表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様レディース ~超お嬢様達がレディースをつくったら、最強のやりたい放題のチームになりましたわ~  作者: 猫の手


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/227

お嬢様 『夜の協奏と影の胎動』

 

 夜の帳がすっかり降りた午後9時過ぎ。 横浜・元町の商店街を抜け、赤レンガ倉庫の裏手に広がる波止場の旧倉庫街。 静まり返った空間に、低く唸るバイクのアイドリング音が響いていた。


「来たな、アルテミス」


 ルナゴスペル総隊長・美奈子が、Ninja ZX-4RRのシートから長い脚を降ろし、静かに呟く。 その背後には、千秋、涼子、沙耶香、そして新たに加わった玲奈、千鶴、ひなた。 それぞれのカスタムマシンに跨り、目には一切の迷いがなかった。


 そして、月光を切り裂くように現れたのは8台のバイク。 まるで指揮者のタクトに従うような、完璧なフォーメーションで滑り込んでくる。


 先頭を走るのは、静かな威圧感をまとった総長・三条 雅。 その後ろに、副総長・梓、宗子、エマ、麗子、彩、あかね、琴音。 かつて“狂想会”を壊滅に追い込んだ、伝説のレディース・アルテミスが、今ここに揃っていた。


「夜は、私たちのステージだ」


 梓が小さく呟き、フルフェイスのヘルメットを装着する。 その眼差しの鋭さに、ルナゴスペルの面々も思わず息を呑んだ。


 ただ一つ、両チームに共通するルールがある。他人を巻き込むな。事故は絶対に起こさない。 それが、アルテミスの流儀。“美しく走れ”が信条だ。


 走行、開始。


 街灯が舗道に長い影を落とす。 アルテミスとルナゴスペルは、2列交互のフォーメーションで横浜の夜を駆ける。 中華街の狭路を抜け、ビルの谷間をすり抜けるたび、排気音が反響し、まるで獣の咆哮のように響いた。


 先頭を走るのは、梓と玲奈。 互いの呼吸を読むように、静かに、しかし鋭く加速し、夜風を切り裂いていく。 まるで舞うように交差しながら、車間を保ち、流れるような走りを見せる。


 直線に入ると、宗子と沙耶香、エマと千鶴が競り合う。 大黒ふ頭のコンテナ群を縫うように、テクニカルなカーブが続く。


 宗子のライン取りは、まるで定規で引いたかのように正確。 沙耶香が思わず息を呑む。

「この精度……プロみたい……」


 エマは風を纏い、優雅にターン。 その後ろを千鶴が冷静に追い、加速のタイミングをぴたりと合わせる。


 やがて、舞台は本牧埠頭のストレートへ。 潮の香りが漂い、東京湾の灯りが視界に広がる。


 そして 雅と美奈子が並ぶ。


「夜は静かだけど、私たちには騒がしいわね」

  雅が微笑む。


「いいね。こういう女たちが、夜の街を守ってるって思わせとこうぜ」

  美奈子が応える。


 2台はあえて速度を落とし、全体のリズムをコントロールする。 まるで、夜を導く“女王”たちのように。


 30分後。


 走行を終えた16台が、本牧ふ頭の端、海を望む広場に並ぶ。 バイクを降りた少女たちは、しばし無言。 潮風が髪を揺らし、波の音が静かに耳を打つ。


 玲奈がぽつりと呟く。

「……最初、“お嬢様走り屋”ってナメてたけどさ。……アルテミス、ヤバい」


 涼子がうなずく。

「完全に、都市伝説じゃなかった」


 ひなたは満面の笑みで琴音に親指を立てる。

「あんた、コーナーで重力無視してたでしょ?」


 琴音は得意げに笑う。

「ふふん、地面が避けてくれるのよ」


 美奈子が一歩前に出て、雅に向き直る。

「次は、真っ向勝負……レースで白黒つけようか?」


 雅は静かに微笑み、頷いた。

「ええ。それもまた、“美しい走り”なら、望むところよ」


 夜明け前の空を見上げながら、少女たちはバイクの前に立つ。 そのシルエットは、まるで夜の海に降り立った女神たちのようだった。


 そしてこの夜の走行は、瞬く間に横浜中を駆け巡る。


【港南区・爆音チーム「雷神」】

 20台超のアメリカンバイクで街を揺らす、低速高音の重低音集団。 その夜、湾岸の高架下で缶コーヒー片手にたむろしていたメンバーたちは、スマホの画面に映る映像に目を奪われていた。


