦長を務めた人物。 防衛大学を主席で卒業し、将来の幕僚長候補とまで言われた逸材だった。


そんな彼を、三条財閥が直々にスカウト。 無理を承知で自衛隊に掛け合い、役員待遇でこの船の船長に迎えたという。


船に乗り込むと、すぐにウェルカムパーティーが開かれた。 船長の挨拶に続き、副長、チーフパーサー、船医、総料理長といった主要スタッフが紹介される。 軽食とドリンクが振る舞われ、ゲストとクルーが打ち解けるための、ささやかな“儀式”だった。


部屋割りは、雅がオーナーズスイートに。 残る14人は、アルテミスとルナゴスペルから1人ずつペアを組み、2人部屋に分かれることに。 自然と、チームを超えた親睦の時間が始まっていた。


荷物を置いた一同は、1F左舷のデッキに集まった。 出航の瞬間、そしてベイブリッジの下をくぐるその時を、誰もが心待ちにしていた。


艦内放送が響く。


「出航準備、開始します」


どこからともなく現れた白い作業服の船員たちが、無線で連携を取りながら持ち場へ散っていく。 副長が左舷前方の小さな操作盤を開き、まるでゲーム機のようなレバーを器用に操る。


すると 船が、岸壁と平行に、音もなく横へと滑り出した。


「えっ……引っ張られてないのに、横に動いてる……なんで?」

ひなたが思わず声を上げる。


その背後から、柔らかな声が届いた。


「サイドスラスターって言うんですよ」


振り返ると、そこには船長の渡辺が立っていた。


「えっ、船長!? 今、操縦してるんじゃ……」


「はは、今は副長が操作してますよ。あそこ、見てごらんなさい」 と、彼は前方の副長を指差す。


「今の船は、出航時はあの小さなレバーで動かすんです。前に倒せば前進、右に倒せば右へ。速度も調整できます。もちろん、すべての船にあるわけじゃありません。この船は特別なんです」


「サイドスラスターは、船の両舷にある水の噴出口から、プロペラで海水を左右に噴射して、船を横に動かす装置なんですよ」


「まるで魔法みたい……」千秋は感心しきりで、頬をほんのり染めた。

(あ、私……恋しちゃったかも……)


