お嬢様 「預けられる命の重さ」
本選レース行われる、2時間前から、もう一つのピットクルーの採用テストが、行われていた。
出された課題は、九人を三人ずつ三班に分けて行うテスト形式となった。
課題は、90分時間以内で、壊れてるマシーンの損傷個所を修理して、
10週走らせれること。ただそれだけだ。
ところが、三チームの構成が、偏っていた。
一チームは、現役のピットクルーで、元々他チームのピットクルーをやってた者――それが、ワンチームに集められた。
二チーム目は、ピットクルーの経験はないのだが、エンジニアリング出身の三人で構成された。
三チーム目は、皆若い。工業高校出身者で、実践経験が乏しい三人で構成された。
「これは、勝ち目ないな。他の二チームは、皆経験者じゃないか。
俺達は、まったくレース経験のない素人集団」
「ああ、俺達は、落とされる為の集団だな」
「じゃあ、諦めるの?私はあきらめたくないわ」
紅一点の女の子が言った。
「しかし、負けるためにやるのか?」
「違う。そこじゃない。もう勝ち負けじゃないの。
傷ついたマシンを放って置くのは、いやなの」
正論だった。メカニックとしての矜持を突き付けられて、
二人は、メカを扱かう楽しみを思い出した。
「そうだな。勝てないだろうが、俺達は、機械イジリが好きだから、
ここにいるんだった」
「言い出しっぺだ。お前このチームのリーダーやれ」
そう言って二人の男は、女の子を見る。
「私がリーダー?......でも、皆でやろうよ」
「だめだ、一人じゃない。チームとして、リーダーを決めないと
方向性が、分かれた時必ず破綻する」
「時間がおしい。リーダーまず、何をやる?」
「え?私? そ...そうね。自己紹介と各自の得意なこと、共有しましょう」
「俺は、海斗。専門は、電子・情報だ。ECUなら任せてくれ」
「俺は、茂樹。得意はエンジンだ。小学校の時から弄ってる」
「私は、咲。得意は、排気系よ」
「じゃあ、まず故障個所の特定しましょう」
早速三人は、故障個所を探しだす。
他の2チームは、ほぼ故障個所を特定したようで、すでにリバースを始めていた。
「私達は、焦らないで、確実性と安全第一にいきましょう。
人が乗るものです。そして私達は、何度も分解する技量はない」
咲は、まずやるべきことの方向性を決めた。
「ECUには、問題ない。全て正常値を示している」
海斗は報告する。
「おかしいわ。正常値なのに、この排気。ガソリン臭が強い」
咲は、違和感を口にする。
「こちらもだ。水温が安定してない」
茂樹も問題点を指摘する。
「おかしいわ、ECUの数値は問題ないのにこの違和感」
「海斗、回転数を上げてくれ。レブギリギリまでだ」
「了解、上げるぞ」
すると、ECUに赤い警告サインが出る。
「これは?」
「ああ、問題が、三つだ。ECUの誤作動と燃料噴射バルブと混合比」
「三人にした理由が、これなのね。一人一つの問題解決」
この結論に至ったのにかかった時間は30分。
「60分で、3つは、無理だ。ECUと、残り二つのうち一つくらい
しかできない」
「ねえ、海人、ECUのプログラム書き換えて、混合比を制御できない?」
「無理だ。ノーマルならまだしも、これはレーサー用マシンだ。
フルチューンマシンは、そんな簡単なものじゃない」
「そもそも、バルブ交換をやった後、ECUの調整して、混合比を決めていく
手順になるが、1時間じゃ無理だ」
「ああ、あの二チームみたいに、レース用エンジンなんか、
1度も触ったこともないからな」
「ねえ、梅人あなたは、どうやってECUの調整するつもりだったの?」
「一般チューニング用のECUプログラムは、USBで持って来てる。だが市販車用だ。とてもじゃないが、15000回転以上のデーターはない」
「一般のチューニングってどのくらいなの?」
「俺が、サイトから拾ったのは、14500回転だ」
「じゃあ、500回転しかかわらないのね?」
「いや、問題は、そこじゃない。これは、回転領域であって、実用パワーバンドが違う」
「兎に角やってみて。レブは14500回転で設定して」
「茂樹は、バルブの調整。14500回転まで、完全燃焼することだけ考えて」
「でもそれじゃ、パワーダウンしてしまうぞ」
「いいの。そこは目をつぶりましょう。私達が目指すのは、デ・チューン」
「本気か?それマシーンを市販車にすることだぞ。安全性は上がるが、
二チームみたいに、マシンの性能を戻すスタンスと違うぞ」
「うん、分かってる。でも私達が今できること......それしかない」
「今の私達は、チューンドエンジンを無理に触って壊すことだけは、
やっちゃいけないと思う。私達は、エンジンを守らないと」
「ああ、わかった。お前の指示に従おう」
「でもさ、一つだけイタズラしましょ」
「イタズラ?」
「うん。私達が、縁あって一緒に仕事した。その証を残しておくの」
そう言って、咲は、代車に乗った大きな荷物をもってきた。
予想どおり、最初のピットクルーチームが最初にマシンを完成させる。
そして、テスターを乗せコースに送り出す。
1週遅れで、エンジニアリングのチームが、そしてさらに1分遅れでレース未経験者チームが、マシンを送りだす。
「三島さん、このチーム分け、ずいぶんと極端にしましたね」
雅が話しかける。
「まあな。ピットは、チームだ。個人評価なんか関係ない。
正岡のピットみればわかるだろ」
「ええ、一番目のチームは決まりですね」
「ああ、あいつらは完成してる」
「二番目は.....」
「あれは、パワー上げすぎだ。水温の罠を無視したな。
あれには、命預けられないな」
「三番目は、ずいぶん抑えてるような。でもこの音は.....」
「......」
「三島さん?」
「面白い。なるほどな.....」
「含んでますね?」
「あいつら、レーサーを市販車チェーンにしやがった。
しかし、思ったほどパワーは落としてない」
「あ、二番目のチームスローダウンしましたね」
三島は、気にもとめていない。
「雅、一チームは、契約だ。そして、三番目のチームは、練習生契約だ」
「それは、かまいませんが......」
そう言って初めて、雅は、三番目のチームのリストを見る。
「え?まさか――?」
「雅、知り合いか?」
「三島さん、選んだ理由は、排気系じゃないですか?」
「そうだ。あいつら、手に負えないエンジンを抑えて、排気系でカバーしてた。たぶんエンジンは、15%落ち、排気で5%位上積みだ」
「どこかの馬鹿みたいに、エンジンを壊すことなく、マシンを戻す。
まあ、そこまでだったら――気付く。だが他で、上積みだ。俺好みだ」
「わかりました。でもエンジンみたいに、壊さないでくださいね」
「俺が試すくらいで、壊れるなら――最初からレースに出せん」
三島のサングラスが光った。




