↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/255

お嬢様 『夜の協奏と影の胎動』

夜の帳がすっかり降りた午後九時過ぎ。


横浜・元町の商店街を抜け、赤レンガ倉庫の裏手に広がる波止場の旧倉庫街。静まり返った空間に、低く唸るバイクのアイドリング音が響いていた。


「来たな、アルテミス」


ルナゴスペル総隊長・美奈子が、Ninja ZX-4RRのシートから長い脚を降ろし、静かに呟く。


その背後には、千秋、涼子、沙耶香、そして新たに加わった玲奈、千鶴、ひなた。


それぞれのカスタムマシンに跨り、目には一切の迷いがなかった。


そして、月光を切り裂くように現れたのは八台のバイク。


まるで指揮者のタクトに従うような、完璧なフォーメーションで滑り込んでくる。


先頭を走るのは、静かな威圧感をまとった総長・三条雅。


その後ろに、副総長・梓、宗子、エマ、麗子、彩、あかね、琴音。


かつて横浜狂想会を壊滅に追い込んだ、伝説のレディース・アルテミスが、今ここに揃っていた。


「夜は、私たちのステージだ」


梓が小さく呟き、フルフェイスのヘルメットを装着する。


その眼差しの鋭さに、ルナゴスペルの面々も思わず息を呑んだ。


ただ一つ、両チームに共通するルールがある。


他人を巻き込むな。

事故は絶対に起こさない。


それが、アルテミスの流儀。


“美しく走れ”が信条だ。


走行、開始。街灯が舗道に長い影を落とす。


アルテミスとルナゴスペルは、二列交互のフォーメーションで横浜の夜を駆ける。

中華街の狭路を抜け、ビルの谷間をすり抜けるたび、排気音が反響し、まるで獣の咆哮のように響いた。


先頭を走るのは、梓と玲奈。


互いの呼吸を読むように、静かに、しかし鋭く加速し、夜風を切り裂いていく。


まるで舞うように交差しながら、車間を保ち、流れるような走りを見せる。


直線に入ると、宗子と沙耶香、エマと千鶴が競り合う。


大黒ふ頭のコンテナ群を縫うように、テクニカルなカーブが続く。


宗子のライン取りは、まるで定規で引いたかのように正確だった。


沙耶香が思わず息を呑む。

「この精度……プロみたい……」


エマは風を纏い、優雅にターン。


その後ろを千鶴が冷静に追い、加速のタイミングをぴたりと合わせる。


やがて、舞台は本牧埠頭のストレートへ。


潮の香りが漂い、東京湾の灯りが視界に広がる。


そして、雅と美奈子が並ぶ。


「夜は静かだけど、私たちには騒がしいわね」

雅が微笑む。


「いいね。こういう女たちが、夜の街を守ってるって思わせとこうぜ」

美奈子が応える。


二台はあえて速度を落とし、全体のリズムをコントロールする。

まるで、夜を導く“女王”たちのように。


三十分後。


走行を終えた十五台が、本牧ふ頭の端、海を望む広場に並ぶ。


バイクを降りた少女たちは、しばし無言。


潮風が髪を揺らし、波の音が静かに耳を打つ。


玲奈がぽつりと呟く。

「……最初、“お嬢様走り屋”ってナメてたけどさ。……アルテミス、ヤバい」


涼子がうなずく。

「完全に、都市伝説じゃなかった」


ひなたは満面の笑みで琴音に親指を立てる。

「あんた、コーナーで重力無視してたでしょ?」


琴音は得意げに笑う。

「ふふん、地面が避けてくれるのよ」


美奈子が一歩前に出て、雅に向き直る。

「次は、真っ向勝負……レースで白黒つけようか?」


雅は静かに微笑み、頷いた。

「ええ。それもまた、“美しい走り”なら、望むところよ」


夜明け前の空を見上げながら、少女たちはバイクの前に立つ。

そのシルエットは、まるで夜の海に降り立った女神たちのようだった。


そして、この夜の走行は瞬く間に横浜中を駆け巡る。


映像は短いものだった。


港湾道路を抜ける十五台のヘッドライト。

濃紺と白が交互に流れる、乱れのない隊列。


その姿は、派手な爆音よりも速く、街の噂の中を走っていった。


横浜西部・峠系チーム「赤鴉」。

理論派と技巧派が集う、峠道の最速集団。


その夜、彼らは中継映像を見ながら、無言で走行データを解析していた。


「梓って娘……ヤバいな。コーナー前に一瞬で速度制御してた。しかも一切ブレーキ音が出てなかった」


「宗子のライン取り、あれ……普通の峠じゃ真似できねえ。港の構造に最適化されてる」


「てかアルテミスもルナゴスペルも……“自分のチームだけで目立とう”としてないんだよ。あれは協奏だ。ダブルエースで走るジャズセッションみたいなもんだ」


彼らは、画面の中の十五台を黙って見つめていた。


速さだけではない。喧嘩の強さでもない。


自分たちが知らない価値が、そこにはあった。


本牧・元レディース「黒焔」。

かつて夜の本牧を制した伝説のレディース。


今は解散し、社会に戻った者たちが、久々に顔を揃えていた。


「いやもう……何あれ?超一流のバレリーナと剣士の群舞って感じ」


「うちらの時代の“無敵ピラミッド”が、ただの空威張りに思えたわ……」


「アルテミスって“噂だけ”かと思ってたけど、本当に“狂想会”潰したの、あの子たちだったのかもね」


「美奈子って子も、ただの突っ張りじゃなかった。あの余裕、器のデカさ、リーダーの風格よ……」


彼女たちは、過去の自分たちを懐かしむように笑った。

けれど、その目はもう、過去ではなく、画面の中の新しい夜を見ていた。


そして、新たなる影。

「邪蘭連合」。


湾岸線のレストストップ――


川崎、鶴見、横須賀のナンバーをつけたバイクが、夜の駐車場に黒く並んでいた。


実動部隊リーダー・魅倉牙翔が、缶コーヒーを握り潰す。

「“合同走会”ぃ? あの“お嬢様”どもが横浜中を走り回って、“伝説”だと?」


背後のモニターには、拡散された走行映像。


月光の下、舞うように走る十五台のバイク。


「ふざけんな……この街の“下の血”を流してきたのは俺らだろうが。

 華やかな顔して、全部持ってく気かよ」


取り巻きが問う。

「……指示、出しますか?」


牙翔は目を細め、静かに言い放つ。


「“港を、渡らせるな。” 次に奴らが動くタイミングで、封鎖線を張る。……いいか、見せてやれ。俺らが“ただの道化”じゃねえってことを」


夜の静寂に、再び火種が落とされた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。