「操舵室はいつでも見学できますよ」

そう言って微笑む船長に、千秋は胸を高鳴らせた。


時刻は夜9時。 メガヨット《ARTEMIS》は、静かに横浜港を離れ、ベイブリッジの巨大なアーチへと向かっていた。


港の灯りが船体を照らし、まるで彫刻のような美しさを際立たせる。 星が瞬く夜空、光る海面、そして空にかかる白い橋。 その中を、音もなく滑るように進む白い神殿。


最上階のスカイデッキには、アルテミスとルナゴスペルの面々が集まっていた。


梓が橋を見上げながら呟く。


「……この角度、ドローンカメラなら完璧な構図ね」


「橋の下から出発って……なんか神様が神殿を出るみたい」

誰かがそう言い、美奈子は目を細めていた。


「……あの橋の上、誰か見てるかもな。“あれに乗ってるのが誰だ”って、ザワついてるだろうよ」


「都市と神話の交差点、って感じ」

梓はカメラを構え、静かにシャッターを切った。


その頃、ベイブリッジの歩道には観光客やカメラ愛好家が集まっていた。 誰かが下を指差し、声を上げる。


「なにあれ……すご……え、豪華客船?違う、私有船っぽい……」


「船名、《ARTEMIS》? 調べてみ……え、三条家!?あの三条グループ?」


「え!?つまり、あれに乗ってるのは……例の“アルテミス”とかいう……」


SNSには次々と写真や動画が投稿され、 “白い女神船、横浜を出航”が瞬く間にトレンド入りした。


船がベイブリッジの中央をくぐるその瞬間、 船体の縁取りに沿って、全照明が一斉に点灯。 1Fから4Fまでがライトアップされ、夜の海に白い神殿が浮かび上がる。


艦名「Artemis」の文字が光を放ち、上空ではドローンが光の帯を描いていた。 まるで夜空に女神の名を刻むように、静かに、そして誇らしげに。


その頃、浦賀水道を南下していたのは、第一護衛隊所属のイージスまや。 訓練帰りの寄港途中、艦橋では艦長・飯島一等海佐が前方の船影に目を留めていた。


「前方の船は?」


副長が即座に応える。


「船体識別コードによると、三条グループ所有のメガヨット《Artemis》です」


「……渡辺先輩の船か」

飯島は目を細め、静かに言った。


「通信員に伝えよ。発光信号で “貴船の安全な航海を願う いいじま”」


「復唱します。『貴船の安全な航海を願う いいじま』」


まやの艦橋から、夜の海に向けて発光信号が放たれる。 白い光が、静かに、しかし確かにアルテミスへと届く。


アルテミス操舵室。 その信号を受け取った通信員が報告する。


「前方護衛艦より発光信号あり。『貴船の安全な航海を願う いいじま』」


船長・渡辺は、ふっと笑みを浮かべる。


「要らぬ気など使いやがって……飯島め。よし、返信だ。

 『貴艦の無事の接岸を期す わたなべ』」


再び、光の言葉が夜の海を渡る。


まや艦橋。 副長が報告する。


「アルテミスより返信。『貴艦の無事の接岸を期す わたなべ』」


飯島は、静かに頷いた。


(やれやれ……いつまでたっても、先輩には頭が上がりませんよ。接岸も、ようやく上手くなったんです。今度、陸で一緒に飲みに行きましょう)


心の中でそう呟きながら、飯島は夜の海を見つめた。


その頃、アルテミスの操舵室には、当然のように千秋がいた。


「ねえ、艦長さん。今のって、何だったんですか?」


渡辺は優しく微笑みながら答える。


「夜の海ではね、知り合いの船同士が、こうして光で挨拶を交わすんですよ。 言葉じゃなく、光で伝える。ちょっと粋でしょう?」


「うわぁ……あんな大きな軍艦からも挨拶されるなんて……艦長さんって、すごいんですね」


千秋の瞳は、すっかり憧れの色に染まっていた。


彼女は、同室の彩を置いてきぼりにして、操舵室に入り浸っていた。


「艦長さんって、こんな大きな船を動かしてるんですよね?  アタイなんて、自分のバイクだけで精一杯なのに……」


「いやいや、この船はね、浦賀水道を抜けるまでは気を張るけど、外洋に出ればオートパイロットに任せるんですよ」


「えっ、じゃあ、いつも操舵してるわけじゃないんですか?」


「そう。海事法で見張りは必須だけど、操舵室には常時2人がいて、他の船と危険な距離になればアラームが鳴って、自動で舵も切ってくれる。  私たちの仕事は、船全体に気を配ることなんです」


「へぇ……じゃあ、船長って、船の“心臓”みたいな存在なんですね」


「そう言ってもらえると、嬉しいですね」


千秋は、ますます目を輝かせた。


「この船って、何人で動かしてるんですか?」


「操舵室に6名、ドクター1名、機関室に2名、船務要員13名、マッサージ2名、厨房4名、美容師1名、ソムリエ1名、そして皆さんのお世話をするパーサーが20名。  合計で50名ですね」


「ええええ!?そんなにいるんですか?全然すれ違わなかったですよ!」


「それはね、動線が違うんです」


「動線?」


「こっちに来てごらん」


渡辺は操舵室を出て、千秋を後方へと案内する。


「ここ、壁に見えるでしょ?」


「うん」


「でも、こうやって押すと……ほら、下へ続く階段が現れる」


「うわっ……まるで忍者屋敷だ!」


千秋の目が、またひとつ輝いた。


「乗員とゲストは、使う通路が違うんですよ。豪華な階段やエレベーターは、あくまでオーナーとゲスト用。スタッフは、こうした裏動線を使って、目立たずに動いているんです」


「すごい……この船、秘密がいっぱいですね」


渡辺は笑って頷いた。


「君の探究心、なかなかのものだ。この船のこと、もっと知りたくなったら、いつでも案内しますよ」


千秋は、胸の奥がふわっと温かくなるのを感じた。


(……あたし、またひとつ冒険が始まったかも)


夜の海を進むアルテミス。 その中で、ひとりの少女の心に、小さな灯がともった。

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