「おい見たか?今夜のあれ……アルテミスとルナゴスペルが、同じフォーメーションで横浜抜けてったぞ」


「てかあれ、走会じゃなくて儀式だろ。なんか神々しかったわ……」


「正直さ、あれ見て思ったんだよ。“改造しすぎた俺らのマシン、逆にダサくね?”って」


「街を制す、じゃねぇ。“美しく支配する”ってのが、あれなんだな……」


 彼らの中に、初めて“美”という価値観が芽生えた瞬間だった。


【横浜西部・峠系チーム「赤鴉あかがらす」】

 理論派と技巧派が集う、峠道の最速集団。 その夜、彼らは中継映像を見ながら、無言で走行データを解析していた。


「梓って子……ヤバいな。コーナー前に一瞬で速度制御してた。

 しかも一切ブレーキ音が出てなかった」


「宗子のライン取り、あれ……普通の峠じゃ真似できねえ。

 港の構造に最適化されてる」


「てかアルテミスもルナゴスペルも……“自分のチームだけで目立とう”としてないんだよ。あれは協奏だ。ダブルエースで走るジャズセッションみたいなもんだ」


 彼らは静かに、しかし確実に“新しい走りの哲学”に触れていた。


【本牧・元レディース「黒焔くろほむら」】

 かつて夜の本牧を制した伝説のレディース。

  今は解散し、社会に戻った者たちが、久々に顔を揃えていた。


「いやもう……何あれ?超一流のバレリーナと剣士の群舞って感じ」


「うちらの時代の“無敵ピラミッド”が、ただの空威張りに思えたわ……」


「アルテミスって“噂だけ”かと思ってたけど、本当に“狂想会”潰したの、あの子たちだったのかもね」


「美奈子って子も、ただの突っ張りじゃなかった。

 あの余裕、器のデカさ、リーダーの風格よ……」


 彼女たちは、過去の自分たちを懐かしみながらも、新たな時代の到来を静かに認めていた。


【ネット界隈の監視者たち「The Road」】

 ストリートレース掲示板に集う、現代型の観測者たち。 監視カメラ、ドローン、SNS投稿を駆使して、リアルタイムで情報を収集する。


 “今夜のベイブリッジ下、

 バイク15台が完璧な編隊走行してた動画バズってる!”


 “アルテミスのフォーメーション、

 一つの生き物レベルの動きなんだけど……どこで訓練してんの?”


 “ルナゴスペルが併走してる時点で、ガチ中のガチ。

 街のパワーバランス、変わったな”


 “これ、『レディースの再評価』来るぞ……。

 美とテクニックのハイブリッド、令和の伝説や”


 彼らの言葉が、やがて都市の記憶として刻まれていく。


【横浜の半グレ勢力「双影」】

 裏カジノやドラッグの噂が絶えない、影の集団。 その夜、彼らは静かに、しかし確実に“異変”を察知していた。


「……手ェ出せねぇな。裏情報じゃ、国家権力がついてるって話もある。

 下手に動きゃ、俺らが潰される」


「横浜狂想会の二の舞だけはごめんだぜ」


「てかあの雅って女、カリスマが違う。

 こっちの裏筋まで見透かしてそうで怖えよ……」


 彼らは、牙を剥くことなく、ただ静かに身を潜めた。


【そして、新たなる影、「邪蘭(じゃらん)連合」】

 川崎・鶴見・横須賀を縄張りにする、東関東のアウトロー集団。

  旧暴走族OBと現役ギャングが混在する、喧嘩上等の戦闘型チーム。


 その夜、湾岸線のレストストップ。 実動部隊リーダー・魅倉 牙翔(みくらがしょう)が、缶コーヒーを握り潰す。


「“合同走会”ぃ?あの“お嬢様”どもが横浜中を走り回って、“伝説”だと?」


 背後のモニターには、拡散された走行映像。 月光の下、舞うように走る15台のバイク。


「ふざけんな……この街の“下の血”を流してきたのは俺らだろうが。  華やかな顔して、全部持ってく気かよ」


 取り巻きが問う。

「……指示、出しますか?」


 牙翔は目を細め、静かに言い放つ。


「“港を、渡らせるな。”  次に奴らが動くタイミングで、封鎖線を張る。  ……いいか、見せてやれ。俺らが“ただの道化”じゃねえってことを」


 夜の静寂に、再び火種が落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