お嬢様 「門はすでに開いている」
仙台サーキット場には、付設施設に、フォン・マキコの直営店、木田技術開発の工場直営の展示ブース、ビッグデータ社の体験型6軸シミュレーター等もあり、いつの間にか、巨大ショッピングモールや飲食店街まで作られていた。
サーキトでのイベントも、毎週日曜日におこなわれて、入場は基本無料。
主なイベントは、バイクやスクーターの乗車体験や、子供用のバイク体験、
白バイ隊員による交通安全講習など盛り沢山であった。
このような、イベントにつきものの、ツッパリお兄ちゃん達も、外では、独眼連合が、中には、現職警察官が、目を光らせてるため一切のトラブルは、なく家族全員で安心して楽しめるようになっている。
市役所観光部では、定例会議が、行われていた。
「皆さん、分かっているとは思いますが、今度の土・日、仙台サーキットの選抜試験。準備の最終確認をします」
「市内の宿泊施設ですが、今の所98%の予約率です。ただ......」
「ただ?」
「4月の日本GPシリーズの第2戦が、ここなんですよね。そこが、すでに
100%なんです」
「ふ~う。また、あの時の悪夢が来ますか」
「部長、悪夢と言う言い方は......」
「ええ、分かってますとも」
「ただ、いい話もあります。特需をみこんで、すでに市内に4か所大型ホテルの建設が、急ピッチですすんでいます」
「次に、交通インフラは?」
「立体駐車場が、完成してますので、収容は問題ないでしょう。
バスも定期路線の増便してますので、こちらも大丈夫だと思います」
「4月の大イベントの前哨戦です。みなさん気を引き締めて」
常設される月の雫サイトには、過去の動画や、選考会の日付、
選考合格者の特典などが載せられてる。
ただし、選考基準は乗せられていない。
参加条件も自薦他薦関係なし。
マシン持ち込み可。
マシンが、用意できないものは、開催者が準備する。
但し、走れるかは、前日に開催者が、シミュレーターでチェックする。
合格者は、契約金一億となってる。
同時にピットクルー選抜試験も行うとなっている。
こちらは、訓練生は、年収一千万、寮完備、
妻帯者も同様の年収で、引っ越し費用と社宅を準備する。
どちらも破格な条件だった。
なにより、レースに参加したくても経済的に無理な者に門を開いたのだ。
再びあちらこちらの走り屋、所属チームで陽の当らない若手プロ。チームの事情で、今シーズンのマシンが、古くなったチームなどが、食いつく。
特に、市中の走り屋は、顕著だった。いままでは、マシンが用意できなかったため、諦めてた者たちが、チャレンジする機会に巡りあったのだ。
「マシンがあれば、俺にもチャンスがあるな。駄目でもレーサーに乗れる」
それを見てある、あるイケイケの若手が呟く。
「馬鹿かお前。乗る前に落とされるぞ」
「なんでだよ、俺は少なくとも、ここらじゃ一番速い」
「じゃあこれ見てみろ」
そう言って、先輩ライダーが、一冊のレース雑誌を渡した。
「なんだよ。俺のバイクとかわんない。
俺のレーサーレプリカと形も同じゃないか?」
「ああ、形だけは、似せてる。だがな、計器類を見てみろ」
「計器類って、同じディスプレーじゃないか?」
「違う、次のページだ」
「な、なんだこれ?」
「市販車は、速度、回転数、燃料、トリップ、ギア、ナビ、水温くらいだ」
「今のレーサーは、それにラップタイム、セクタータイム トクション
など3倍以上の情報が表示されるんだ。」
「お前それらを1秒以内に全部判断できるか?」
「そんなの......無理だろう」
「できるからプロだ」
「要項には、”走れるか”という条件があったはずだ。
これらのメーターの使いこなしは、最低条件だろう。
さらにそこから、走れるかだ」
イケイケの若手は、シナシナの若手になった。
「それでも、この条件なら、集まるだろうな」
先輩ライダーの予想通り、集まったのは、玉石混交で、800名。
「集まりましたわね」
雅もここまでとは、思ってなかった。
「どうするつもりだ?まあ、俺は、最終日まで、関知しないがな」
三島は、ニヤニヤと笑ってる。
「まあ、一応1000人までは、準備してましたから」
まずは、いつものように、書類審査を行う。
ここは、形式だけだ。落とすための審査ではない。
レース経験者300名は、走行テストに向かう。
一方レース未経験者500名は、スーパーシミュレーターに向かう。
「ケッ!なんで俺らは、実車じゃないんだよ。差別すんなよ」
不満げに文句を言う。
「安全の為です。不満なら、実車で走ってもらってもいいですが、
マシンは、お持ちですか?」
「ああ?お前のとこで準備してるんだろ?」
「うちのマシンですか?シミュレーターでのテスト無しで
乗車した場合、万一転倒、破損した場合全額弁償になりますが?」
「俺は、そんなヘマしないぞ。ではどうぞ、ただし言っておきますが、
一コケ200万位かかりますが、それでいいですね?」
「馬鹿な、それじゃ新車が買えるじゃないか?ボッタくる気か?」
「アンタ、何も知らないんだな。JSB1000は、一台1000万だぞ。カウルとサス、ブレーキでも300万だ。いいか、部品代だけでだ。工賃は別だ」
別の列に向かってたプロが言った。
「お前のような、レースを舐めてるやつが一番腹がたつ。俺達は速く、しかも、バイクを壊さないようにしなと、レースは続けられないんだ」
一台1000万......。あちらこちらで声が上がる。
「皆さんお静かに。シミュレーターテストで合格された方は、全損させても、免責されますので、ご心配なく」
「ちょっと待て。俺は、そんな事聞いてないぞ」
「すべて皆さんが、書いてもらった承諾書に記載されてますよ」
冷たい目で係員が、答える。
ろくに承諾書も読んでないのだろう。この男は、賞金だけ頭に入れて、読まずにサインしてた。
「どうした、お前実車からやるんだろ?行けよ」
周りから、侮蔑の声が飛ぶ。
「おお、行ってやるわ。俺は、お前等みたいに小心者じゃないからな」
周りから、ヤジられ男も引くに引けないのだろう。実車の列に並ぶ。
しかし、並んで自分が、場違いな場所に立ってる事に気付く。
皆、レーシングスーツにプロテクター装備なのに、自分だけ革ジャンにジーンズ姿。
列に並んでるみんなから、声が聞こえる。
「あいつ、死ぬ気か?」
「レースを舐めてるな」
「場違い位気付かないのか?」
固まっていると後ろから声がかかる。
「おい、あんた」
「な、何だよ、文句あるのか?」
「いや、文句じゃない。列が進んでるんだ。先を詰めろよ」
「ああ、すまねえ」
そう言って男は――
地獄の門をくぐった。




